#9 あなたの会社、アタマとカラダは連動してる?
皆さん、企業理念と聞いて何を思い浮かべますか? 僕の場合、社長室に「顧客第一」とか「社会貢献」とかの額が掛かっているヤツなんですけどね。たぶん、社長? 創業者? は、本気でお客様や社会の役に立とうと思って掲げたはずですし、それはそれで良いことなんですけど、けっこう多くはただのお題目になっちゃってるんじゃないかな。ふだんの企業活動に活かしているわけじゃない感じ。なぜでしょう。それはきっと、今やもう当たり前すぎるからです。誰でも分かっていることを言われても、ふつうはスルーされますね。それを言うなら「地球上で最もお客様のことを大切にする」くらいじゃないと効かない。で、社員が「地球上で最もか! そうか!」と思って行動し、それをお客様たちも認めるようになれば、理念に意味が出てくる。ちなみにこれは、Amazonのケースですけどね。
じゃあなぜ理念と活動は一致させた方が良いかといえば、今や人々が企業を見る時に「どんなことを考えているか?」にまで興味を持つようになってきたからで、企業側は自分たちの「あり方」や「思い」をさまざまな活動に反映して伝えるようにすることで、お客様の期待に応えられるからです。つまり商品と共に、考え方や思いにも共感してもらうことが大事です。そして、その考え方や思いはもはやひとつの商品だけのものではなくブランドとしての財産になるので、お客様にブランド自体のファンになってもらうことが可能になります。
そうなればあとは、「#1 ブランディング雑記帳、はじめます。」に「ファンになってもらうというのは買い続けてもらえるということです。ブランドのあり方まで気に入ってもらえれば、良い製品を作っている良いブランドということで、いつも選んでもらえるようになります。さらに熱心なファンになれば、自分が買い続けるだけでなく周りの人に薦めてくれたりもします。そして今はインターネットが発達したので、周りの人だけでなく見知らぬ人にも薦めてくれたりします。」と書いた通りです。
というわけでファンづくりのための理念と活動の連携ですが、順を追って説明していきます。まずは理念からですが、それが額縁にしか居場所が無いような文言だったら、そろそろ現場で活かすことを想像できる文章に変えましょう。それにはいくつかに分けて、体系としてまとめ直すのが良いと思います。このまとめ方には便利なフォーマットがあって、代表的なのがMVVと言われる、ミッション=使命、ビジョン=構想、バリュー=価値観に分けて考えるやり方です。企業理念とか理念体系とか言うよりも目新しいんで、最近はそのままMVVで発表している企業も多いですよね。
MVVではなくてVMVでまとめている企業もあります。こちらはミッションとビジョンを入れ替えてるわけですが、意味的にはビジョンを将来像、ミッションをやるべきこと、としているだけで、本質的にはMVVと同じことです。さらに最近ではパーパスという考え方も使われるようになって来ましたが、「自分たちの目的は? 」ということで、これも本質的にミッションで表そうとすることと変わりません。そういうことで、自分たちがしっくり来る言葉を使えば良いんじゃないかと思います。何なら、順番を変えるのも良いでしょう。価値観をいちばん上位に置くとかね。要は、「自分たちのあり方」を体系的にしっかり固める、ということです。
そういったフォーマットで「自分たちのあり方」をチェックしながらまとめていく際には、
■ 全体として、自分たちらしさがあるか?
■ 提供するものやサービスと合致するか?これからも反映できるか?
■ お客様への姿勢(#8で説明した接点のぜんぶです)で体現できるか?
■ 他社との健全な関係を築けるか?
■ 社員との良好な関係を築けるか?
などをチェックしてください。これらがクリアできれば、その「自分たちのあり方」は企業活動のすべてに関係するものになると思います。
さて、「自分たちのあり方」はうまくまとめられたとして、次に考えるのは企業活動への落とし込みです。それができないとやっぱりお題目止まりですからね。ここで問題になるのは、日本の企業は全体的に、理念と活動をしっかり紐づける意識が低いってことでしょう。その意識を変えていくのがけっこう難しいわけですが、何はともあれ、両者は結びつけるものとして社内に浸透させることが重要です。この浸透に力を注ぐのは面倒で即効性が見えにくいために多くの場合二の次になっているようですが、だからこそブランディングでは優先事項として頑張らないといけません。社内報、周年事業、ネット、朝礼、社長からの手紙といったメディアの活用や、管理職の方々の意欲を高める研修や、部署ごとに理念と活動を結びつけるワークショップの実施などを検討してみてください。
そこまで進めたら、最後に待っているのはお客様への理念のアピールの仕方です。ここでも日本の企業の多くは、そういった「思い」を伝えることに、あまり熱心には取り組んでこなかったように思います。それは、理念的なものが売上げに影響するとは考えていないかったからでしょうが、もう時代はそうじゃない感じです。もちろん、お客様が理念の言葉そのものに接することはあまりなく、その理念から生まれて表現されたさまざまな活動を通じて察することになるので、お客様が察しやすい伝え方を考えることが大事です。そうなると、伝えるためにまあまあ専門的なスキルが必要になり、基本的に外注することが多くなるでしょう。発注する際は、お客様との接点ごとに必ず役に立つプロがいるはずですからその選択を間違えないようにし、「商品」と共に「思い」を売るという趣旨をよく伝えて、お客様にも察してもらえるようにしていってください。
このように、これらのことにはとても大きな意識改革が必要ですし、特にお客様へのアピールはこの先も繰り返し続けていくことになります、だからこそブランディングは難しいのですが、先に取り組んだところはそれだけ良いポジションを得られるはずですので、ぜひともいくつもの高いハードルを飛び越えて、良いブランディングを実現して欲しいと思います。
ブランディングについて、インナーからアウターまでの流れを説明する本を出しました。
ぜひお読みください。