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欲望に対する速度が遅い

今日のおすすめの一冊は、楠木健氏の『絶対悲観主義』(講談社+α新書)です。ブログも同名の「絶対悲観主義」と題して書きました。

本書の中に、「欲望に対する速度が遅い」という心に響く文章がありました。

品の良さの最上の定義だと僕が思うのは「欲望に対する速度が遅い」です。もともとは立川談志さんが言ったことだそうです。 

この定義は欲望の存在を否定していません。品が良いということは、お釈迦様のように世俗的な欲望から解脱してしまうことではない。普通に欲はある。ただそれをなりふり構わず 取りに行かない。欲望が「ない」のではなく、あくまでも欲望に対する速度が「遅い」ということです。

期待がすぐに実現するとは思っていない。自然な流れの中でうまくいくことも、いかないこともあるわけで、それをじたばたせずに待っている。慌てず騒がずなりふりを大切にする、これが上品な人だと思います。 

欲望に対して速い人は、欲望に向かって突進し、状況によってなりふりかまわずアプロー チを変えます。上品な人は相手が近づいてくるのを気長に待っている。状況とか相手に応じて自分を変えません。

ゴルゴ13というキャラクターもまた品格を感じさせるのですが、あの人にしても自分からは動かずに、クライアントの依頼が来るのを待っています。仕事になると、決してやり方を変えません。 

友人のKさんは、僕が知る中で極めて品の良い一人です。Kさんは個人で企業や事業のコンサルティングをしています。大きな成功を収めた仕事がいくつもあるのですが、絶対に自分の名前や顔を表に出しません。

評判を知った人が仕事を頼みに来ても、ほとんど受けずに自分に合う仕事だけを選んで受ける。いつも静かに微笑んでいる。柔和なゴルゴ13です。Kさんご夫婦は、自宅とは別に逗子マリーナのいい感じの古いマンションを持っていて、 週末はそちらで過ごすことが多い。

そのマンションを買う前に、彼は一年間逗子マリーナに実際に部屋を借りて実験的に住んでみたそうです。実際に生活してみて、周辺の町も含めて、どういうところが良くてどういうところに問題があるのか、たくさんあるうちどの棟のどのあたりの部屋がいいのか、ゆっくりと検討したうえで、購入を決めた。

欲望の実現がインスタントでないところが、品を感じさせます。なぜ速度が遅いのかというと、プロセスを楽しんでいるからです。プロセスを楽しんだうえで手に入れたほうが、喜びもまた大きくな る。 

「欲望に対する速度が遅い」は時間軸に注目した上品さの定義です。これを空間軸で見ると、上品であることの中核には、潔さがあると考えています。さまざまなオプションの中から何かを取るためには、必ず何かを捨てなければなりません。決して全部を取ろうとしな い。これが潔さです。

婚活がせっかちになるのも、オプションが多過ぎるからだと思います。 現実には「総取り」はありません。捨てることについてはきっぱりとあきらめて、執着しない のが上品な人です。

上品さは、欲がない ということではなく、むしろすごく欲がはっきりとしているとも言えます。だからこそ、それ以外には無頓着になれる。潔さのメカニズムはそういうことだと思います。

立川談志さんは、加賀まりこさんとの対談の中で、「つまり、欲望に対する時に動作がスローモーで、欲張らない人間は品がいい」と言ったそうです。(加賀まりこ著「純情ババアになりました」より)

上品さは「余裕」から生まれるといいます。余裕のある人は、得なことがあっても、すぐに飛びつくようなことをしません。ガツガツしていないし、一呼吸待つ事ができます。つまり、「欲望に対する速度が遅い」ということです。

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