見出し画像

さよなら、2020のアビスパ

かなり時間が経ってしまいましたが、2020シーズンのアビスパのシーズンレビューを投稿します。当初考えていたよりずっと長くなってしまいましたので、まず、シーズンの総括的な部分についてお話していきたいと思います。需要があれば、ターニングポイントとなった数試合についても近いうちに投稿するかも・・・しれません。では、はじめます。

キーワードは「継続」と「変化」

2020シーズンのアビスパを語るにあたり、外せない点として挙げられるのは、「継続」と「変化」だと自分は考えています。これから、その「継続」と「変化」について述べていきたいと思います。

「継続」

まずは、継続について。アビスパがシーズンを通してきたものとして、大きなものが2つあります。それは「システム」と「スタイル」です。

最初はシステムです。4-4-2で中盤はボックス。つまりボランチ2枚とSH2枚でトップ下を置かず、FWは2枚の形です。

このシステムのメリットは、ピッチに均等にプレイヤーを配置できることや、それに関連して、下図のように相手が攻撃してくる際にFWーMFーDFの守備の3ラインを形成しやすいことが挙げられます。

画像3

また、デメリットとしては、前述したように、バランスの良い配置であることから、3-6-1や、4-3-3のように、中盤や前線に数的優位を作ることに重心を置くチーム相手に対しては、局地戦で数的不利を強いられることも多く、実際にそうしたシステムを採用するチーム相手には、チームに戦術がまだ浸透していなかった序盤に苦戦、もしくは敗戦しています。

画像1

画像2

たとえば上図のように3-6-1であれば2シャドーとWBのところで必ず数的不利が発生し、また、4-3-3であれば相手のアンカーの所がフリーになることが多くなる、というふうに局地的な数的不利が発生しているのがご覧いただけると思います。

こうした不利な点を内包しつつも、長谷部監督はこのシステムを維持してきました。それは、このシステムとそこで戦う選手なら問題点を解決し、J1に辿りつける、という強い意志と自信があったからだと思います。

勿論、アビスパが採用した4-4-2だけでなく、システムには必ず一長一短があります。長谷部監督は、メリットを最大化し、そしてデメリットを最小化するために、その守備を磨いてきました。その点については、後に述べる「変化」の中で重点的に詳しくお話したいと思います。

次にふれたいのは、その「スタイル」です。2020シーズンのアビスパをメディアなどが形容する時には必ず、「堅守速攻」という文言を使いますが、これは当たらずしも遠からず、といったところでしょうか。


勿論、リーグ最少の失点という「堅守」の方は間違いありません。ではもう一つの「速攻」というところはどうでしょうか。言葉のイメージとして、相手の攻撃に耐えて何度か繰り出す速いカウンター、というものがあるのではないでしょうか?


ここで、Football LABのデータを見てみたいと思います。2020シーズンのアビスパの1試合あたりの攻撃回数は120.2回と多く、リーグでも5位の成績です。たぶん皆さんが思われてるよりも多い回数ではないでしょうか。ただ、シュート数は12.1本、チャンスの構築率は10.1%と、どちらもリーグ14位の低めの水準です。


つまり、攻撃回数は数多く作るものの、中々シュートに結びつかないことが多いことが見てとれます。これを掘り下げて考えると、敵陣にてボールを奪取するか、自陣にてボールを得れば、相手陣内に素早くボールを運ぶものの、そこから崩しにチャレンジする姿が浮かび上がってきます。シーズン後半に、パスの本数が若干ですが増加傾向にあったのは、そのチャレンジの継続と、J1昇格後を見越しての崩しの形のバリエーションの構築といった面があったのではないか、と自分は推測しています。


こうしたスタイルを無理に表現すれば、「堅守中攻」、といったところでしょうか。かなり語呂的にはよろしくないとは思いますが。

長谷部監督は、こうした「システム」や「スタイル」を「継続」していくことでチームを熟成し、J1へと導いていきました。

「変化」

それでは、次の「変化」の部分について述べていきたいと思います。


シーズン中に大きく変化したのは「守備」です。前項までお読みになった方はおや?と思われるかもしれません。堅守は継続したスタイルだったのではないかと。

確かに、堅守は継続してきましたが、その内容とクオリティは変化を続けてきました。

リーグ前半では、グローリと上島を中心とした4バックによる、最終ラインでのタックルや跳ね返す守備がかなり多くありました。この2CBは空中戦、特に自陣における空中戦の勝率は、この二人がリーグでのトップ3に入っていることから、その凄さがわかるというものです。しかし、裏返すと、それだけ最終ラインにおける守備の重要度が高く、ともすれば個の能力に頼った属人的な守備だったといえます。

この理由としては、

①前線からハイプレスに行くものの、連動性が確立されていなかったことにより侵入を許してしまっていた

②ボランチのフィルタリング不足

③ポジションのズレによるSHの守備の抜け穴

といったものが挙げられます。リーグ中盤までに、かなりの精度でこの部分が改善されたことが連勝や、終盤で大崩れしなかったことにつながったと思われます。このことについて、一つずつふれていくこととします。

最初に①とその変化について述べていきます。当初は前線からプレッシャーをかけるようとしても、ボールホルダーに速いプレスに行くだけになることが多く、かわされてしまい、中盤での数的不利や、最終ラインまでのドリブルを許してしまう、といった状況となっていました。

これは、②や③とも関連していきますが、2トップがプレスをかけても、SHが適切な位置取りや、ボランチが高い位置を取れていなかったことなどから、ボールを「サイドで獲る」ことや「ボランチで獲る」といった守備を確立できていなかったことが原因の一つとして挙げられます。

この点については、シーズン中盤以降は松本の加入、そして終盤にかけてはSHの位置取りの改善もあり、「サイドで獲る」か「ボランチで獲る」かでコースを限定、かなりの割合でボールを奪取できるようになり、前や重廣の復帰以降はさらに高い位置でのそれも可能となりました。

これが、まず一つ目の変化です。

次に②です。これも①と関連してくるところですが、リーグ序盤でも、「ボランチで獲る」プレスをかけられたときでも、フィルタリングができないことにより、相手の中央からの突破を許してしまうことが多々ありました。

これは惇と草民がダブルボランチを組んでいたときが顕著でしたが、これはけして二人の能力が低いというわけではなく、戦術との相性という面があると思います。二人とも展開力に優れたプレーヤーであるため、ボランチで使われること自体は違和感のない選択といえるからです。

ただ、惇に関しては大分で活躍していた時を思い出していただいたらわかるように、アンカーや、ボランチの場合でも、少し下がった位置で相手からのプレスを受けにくい場所からの組み立てを得意としています。

また、草民にしても、中盤を無難にこなせるスキルを持ってはいますが、もともと本職はサイドアタッカーです。全方位からプレッシャーを受ける可能性がある中で360°の視界を保ち続けるプレーを続けるのはかなり厳しかったのではないでしょうか。

現に、リーグ終盤にSHに戻った草民はかなりの活躍を見せました。これは、タッチラインでピッチが区切られてることから、視界の確保が180°近くでよいことも影響していたと思われます。加えて、草民はボランチを経験していたことで、守備力、特にボール奪取能力を伸ばすという副産物を得ることができました。これにより、苦手だった3バック相手にもSHの草民が中に絞ることで守備時に4-3-3に可変することができるようになり、相手中盤に対して数的同数もしくは優位を作れるようになりました。

このフィルタリングの問題は、松本の加入、そして前、重廣の復帰により次第に解決を見ました。これは3人の特性に寄るところが大きいと思われます。彼らのポジションは日本ではボランチと言いますが、的確に表現するのであればCMFではないかと自分は考えています。

まずボランチとは、といったところに注目してみたいと思います。不思議なことに日本におけるその言葉の浸透具合とは逆に、いまだ定義に論争があるほどその役割は曖昧模糊としています。ある人は守備的なMF、またある人は攻撃と守備のリンクマン、そしてまたある人は攻撃のスイッチャー、ついにはこれら全部を含めたポジション、といったややオーバータスク気味な主張をする人もいます。これはボランチという言葉が入ってきた際に、その訳となる「舵取り」といった言葉に万能感を込めてしまったのではないかと思います。ある意味多様な外国からの概念が共存する日本のサッカーらしい、といえばらしいですね。

前置きが長くなりました。本題のCMFについてふれたいと思います。このポジションについては、欧州、特にプレミアリーグで活躍している選手をイメージすると分かりやすいかと思いますが、ポグバやカンテなどが代表的な選手にあたります。

こうした選手の特徴として、運動量や技術は勿論のことですが、守備面では高目の位置をキープしつつも、下がることなくボールを奪取し、攻撃面では最終ラインと前線を繋ぐ能力が非常に高いことが挙げられます。特に前者の守備面においては、その能力をもってフィルタリングに貢献することで、ショートカウンターの起点になることも増え、攻撃面に関してもプラスの効果をもたらします。

長谷部監督のサッカーでは「アグレッシブ」さを求められます。監督の戦術と親和性の高いボランチ(ここでは敢えてそう書きますが)として求められていたのは、前述した、CMFのような高い位置でのポジショニングと、ボールの奪取能力であったと考えられます。

自分は、前と重廣、そして松本は、こうした能力を備えているとして、長谷部監督は起用していたのではないかと考えます。一部のアビスパサポーターでは彼らの特徴をとらえてルンバ1号、2号、3号と呼んでいたのはここだけの秘密です。

最後に③に挙げたポジションのズレによるSHの守備の抜け穴について書いていきたいと思います。

シーズン終盤にかかるに従って、石津と朝陽が起用される割合が多くなりましたが、これは攻撃面に関して、左でキープできる石津、右で突破できる朝陽、と左右にて攻撃の幅を持たせたいという面もあったとは思いますが、それに加えて、序盤に見せていた守備の抜け穴を克服したことが大きいと見ています。

ここでは、石津についてふれることとします。守備が改善される前の石津は、逆サイドにボールがある時、自分がマークすべき相手について行ってしまうか、ボールを注視してしまい、中に入りすぎてしまうことがままありました。特に、中に入ってしまった時には、相手SBに裏を取られることが多く、下図のように、文字通りの「抜け穴」となっていました。

画像4

これが、中盤にはかなり改善され、次の図のように、ボールと相手が同一視野に入るようなポジショニングを取れるようになったことで、簡単にパスが渡らなくなり、また、パスが通ってしまった場合でも、相手をきちんと視野に入れていることから、きちんと守備に入れる状況が増えていきました。これにより、「サイドで獲る」ことが可能になり、「抜け穴」を防ぐことに成功した、という訳です。

画像5

これは、朝陽にも同じことがいえます。彼に関しては、持ち前のスピードを活かした突破力がありますので、下がった位置からでもドリブルや味方のロングパス等で相手陣内に持ち出せる、といった彼の持ち味をいかんなく発揮できることとなり、プレーヤーとしての成長という相乗効果を得ることができました。

この項の最初に、リーグ前半の守備は属人的であったと述べました。しかし、①、②、③で挙げたような守備の改善や質の向上があったことにより、段々と整備され、最終的には組織で守れるチームへと成長していきました。まさしく、これは「変化」と呼べるものではないでしょうか。

こんにちは、2021のアビスパ

何人かの選手が去り、そして何人かの選手が加入し、2021のアビスパが誕生しました。選手はこれからキャンプインし、長谷部監督のもと、また新たなチームを見せてくれることでしょう。少しの寂しさと、大きな期待を込めて、この言葉でシーズンレビューを締めたいと思います。

さよなら、2020のアビスパ。こんにちは、2021のアビスパ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?