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半導体設計とまちづくり

※この記事は、「CivicTech & GovTech ストーリーズ Advent Calendar 2020 - Qiita」の12/20公開記事です。

はじめに

今年の4月から一般社団法人Code for Japanで働いている砂川と申します。主に自治体のデジタル化推進や業務改善を担当することが多いのですが、他にも豊岡スマートコミュニティというプロジェクトのご支援をさせていただいており、いわゆる"まちづくり"や"スマートシティ"に微力ながら関わらせていただいております。他にもサービスデザイン界隈に顔を出させていただくことも多く、「公共分野でICTとかデザインやってる人」と認識いただいているのではないかと思います。

実は私自身はもともと半導体設計が専門で、色々なご縁があって今の自分があるのですが、冷静に考えると謎のキャリアパスです。故Steve Jobs氏が"Connecting the Dots"と仰った通り、過去を振り返って点を点を繋げることで何かおもしろいことが見つかるかもしれません。この投稿では「半導体設計とまちづくり」という一見何も関係のないところから、それらしい繋がりを見つけてみようと思います。

(アドベントカレンダーの担当日を間違って認識していて、急いで書き上げたというのは内緒)

半導体設計とは

昨今、DX(Digital Transformation)が大きな関心を集めていますが、皆さんが気になるのはやはりトランジスタのことではないでしょうか?(以下、CMOSを前提に話を進めます)

トランジスタには様々な用途がありますが、DXの基礎の基礎となるのはトランジスタのスイッチング特性だということに異論のある方はおられないでしょう。(いたとしても、そこは大人の対応をお願いします)。

スイッチング特性とはその名の通り「スイッチ」の役割のことで、部屋の電気のスイッチをオンにしたら灯りが点灯し、オフにしたら灯りが消えるのと同じことを指します。基本的にデジタルなんとかと言われるものはほぼ全てこのスイッチを組み合わせることで実現されており、あなたのスマホで誰かに画像を送るのも、音楽をストリーミング再生するのも、このスイッチがあるからこそ実現できるのです。ちなみに、iPhone 12に搭載されているA14のチップ(≒コンピューターの頭脳)は約118億個のトランジスタ(≒スイッチ)が搭載されているようです。

意味不明ですよね、まぁ気にしないで先に進みましょう。(それでもなお詳しいことが知りたい物好きな方は、論理回路という分野から勉強されるのがよいでしょう。私は専門にも関わらず、一度単位を落としました。)

半導体のチップ設計において重要なのは、集積度(≒いっぱいスイッチを詰め込むこと)、消費電力、歩留まり、ばらつきだと言われることが多いです。集積度が重要なのは、(CMOS)FETは微細であるほどスイッチの反応速度が高まり(≒CPUのクロックが速くなる)、一枚の板(シリコンウェハ)から取れるチップの数が増えて嬉しいからです。ただし、(CMOS)FETの特性上、微細になるほど消費電力も増え、相対的にばらつきも増え、設備投資も増えるため、これらの変数のトレードオフを考えることが重要となります。

私が研究していたのは、トランジスタの性能ばらつきを抑えるための設計手法で、みなさん大好きなD-フリップフロップなどを使いながら、上記のトレードオフを最適化するための設計手法を考えておりました。

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(画像元: https://www.researchgate.net/figure/Virtuoso-snap-shot-of-a-D-flipflop-built-in-3-D-at-65-nm-technology-node_fig1_224230485

業務改善やサービスデザインについて

私は半導体設計の研究を通じて、最適化について考えるのが楽しくなりました。何かの目的があり、そのためにどこをどういじれば最適化されるのか考え、実行するのは、パズルのようにとても面白いものです。ナノレベルの物理的制約の中でトレードオフを考え、安定してチップを生産しているというメーカーの方々は、私にとっては神でしかないです。

そして、今Code for Japanでやっている業務改善やサービスデザインも、何らかの目的のために最適化をしていると捉えることもできる気がしてきました。

繋がりましたね (Connecting the Dots)。

そうです、業務改善もサービスデザインも半導体設計も、突き詰めて考えれば同じことをしているのです。業務改善では、業務フロー分析や業務量調査、ECRSフレームワークやICTなどを用いて、業務の時間や工数を削減することを狙います。サービスデザインではインタビュー、観察、ステークホルダーマッピング、サービスブループリント、プロトタイピング、テストなどツールやフェーズを通じて、顧客体験だけでなく俯瞰的な視点で"よいサービス"を生み出そうとします。半導体設計においては、EDA(Electronic Design Automation)ツールを使って、安くて性能のよいチップを作るためだけではなく、ここ数年は顧客体験を向上させるためにチップから設計するということも行われています。

ナノレベルのシリコンの世界から実社会へとフィールドが変わり、使う道具が変わっただけですね。もうこれで私のキャリアの説明に窮することはありません。そして、それぞれのフィールドで学んだ最適化の考えが他の分野に生かせることも多々ありましたので、半導体エンジニアやサービスデザイナーの方々、そしてあらゆる分野で最適化をしている人たちは、CivicTechやGovTechの活動にご参加いただき、最適化のフィールドを広げるとおもしろい気がします。

まちの最適化

では、まちづくりについてはどうでしょうか。多くの人にとって「まちの最適化」などと言ってしまうと、トロントのスマートシティプロジェクト的なディストピアが思い浮かんでしまうのではないでしょうか?(安心してください、私もその一人です)。

まちには、スイッチのように規則的に活動することのない意志を持った人や動植物があり、経年劣化する人工物があり、予測不可能に思える自然(災害)があり、様々なルール(法律など)があり、他のまちや国との交流があり、その他数えきれないほどの変数(チップで言うところの集積度、消費電力、歩留まり、ばらつきなど)が存在します。そして、それら変数の全てがコントロールできるわけではありません。(むしろコントロールできる変数の方が少ない)。そして、そもそもまちづくりの目的ってなんでしょうか?「全ての人々が幸せに暮らせること」が収まりがよさそうで、そのための最適化の取り組みとしてSDGsが考えられているんですね。今、繋がりました。

ただ、上述の通り、世界にはコントロールできない変数が数多くある中で、個人レベルでまちの最適化を考えるのは気が遠くなります。突き詰めて考えると悟りの境地に至って「自分の好きに生きよう」となるのでしょうし、それが実現できるまちというのがまちづくりの目的になるという、よくわからない思考ループに陥りました。

まちづくりって難しいですね。(自戒を込めて)スマートシティのプロジェクトって一体誰が何を最適化しようとしているんでしょうか。

おわりに

最適化の経験が浅い私では、「半導体設計とまちづくり」というタイトルにふさわしい結論めいたものを導くことはできませんでした。もしかしたら執筆中に啓示が降りてきて素晴らしいまとめが浮かぶかもと期待していたのですが、そんなにうまくはいきませんね。

ただ、半導体設計からスタートした私のキャリアは、ナノスケールの話から、自然にマクロな視点に移っていることが確かめられました。

そして、もうひとつ大事なことがありました。大事なので二回言います。

半導体エンジニアやサービスデザイナーの方々、そしてあらゆる分野で最適化をしている人たちは、CivicTechやGovTechの活動にご参加いただき、最適化のフィールドを広げるとおもしろい気がします。

ここまでの駄文にお付き合いいただきありがとうございました。

参考

多様性がなければ、私たちは絶滅してしまうーー「複雑系科学」の視座で探る、世界と私の持続可能性

Cover Photo by Umberto on Unsplash

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