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【今日のコラム:熱く切ない投手】

1986年当時、僕らは小学6年生。
当時はファミコンが大流行。スーパーマリオにF1サーキットなど、
あらゆる楽しめるソフトが盛りだくさんであった。
1986年、私たちの心を大きく奪ったのが「ファミスタ」であった。
ファミスタとはファミリースタジアムの略で、当時ナムコから出た、
プロ野球ゲームソフトであった。
 
私たち世代は、そこまでプロ野球にハマっていなかったが、逆輸入とでもいおうか、ファミスタからプロ野球に興味を持ち、野球を始める子供が多かった。
みんなそれぞれのキャラクター(選手)を推し、よく真似たものだ。
私は落合選手の広角打法が好きで彼の真似をしたり、友人はバースやブーマーの真似をしていた。
 
実際、真似事だけでは飽き足らず、岡の広場で、軟球野球の試合をしようということになった。私たちの世代はベビーブームであったので、子どもは多く、9対9のチームは容易にそろった。みんな、ファミスタ並び本物のプロ野球選手に憧れ試合が出来るということでワクワクであった。
 
一番ワクワクしていた奴がいて、そいつは運動音痴の所謂オタク、であるが、江川のカーブに魅了され、止せばよいのに先発ピッチャーに立候補した。もちろん、投げ方は「女投げ(ジェンダーに引っかかるが)」。奇妙なフォームでカーブと直球で勝負に臨むのだが、カーブは遅いだけで実際曲がっておらず、直球も50kmと遅い。
 
試合が始まり、先行であった我々は、そのオタクピッチャーと対峙することになった。

オタクKは、上記変なフォーム+緊張で、3者連続フォアボール。そして、4番のFくん(Fくんはゲーリーを真似ていた)。オタクKの曲がらないカーブがど真ん中に入り、Fくんは初級満塁ホームラン、4点をもぎ取った。続いて私、超遅い低めの直球をフェンス越えのホームラン、続くKくんはオグリビースタイルで曲がらないカーブをセンター方向にさく越えホームラン、3者連続ホームランで6点をもぎ取った。オタクKはワンアウトも取れず、マウンドを泣きながら(ほんとに泣いていた)去っていった。
 
オタクKの江川への淡い思いは3発の長打で、あっさり、かろやかに敗れ去った。
曲がらないカーブほど打ちやすい球はないし、カーブと直球の速度差がないストレートも楽々打てた。バッティングセンターの低学年向けの遅い球と同じだ。
野球は甘くないことをオタクKに知らしめる結果となった。
 
傍から見ると、まるで虐められてピッチャーにならされ、それを我々が3連発した格好に見えたかもしれないが、上記のとおり、先発に躍り出たのは彼本人である。
 
それ以来、オタクKの家でファミスタをすることなく、こんどはファミテニ(ファミリーテニス)をすることになったのだ。
 
彼は、今度はマッケンローに夢をのせていた。

 
そのあとどうなったのは、ここで書かずともおわかりだろう。
 
 

つづく
 
 
 
追記)オタクKは、打者の際、正田をまね、セーフティーバントをしかけたが、ピッチャー真ん前にとび、1塁に投げずオタクKに直接こっつけた。本当の野球ならセーフなのだが、我々のルールでは球をぶつけられた打者はアウトであった。泣きっ面に蜂とはこのことだ。



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