#7 ベンツ、BMW、そしてボルボ。
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#7 ベンツ、BMW、そしてボルボ。

廣澤やすまさ

今回は、僕がブランドというものに興味を持つきっかけになった、海外の自動車会社のことを書いていきます。1985年〜2000年頃にかけて、僕はフリーランスのコピーライターとして次々と、ベンツ、BMW、アウディ、ボルボ、ローバーグループ4ブランド(ローバー、ランドローバー、ミニ、MG)などの広告制作に関わっていました。ただ、昔のことで記憶も曖昧になっている部分があり、勘違いしているところもあるかもしれず、そこは私見ということでご勘弁を。

まずベンツの話から書いていきます。当時のダイムラー・ベンツ社のスローガンは「最善か無か。(Das Beste oder nichts)」というものでした。「100点か0点か。」みたいなことで、クルマづくりに対するメチャ強い意思を表現したもので、強いインパクトを感じさせてくれました。そして彼らは実際に、実用乗用車の最高峰を作っていたと思います。ちなみにベンツのボンネットとかグリルで象徴となっている「スリーポインテッドスター」という丸に三つ又のマークは、モビリティでの陸海空制覇って意味ですからね。意思は固いのです。

それから数年が経ち、1998年にアメリカのクライスラー社と合併してダイムラー・クライスラーになった時、彼らはスローガンを「人に最善の技術」に変えました。これは日本車の攻勢に対抗するために、「市場のこともを考える」ということだったと思います。「最善か無か。」は、まあプロダクトアウトの典型です。もちろんレベルの高いプロとして、人々のことや社会のことは十分考えていたのですが、お客様のけっこう目先の要求についても考えることにしたわけです。そこでスローガンも変えるって、とっても律儀ですよね。それだけ企業姿勢の伝え方を大事にしているってことだと思い、考えさせられたものです。

その合併のけっこう前、実は90年代の初頭から「人に最善」を考え始めていたベンツの質は、以前に比べてちょっと下がったと思います(僕だけの意見じゃないよね?)。具体的に言うと、ボンネットの裏に貼ってあった防音用の薄いシートが薄くなったか無くなったかしたり、それまで「呼吸するシート」と言われた理由だった馬の毛がシートの中から無くなったりもして、その代わりに2000ccクラスでも500万円を越えていた価格を確か400万円台前半まで落とすことが出来て、売れ行きは伸びたと思います。この時代は、社内でもベンツはこれで良いのか?ってメチャメチャ議論されたんじゃないかと思います。そしてダイムラー・クライスラーの時代を経て、たぶん2015年前後ですけど、スローガンはまた、「最善か無か。」に戻っています。そういうブランドなんですね。

次に、同じドイツのBMW。創業に30年ほどの開きがあるので、BMWにとってベンツは常に先を走るムカツく存在だったと思います。少なくともベンツに対して自分たちは何をすべきか、みたいなことは有ったんじゃないですかね。ベンツが乗用車最高峰という全体論ならば、BMWは走りを強調しようって感じかと思います。それでスローガンが「駆け抜ける歓び(Freude am Fahren)」。もちろん、クルマの基本性能の走行性、操作性、安全性などは、すごく高いレベルを達成した先の話です。

また、もともとベンツのシュツットガルトに対してBMWはミュンヘンで、田舎と都会という違いもあります。そこも走りの強調に重ねて、BMWは都会育ちらしい洗練、躍動感、革新性みたいなイメージを積み重ねてきました。しかもそれはただのイメージではなく、実際のクルマでも表現されていて、例えばベンツがアクセルを踏んだ時に「行くの?それじゃあ」みたいな感じに対して、BMWは「ハイッ!行きます!」てな感じに設計されてる気がします。

この2社の仕事を通じて思ったのは、商品のディティールにまで「自分たちのあり方」を反映させ、それが使う人にもリアルに感じ取れるくらいまで突き詰めるという、ブランドとしての思いの強さでした。それらのいろいろは「あー、これが一流のブランドか。」という尊敬の念を抱かせてくれました。

そしてもう1社、これまた印象的だったのが、ボルボです。1990年の話ですが、時代的には環境問題が大きくなり始めた頃で、日経が環境特集の別刷り版を出すという話があり、それに合わせて新聞広告を作ることになりました。その時に資料として渡されたパンフレットの中にあったのが、「私たちの製品は、公害と、騒音と、廃棄物を生み出しています。」という一文です。自分たちの否を認めながら、その対策を説明し、さらに次の世界をどう良くしようか、というこの姿勢も、やはりブランドとして尊敬に値するものでした。僕らは、この一文をキャッチフレーズとして新聞広告を作り、当時はけっこうな話題になりました(僕はこの広告で賞をいただきましたが、キャッチフレーズの原文は誰かがパンフレット用に英文で書いたもので、そのことはキャッチフレーズのすぐ下に原文と共に明記しましたよ)。

VOLVO新聞広告のコピー

でも、それから30年が経った今、日本の企業や社会の意識は変わったでしょうかね? 企業は行き過ぎた資本主義の弊害には目を背け、広告では熱心に自慢話を繰り広げ、社会は誰かの否をほじくり出してばかりってことは無いですか? 無いですよね? なにはともあれ、ちょうどブランドの意識が世界的に高まってきた1980年代の後半から、こうした立派な考え方に触れられたのは幸いだったと思います。それで僕はそれから、コピーライター→クリエイティブディレクター→ブランドストラテジストという道を歩んでいるわけです。

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廣澤やすまさ
ブランドストラテジスト /クリエイティブディレクター /コピーライター ◆ https://yasumasa-hirosawa.com/