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スキ! になると怖くなる【第3話】

手を上げては見たものの、何から話せばいいんだろう。そうだった。あのときの私の判断は間違っていなかったかどうか聞いてみよう。

「2年前に別れた彼がいるんです。最初はすごく相性が良くて仲良かったんですが、あるときから疎遠になってしまって……。たぶん縁がなかったんだろうなって思って先生にそこのところをお尋ねしたいと思って……」

「それだけではわからないです。もう少し話を聴かせてください」

「えっと……。どこで疎遠になったかはわからないんですけど……、彼のお仕事が忙しくなってきてだんだんと逢えなくなったあたりから。メッセージのやり取りが減ってきていつの間にか連絡が途絶えてそれっきりです。

たぶん彼、ワタシのこと、そんなに好きじゃなかったと思うんです。その証拠に終わりのほうはワタシがメッセージを送っても返事が遅くなっていったから、たぶん」

私には確信があった。自分は彼との相性合ってると最初は思ってた。けどだんだんと彼のほうが冷めていったんだと思う。

「……、たぶんそれ違うと思います。というのは愛さんはとってもチャーミングで魅力的だからです」

そんな……ゼッタイそんなことない。私は首を横に振った。

「じゃ、ちょっと周りの男性に聞いてみましょう。もし愛さんがみなさんに好意を寄せていたとしましょう。皆さんは愛さんのことどう思いますか」

「すごくステキな方と思います」
「チャーミングで話してみたいなって思います」
「きっとその彼も愛さんに好意を寄せていたと思います」

「愛さんはとっても魅力的で、人柄もいいって皆さん言っていますよ」

ちがうちがう。そんなんじゃない。

「そんなことないです。彼きっと愛想を着かしたんです、きっと。私に魅力がないから彼、離れていったんです」

ワタシは思いつくまま返答した。そう言うと、マダムれいこさんは夫のひろさんと相づちを打つように目配せし、思いも寄らぬことを言ってきた。

「愛さん、ほんとうは怖かったんじゃないですか」

「えっ、そんなことないです」

「そうですか。でも愛さんのからだはそう言っていますよ」

「……」

「ぼくもそう思います。たぶん彼、愛さんのこと嫌ったんじゃないと思います。仕事が立て込んできて、余裕がなかった。ほかに好きになった人ができたとかじゃない。だって男性のぼくから見ても愛さんはとっても優しくて愛らしい人だから」

「そんな……」

そう言っていると、涙があふれてきた。えっ、なんでだろ。もうきれいさっぱり未練はないから悲しいはずないのに。。。

「愛さんは怖かったんですね、彼が離れていくのを見るのは。だから自分から身を引いた。彼の気持ちが冷めたことにして。

でもほんとうは彼のことすごく好きだったのね、それはいまでも。だから忘れきれない。その気持ちを持っているからここに来たんですね」

そうなのかな。そうかもしれない。でも……

「愛さんは愛される資格がある。愛されてもいい。そう想えたときに理想のパートナーは現れます。それはシンデレラのように。私も怖かったからあなたのことがよくわかります」

そう言われて何かがストンと落ちた。仕事やヨガにと忙しくしていたのも彼を忘れようとしてたからかも。

「だいじょうぶ、愛さんにはいい人が現れますよ」

ひろさんが私の背中を押してくれ、私はイスに座った。

「人は求められても、自分は愛されない、求めてくれない、そう思う人は少なくありません。だから人を好きになっても言わなかったり、自ら去っていったりします。

けれども自分を大切にし、愛されてもいいと芯から想えたとき、そのときからあなたの物語がはじまり、人生は変わっていきます。

愛さん、ステキな彼を見つけてください。そして今度はその手をゆるめないでくださいね」

人を好きになることシリーズおわり
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《解説》
この話は、これまで私たちのところにお越しになったクライアントの方の事例をもとに、複数のキャラクターを混ぜ合わせて話を再構築したものです。

物語を創るのにあたっては、私たち側からではなく、主人公側から初めて描いてみました。描いてみてわかったことは、自分の本心は自分自身がほんとうは知っていること。口では違うと言っていて、そう思っていたとしても、実際はそうではない。そこのところを言い当てられたとき、ぎゅっと結んでいた心の結び目がほどけていく感覚を感じました。

愛さんのような女性や男性は多いです。ほんのちょっと勇気を出して、自分の気持ちを伝えていったとき、思わぬ展開がはじまります。もしもあなたの気持ちが相手に届きはじめたら、それが出逢いのはじまり。SNSのリアクションや表情だけで状況や人を判断せず、素直になってみましょう。そうしたら夢の扉は開いていきますよ。


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