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【熱烈な兄 エピソードⅢ】

中学1年生を、兄の半面を脅威し、私はなるべく穏やかで「普通」な学生であることを努めていたが(努める必要はない、もともと穏やかだ)、先輩ヤンキーから、ほぼ毎日、相談というか、伝言役として期待されていた。これまで恐ろしくて兄に相談できないことを、私を通して(兄と面と向かわずに)知らせることが出来るからである。
 
その日も先輩ヤンキー田中(仮名)より、伝言を承る。
「やばいんです、弟様、××中と○○中が手を組んで、わが光枝中学(仮名)を攻めてくるという情報が入っています。お兄さんに、OB総出で対抗できないか、聞いてみてくれませんか?」
 
やれやれである。
 
一応は承った相談なので、気は向かないが、若葉とコーラとダサいクッションが立ち込める兄の部屋に向かう。というか、兄の部屋を訪れるのは何年ぶりであったであろうか?
 
兄の部屋をノックする。
「はいよ」と甲高く落ち着いた兄の返答があった。
「おう、ヒロシか入ってこい」
恐る恐る扉を開け、兄の部屋の扉をあける。
 
富士山中腹のような霧がかった(もちろん実際は煙草の煙)部屋を見渡す。
兄はダボダボのトレーナーと引退した筈なのに、ドカンという不良ならではの学生服(下)を履いており、加えタバコで麻雀を打っていた。なぜか、周りには洋ランを来た舎弟らしき男が4人ほど、後ろに腕を組んで、麻雀卓を囲って、見守っていた。
なんで、この人達、立っているのであろう?
のちのち判明したが(憶測であるが)、まず洋ランを着ているので座れない。そして、兄の麻雀相手の手打ちを見ては、信号を送っていたのであろう。通りで、兄の卓には、麻雀ピンがたくさん溢れていた(勝っていた)のだ。間違いない。
また、部屋中には柏原芳恵や高田みづえ、デビューしたての松田聖子の、ヌードに近い、水着を着たポスターがあたり一面貼られていた。部屋の上部のハリには空になった若葉の箱が100個以上、並べられていた。カッコいいどころか、恐ろしくて足がすくんだ。私が住んでいる家に、このような異空間があるとは。まず、こやつら(洋ラン4人含め)、いつの間に、我が家に入ってきたのか。そういえば、玄関のかかとを踏んだチョン靴が並べてあったな。その中に同じくかかとが踏まれた、ピカピカの白い尖ったエナメル革靴も並べられていたな。あれは社会人(?)になった兄の革靴に違いない。しかし、エナメル革靴を踏んであるくとは。。

あたりまえの光景


 
なんか用事か、ヒロシ?
そう甲高くもドスの効いた声で尋ねられて背筋が凍ったが、気を引き締め、田中(仮名)の要件を伝えた。私はいったい何をやっているのであろう?
そんなのテメエらで決着せえ!と伝えとけ、ボケが!
と、なぜか私が怒鳴られる始末となった。
 
しかし、そこは人情味の正義の味方、後輩思いの兄は、携帯のない時代に、数分で他行の進撃を止めさせたのである。どうやって阻止したのか?舎弟の派閥か何かなのか?
疑問を頂きながらも、兄の偉大さ(いささか腑に落ちないが)を痛感するのであった。
 
 
 
何は「北九州を統一していた」のである。
 
 
つづく



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