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シンデレラビーグル 家族に出会うまでの8ヶ月
過酷な環境から一時預かりの生活を経て、素敵なパン屋さんの看板犬になるまでの、ビーグル犬のシンデレラストーリー。
ご近所さんにビーグル犬がやってきた
2014年。実家にはコタロウという犬がいました。犬と暮らしている人なら、きっと共感いただけると思うのですが、犬との散歩を通して、四季を感じたり、地域の人との交流が生まれたり、普段なら気付かない地域の変化に気付いたりすることがあります。
毎朝コタロウと散歩する母の様子を見たご近所さんが、犬のいる暮らしに魅力を感じ、犬を家族に迎えたい、と母に相談することもありました。この地域では「犬のことなら●●さんへ」と、ちょっとした犬博士として知られている母。
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そんな時、我が家から数百メートルのところに独りで暮らす、高齢の男性Sさんがビーグルを飼い始めました。母は、さっそくその様子を見に行ったのです。
ジローという名のビーグル犬
Sさんが迎えたビーグル犬のことで、母から電話がありました。庭先の畑の近くで飼われているそうで、その飼育環境に不安がある、と母は言います。
ビーグルの名前はジロー
まだ子犬、1歳未満
猟師さんから譲ってもらったらしい
広めの柵の中で飼われている
屋根がない
様子を見に行くと、とても喜んで飛び跳ねる
ざっと、こういう状況でした。
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特に高齢者の方にとって、犬はペットではなく家畜、という認識の人はまだまだ多いです。うちの祖母も初代犬アトムの頃は、「犬は畜生じゃけぇ、何するか分からん」と言って、あまり距離を縮めたがりませんでした。
私たち家族も、初代犬アトムの時には犬のことをまだよく理解しておらず、夏も雨の日も完全外飼いで、今思えばかわいそうな環境だったな、と胸が痛むこともあります。
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ましてや犬を飼ったことがないSさんにとって、動物は外で過ごすもの。散歩についての認識もありません。母は、毎日の散歩のついでに、ジローの様子を見に行っていました。
ジローの実態
母は、Sさんにあいさつをし、世間話をしつつ、ジローのことも訪ねながら、Sさんと良好な関係を保っていました。
私(母)は犬が好きだから、ジローに会いに来ることを許してほしい
犬のことで分からないことがあったら聞いてほしい
できることがあれば、手伝うので言ってほしい
といったことをSさんに伝えたそうです。そんな母の思いをよそにSさんは
畑を荒らしにくるイノシシ対策に飼っている
エサはやっている
動物だから外でも大丈夫だ
といった具合。母の好意(おせっかい?)を気にすることもなく、また反発するでもなく、こんなもんだ、と思っているようでした。
はじめましてジローちゃん
母がジローのことをとても心配していたので、私も様子を見にいってみました。想像するよりもっと、過酷な状況でした。
はじめましての私にも、喜んで尻尾を振り、吠えて呼び、飛び跳ねます。
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雨が降ると泥だらけになる足元
鎖がひっかかることが多く、ほとんど動けない状態
水もご飯も摂れていない
周りも柵の中も草ぼうぼう
屋根や日陰がないため雨も日差しも防げない
ご飯は、Sさんがときどき、柵の外から投げ入れているようでした。泥の中に散らばるドッグフード。飲み水の容器も、飛び跳ねるジローによって、すぐにひっくりかえります。
せめても、と、母はおやつを持って行ったり、Sさんの了解を得て、散歩をしたり。私も母と一緒に様子を見に行きました。草ぼうぼうで、蚊がブンブン。フィラリアにかからないだろうか?いろいろな心配が積み重なります。
衝撃の事実
ジローとの距離が縮まってきた頃、衝撃の事実が判明しました。ジローという名前のせいで、性別を確認したことがなかったのですが、なんと、ジローは女の子だったのです!
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Sさんが、犬の名前と言えば、で思いついたジローという名前を、性別に関係なく名付けたのだそうです。
ジローからジホへ
女の子と知ってなお、ジローと呼ぶのは忍びない。せっかくなので、かわいい名前で呼んであげたい。私たちのエゴとはいえ、私たちも気持ちをこめて呼んであげたい。
私たち親子は、ジローとよく似た音で、女の子の名前はないだろうか?と考えました。そこで候補にあがったのが「ジホ」。母が好きだった韓国の女優さんの名前です。これなら、Sさんが聞いても「ジロー」に聞こえるし、問題ないだろう、と、その日からジローを「ジホ」と呼ぶことにしました。
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母のことが大好き
根気よく通い詰めてくれた母のことが、誰よりも大好きなジローあらため、ジホ。Sさんに、雨宿りができる屋根くらいは、せめて、と頼んで作ってもらった屋根に乗り、母を待ちます。
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ジホを抱きしめている母の後ろ姿のこの写真が、母の犬への愛情をすべて表現しているようで、好きな1枚です。
冬の出来事
Sさんちのジホを、母がかわいがっていることは地域では知られるところとなりました。Sさんのご近所さんから、「ジホが寂しそうに鳴いている」と母のもとへ連絡が入ったり、ジホの様子を地域の人が母に知らせてくれることもありました。
ジホと出会って数ヶ月経った冬の出来事です。ひとり暮らしのSさんの家の敷地内にあった農機具の小屋が、火事になってしまったのです。
この小屋は、ジホの暮らす場所のすぐそばにあります。Sさんの近所の人がジホを救出してくれました。隣にあったニワトリ小屋は焼けてしまったそう。ジホは、すんでのところで救出されたのでした。
Sさんも怪我なく無事でした。
ようこそジホちゃん
救出してくれたご近所さんが、ジホを我が家に連れてきました。Sさんも、預かって欲しい、とのことで、こうして突然、ジホはうちの子になったのです。
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なんという因果でしょうか。これまで母は、根気強くSさんとの良好な関係を保ちながら、おせっかいになりすぎないように、だけど現代の犬との暮らしも伝え続け、少しずつ改善し、ジホをなんとかいい環境で暮らさせてあげたい、と願っていました。
火事になってしまった事実は本当に残念なことです。ですが、誰も犠牲にならず、ジホを救出できた。答えのない長い課題だったことが、ひょんなことで、ジホにとっての解決に向かうことになったのです。
健康的にふっくらしよう
救出された当時のジホは、ガリガリに痩せていました。
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いつも飢えていたジホは、食欲旺盛。私たちの心配をよそに、少しずつ確実に、体重を増やしていきました。
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ジホとの日々
ジホは、とても愛嬌が良く、人が大好き。子どもなので力も有り余っています。とにかく元気いっぱい。当時我が家にいたコタロウとも相性はよく(というか、コタロウは無関心 笑)、一緒に散歩もします。
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散歩で通りがかる、前の家(Sさん宅)に帰りたがることもなく、寂しがることもなく、我が家ですくすくと育ちました。
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近所の人気者
ときどき近所の小学生たちが我が家に遊びに来ることがありました。人懐こいジホは、小学生にかわいがられ、すぐに人気者に。
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すっかりビーグルらしく
火事の冬から年が明け、春になりジホはすっかりビーグルらしいぷりぷりとした体形になり、毛ツヤもよくなりました。
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前の飼い主のSさんは、というと、その後の立て直しなどでバタバタしているため、ジホのことは我が家に任せる、ということでした。
母は、犬の保護活動をしている仲間を通して、ジホの里親を探すことにしました。
里親探しと顔合わせ
急ぐことはなかったので、じっくり探しました。特に、ビーグルの特性をよく理解している人に引き取ってもらいたいと思いました。
そこで、1組のご夫婦にたどりつきました。聞くところによると、いつかビーグルを迎えたいと思っていた、という、森でパン屋さんを営んでいるご夫婦でした。
私たちはジホを連れて、顔合わせに行くことにしました。ジホを車に乗せ、里親候補のお宅へ向かいます。
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そこは我が家よりももっと自然豊かな場所でした。お隣さんもはるか遠く。これなら、声が大きめなビーグルのジホが吠えても、大丈夫。
ご夫婦も、とても素敵な人たちで、すぐにトライアルの散歩に行ってくださいました。随分長い時間散歩され、楽しかったようです。
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いろいろなことを確認しあい、今後の準備を進め、あらためて、譲渡となることになりました。
寂しいね
たった8ヶ月とはいえ、ジホがいた暮らしはとても明るく、笑いの絶えないものでした。私が帰宅するたびに、全力で喜んでくれたジホ。そばに行くと、必ず体をすりよせてくるジホ。散歩のあいまの休憩には、脚の間に座るジホ。
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うちにはコタロウがいたので、順序を分からってもらうためにも、何をするのもまずコタロウ、そしてジホ、という順番にしていました。私が帰宅したときも、まずコタロウに声をかけて撫でてやり、その後でジホと遊んでいました。
でも、いつも一番にかわいがってあげられなくてごめんね、という気持ちがありました。
だから、里親が見つかって本当に嬉しかったです。一番にかわいがってくれる家族に出会えるのだと思うと、寂しいけど、ほっとする気持ちの方が大きいです。
保護犬を迎えたり、里親になったりしてきた我が家にとって、この子たちを救った気持ちになるのですが、救われているのはいつも私たちのほうでした。愛してくれてありがとう。私を私のまま、受け入れてくれてありがとう。そう思います。
新しい家で
我が家で保護した翌年の夏、ジホは森のパン屋さんの子になりました。新しい名前をもらいましたよ。「ルーシィ」だそう。いい名前をもらったね!
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今もパン屋さんの看板犬として、元気に過ごしていることでしょう。記事を書いていたら、そろそろ会いに行ってみたくなりました。覚えていてくれるかな?
あとがき
ジホのことはすべて、母の愛情からくる行動です。私はこうして記録を残してきただけ。ときどき散歩して、かわいがっていただけ。母の犬への愛情には、毎回頭が下がります。
近所にちょっと心配な犬がいる。そこからとった母の行動は
飼い主さんとの良好な関係を保ち続ける
犬の様子を見に行く
改善を提案する
といったことでした。どこかに通報したり、保護を強行したり、ということではありません。何よりも、飼い主Sさんとの関係を保ち続けたことが、一番大きかったのだと思います。
世間話をし、近所づきあいをし、Sさんからもジホからも信頼を得ていく。簡単なことではありません。私にはとうていできることではなく、「仕方ない」で済ませて目をつむっていたかもしれません。
今回のようにハプニングがあって我が家に来たことは、ジホにとってはとても幸運なことでしたが、これは珍しいパターンでしょう。世の中にはまだまだ、過酷な飼育状況の犬がいると聞きます。目をそむけたくなる事実です。
私にできることは小さいけれど、母への感謝と、犬たちの幸せを願って、これからもこうして記録していこうと思います。
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これまでの我が家の保護犬の記録はこちらのマガジンにまとめています。ぜひジホと暮らしたコタロウのこと、現在の愛犬すずのこと、読んでいただけたら嬉しいです!
フィンランド情報のリサーチと執筆への活力に、記事でまたお返ししていきたいと思います。また、犬猫の保護活動団体に寄付することもあります。