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他人を助けて自分が救われる「コインランドリー」

 久々にコインランドリーに行った。去年の12月に起きた不運な交通事故のことで頭がいっぱいだった。体調も悪くヒマな時間があるせいか、人生の来し方や残りの命の使い道などを考えて、すっかり屈託した心持ちでいた。

 ふと気が付くと奥の方で「コマリマシタ。ドウシマショウ」と女性が声を上げているのだった。私が奥に行ってみると、外国の女性が片言で、洗剤を買うつもりがプリペイドカードの自販機に1000円を入れてしまったという。

その外国女性は「コノバンゴウニ デンワスルノデ、カワリニハナシテモラエマスカ?」と言う。

電話を代わって話をしたが、いつまでたっても、らちがあかない。結局その1000円はもどってこないという結論だった。

困り果てた彼女の顔と、周囲にいる2~3人の心配そうな視線の中、すばらしいアイデアが天から降ってきた。

「私が2000円入れて、3000円のプリペイドカードを買うんです。そしてあなたに1000円もどすのです。損をする人はだれもいません」

不安そうな顔をして私の説明を聞いていた女性の顔が、明るくなった。

「アナタハ シンセツナヒトデス。アリガトウゴザイマス」

 コインランドリーから帰る道々、行く時と違って、心が晴れ晴れとして体には力がみなぎっているようだった。あの場に居合わせていた、心配そうな人々の顔が、いっせいに安どの色を浮かべたせいもあるだろう。解決策が6秒でひらめいて得意だったせいもあろう。外国人女性の喜びと感謝の笑顔がうれしかったせいもある。

しかし、一番うれしかったのは「人間は自分の苦しみだけにとらわれていると、なおさら苦しくなるが、他人を助けたとたんに自分の苦しみは忘れられる」という事実であった。


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