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倫敦1988-1989〈7〉ポートベローでお買い物

狂乱ライブの翌日、エディとマイロがポートベローのアンティークマーケットに行くというのでついて行く。エディとマイロは意外といい家の子らしく、金がなくなると親にもらった銀製品なんかを売り払っているらしい。本当にもらったのかどうかも疑わしい。

ノッティングヒルゲートの駅をでると、かなりの人混みだった。「ここはスリが多いから気をつけろよ。おまえなんか田舎者丸出しだから」とマイロに言われムカっ腹が立つ。マイロ自身はウェストポーチを締めてイキっているがクソダサい。今日のエディとマイロの目的は顔見知りの古物商に銀のティーセットを売りつけることだ。

そのティーセットは元はと言えばエディんちに代々伝わる由緒あるもので、エディとMちゃんの婚約祝いとして譲り受けたものである。高らかに婚約した!と両親に宣言した2人だが、実際は何だかグズグズしており、いつ結婚するのか皆目分からない。Mちゃんはエディがちゃんと働かなくちゃイヤだというし、エディはMちゃんがちゃんと働いてるからいいじゃないかという。一向にラチが開かず、婚約詐欺みたいになっているのだが、さらにエディとMちゃんはこのティーセットを売り払って金に変えようとしている。
スペインでピンチョスが食べたいそうだ。他人事ながら先祖泣かせだと思う。

古物商のオヤジはみるからに人が悪そうだった。値段の交渉なんぞ見ていてもつまらないので、自分のものを探しにいく。アンティークの指輪。紅く光るガーネットが美しい。コスチュームジュエリーというのか凝った細工のブローチやピアス。豹柄ファーのハンドバッグ。円高の時期でもあり驚く程安く感じた。ジミヘンが着ていたようなナポレオンジャケット!これにフレアスカートを合わせたら可愛かろう。

ついつい買い物に夢中になってハッ!とした。貴重品は大丈夫だろうか?慌ててバッグをまさぐると無事であった。むこうからマイロとエディがヘラヘラ歩いて来るのが見えたので「売れた?」と聞くと「バッチリよ」との
返事。そりゃあ良かった…とマイロの腰のあたりを見るとウェストポーチがダラン…とぶら下がっている。指摘するとダチョウ倶楽部の熱湯風呂並みに大慌てでポーチをはずすが哀れカッターでバッサリやられている。

切口から札を抜かれたようで「オレの〇〇£が!」とエディが膝をつく。「マイロ!しっかり見てろよ!」とマイロをなじるが、そもそもマイロなんかに金を預けたお前が悪い。「帰ったらMにころされる…」とふるえる2人。これ以上ダメージを与えたくなかったので2人がだいぶ買い叩かれたであろうことは黙っていた。似たようなティーセットを見た限りでは、さっきエディが言っていた買取値はあまりにも安い。

仕方ないので最寄りのパブでギネスを奢ってやった。「田舎者に乾杯〜!」とグラスをぶつけると、マイロがイヤ〜な顔をした。その晩、案の定エディはMちゃんの家を追い出され、マイロんちの暖炉のまえで身を寄せ合って眠ったらしい。仕方なし。

          〈つづく〉

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