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リドリー・スコットの歴史大作「ナポレオン」を観に行ってきた。

映画なんて年に一回でも観に行けばいい方。そんな私が珍しく観に行ったのが、歴史大作「ナポレオン」。
 鑑賞料が2000円とやや高いと思い、しかも上映時間は2時間半にも及ぶ。それだけの時間、座席に座りつづけてケツを痛めて観に行った価値があったかといえば、私の答えはYesと思う。もちろん賛否両論あることは承知している。

ナポレオンの私的生活、ジョゼフィーヌとの交流。
 この映画ではナポレオンの私的な側面がわりと強調されています。とくに妻ジョゼフィーヌとの交流でしょう。なかには、こんなに露骨に性描写さらしていいの? と思えるような箇所もあった。おそらくナポレオンという人物の人間らしさを、その奇行をふくめて描くことに監督は注力したのでしょう。
 理由があって妻とは離縁するものの、その後も文通などで交流しており、ナポレオンにとって欠かせない存在だったようだ。

砲兵の重要性と圧倒的火力戦の時代
 
時代は18世紀後半〜19世紀初頭日本ではちょんまげの武士の時代に、ヨーロッパでは凄まじいレベルの対外戦争が行われていたことがよく分かる。とくに重要な火器が、大砲、臼砲である。
 敵と向かい合っての会戦のシーンでは、序盤に大砲で射程内に収めた敵の陣地を叩き、それから歩兵と騎兵を展開させていくような流れである。劇中では激しい砲撃で味方が吹き飛ばされているのに、すぐに隊列を整え直したり、軍楽隊は砲撃に動ずることもなくドラムを打ち続けているシーンは印象的でした。圧倒的無情ともいえる戦争の残酷さが伝わってきます。
 アウステルリッツの三帝会戦とか、ワーテルローの戦いとか、むかし世界史の授業で習ったような字面の知識が、このような圧倒的リアリティーのもとで再現されるのは感慨深いものがありましたね。
 一介の砲兵将校にすぎなかったナポレオンが、このように目覚ましい戦果を挙げることができたのは、砲兵を巧みに操ったナポレオンの技量によるところもあったのでしょう。

当時の通信事情と戦場に欠かせない軍馬
 
当たり前のことながら、その当時に無線も有線通信も存在しない。伝書鳩すら活用されていなかったようだ。連絡は、望遠鏡を携えて馬を駆る斥候によって行われていたことが分かる。戦場において将軍たちは、そうした斥候を方方に派遣して情報を集め、作戦の推移を見守っていたようだ。
 そういえばアウステルリッツの会戦では、兵士たちがランタンを用いて信号のような使い方をしていたシーンがあった。
 また、戦場には欠かせないのが軍馬たちである。もっとも、騎乗を許されているのは騎兵と上級指揮官のみだっただろうが、よくこれほど巧みに馬を操っていたなと思える。日本でも大河ドラマ等で馬を駆るシーンは描かれるが、いかんせんスケールがぜんぜん違う。一方、人間同士の争いのために酷使され、犠牲にされていく馬たちがどこか可愛そうでもあります。

以上のように、いろいろな観点からこの映画を楽しむことができると思う。個人的に、リドリー・スコットの映画で好きな作品は「G.Iジェーン」(1997)や「ブラックホークダウン」(2001)の方でした。歴史ものでは、「グラディエーター」(2000)や「キングダム・オブ・ヘブン」(2005)も過去にはありましたね。
 この映画は、監督の作品史上に残る屈指の大作であると思う。そしてこの作品に欠かせなかったのが、俳優ホアキン・フェニックスだと思う。映画「ジョーカー」(2019)では特異なキャラクターを演じたこの俳優は、今回の作品においてもまさにハマり役だったように思えます。
 英雄かそれとも悪魔か_リドリー・スコットはあくまで等身大の人間として、一人の男としてのナポレオンを描いたのだと思う。もっとも、フランス人からは酷評されているようだ。
 

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