ヒロオ 現代アート小説家

現代アートの作品にふれることで、浮かび上がって来る小説(短編)を書いています。 アート…

ヒロオ 現代アート小説家

現代アートの作品にふれることで、浮かび上がって来る小説(短編)を書いています。 アート作品の未知なる広がりを表現したい、そんな想いが言葉を綴らせます。 作品への胸さわぎと、アーティストのみなさんへのリスペクトを込めて!!

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現代アート小説 絵絣 EGASURI #1「蝶々編」

 美しすぎる少女が、少年の目の前に立っていた。  この山のふもとの女の子たちは、生まれたときからみんな知っている。だから、目の前の少女は、どこか遠くからやって来たはずだった。  突然現れたから、美しすぎるって感じたのかもしれない。  少女は、どこからも風が吹いていないのに、長い髪を山に向かって、さらさらとなびかせていた。身体がスラリと伸びて、小さな顔は、ぼんやりとしていて、よく見えない。 「どこから来たの?」、少年は聞いた。 「ときどきね」、少女は言った、  変わったしゃ

    • 現代アート小説 絵絣 EGASURI #2「染織り編」

      https://hanaori.wixsite.com/home  空を見上げると、太陽があんず色に輝いていた。  あちこち歩いてみましょうか? あんずの里で出会った女性が話し掛けてきた。こんな太陽の日は、年に何回もないんですから。  いきなり話し掛けられることだって、年に何回もあることじゃない。ぼくは、女性と一緒に歩いて行った。  6YR6/7。色の図鑑の中のあんず色。ぼくは図鑑の色と太陽の色を感じてみる。今日の太陽の色は、ずっと生々しくて、あんずっぽい。 「あんず色の

      • 現代アート小説 キタタミ #3「キタタミ編」

        キタタミ 「イシガミさんが金沢の石畳を歩いているとき、木のかたまりと石畳が頭の中でぶつかって、キタタミが生まれたのさ」、ネコが言った。 「ひょえ~」、男の子は言った。「ねえ、そのとき、どんな音がしたの?」 「パチンって,はじける音が響いたのさ」、ネコは言った。「そう、その一瞬、頭と宇宙がつながったのさ」 「ひょえ~」、男の子は、空を見上げた。  ネコは、スギのキタタミの上で丸まっていた。やっぱり、スギのキタタミが一番やわらかい。くっきりとした年輪を見ていると、ガリガリと

        • 現代アート小説 キタタミ #2「デビュー編」

          キタタミ  あの子が、この部屋にやって来たのは、どれくらい前のことだったのかしら? まるで自分の娘のようで、毎日、座ったり、飛び越えたりして、気持ちが通じあっていたような気がする。  それなのに、だんだん気持ちが遠ざかってしまった。あの子にも、俗にいう思春期が訪れたっていうことなのかしら? 「ねえ、あなたの夢って何なの?」、私は、キタタミの気持ちを刺激しないように、そっと聞いた。「将来、こうなりたいとか、そういうものってあるの?」 「別にぃ」、キタタミは、ツンとした

        現代アート小説 絵絣 EGASURI #1「蝶々編」

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        • 現代アート小説 キタタミ
          3本
        • 現代アート小説 絵絣 EGASURI
          2本

        記事

          現代アート小説 キタタミ #1「逃亡編」

          キタタミ  真夜中に、キタタミがコトコトと動き出した。 「どこに行ってしまうの?」、ぼくはベッドから飛び起きて、キタタミを追いかけた。「ここが、君のおうちじゃないか」 「イシガミさんのところに帰るのさ」、キタタミは固まった表情で、そう言った。 「何が不満なの?」  ぼくは、とても悲しかった。毎日ピカピカに磨いて、穴の中をこちょこちょしたり、一緒にひっくり返って、笑ったりしたじゃないか。  ぼくは、すべての窓を閉めて、鍵をかけた。やっぱり、キタタミを逃がすわけにはいかない

          現代アート小説 キタタミ #1「逃亡編」