ワンパターンになろうよ
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ワンパターンになろうよ

桃井裕範 / Potomelli


ニューヨークにいる間、多くの偉大なドラマーにレッスンを受けることができた。それも、1回きりの記念受験のようなものではなく、短くても1セメスター(半年弱)ほど師事できたのだから幸運だった。

それはJohn Rileyに始まり、Billy Hart、Greg Hutchinson、Johnathan Blakeなど、本当に素晴らしいドラマーばかりだった。

その中でも、僕が一番長く師事していたのがKendrick Scottであった。かれこれ、僕が帰国する直前までの4年ほどだっただろうか。

彼からはドラムのことだけでなく、ミュージシャンそして人としても本当に多くのことを学ばせてもらった。

これはまさに、ケンドリックが僕に伝えてくれた言葉だ。この言葉は今でも僕がレッスンをする時の信条となっている。


そんな彼にある時、僕のライブ音源を聴いてもらったことがある。ライブの出来としては満足はしていなかったものの、その時のベストは尽くしたといった感じだったと思う。

数曲聴き終えたあと、ケンドリックが徐ろに僕に聞いた。


「ヒロは自分の演奏を聴いてどう思ったんだ?」


「うーん、他のメンバーに対しての反応だったり、提案だったりする時に自分の演奏のバリエーションが少ない気がして。

もっとたくさんのアイディアをプレイできたら良かったのに」


そんなことを答えたと思う。それに対してのケンドリックの言葉に、僕は驚いた。


「いや、俺は逆でむしろもっとワンパターンな演奏が聴きたいと思ったな」


???

混乱する僕をよそに、ケンドリックは続けた。


「それは、1つのアイディアをもっと大事にするということだ。

もしその夜、1回もダブらないで全て違うフレーズが湧き上がってきたとして、そしてそれを演奏できた所で、恐らくメンバーやオーディエンスの耳には残らない。

それどころか、全部ランダムに聞こえてしまうかもしれない。

人は繰り返し何かを聞くことで、それに意味があると認識するんだ。」




「俺たちは、繰り返すことを恐れちゃいけないんだ」



僕はハッとした。

そうか、どうやら僕は「ジャズミュージシャンは毎回違う演奏をしないといけない病」に罹っていたようだ。

即興演奏が主体の音楽であるがゆえの、同じアイディアを繰り返すことへの恐怖心が無意識に芽生えていたのだ。

ケンドリックはそれを見抜いて、真逆のアドバイスをくれた。それは目から鱗だった。


ジャズだから、即興だからといって、同じフレーズを演奏してはいけないなどというルールはないのだ。

もしそうだったら、ビバップの父であるチャーリー・パーカーのオムニブック(パーカーの多用したフレーズ集)など存在するはずがないのだから。

そもそも「ミュージシャン〇〇印のフレーズ」が存在している時点で、それは今まで繰り返されてきたフレーズであることの証明じゃないか。


そもそもこれは、ジャズに限った話ではない。

ベートーヴェンが200年も前から「運命」や「エリーゼのために」で示してきたことであり、かの有名なメロディーがあんなにも繰り返されたことで、音楽に詳しくなくても多くの人達が口ずさめるくらい親しまれているのだ。


ジャズミュージシャンの間でよく言われるフレーズがある。

「演奏をミスしたと思ったら、それを3回繰り返せ。そうしたらもうそれはミスには聞こえないだろう。」


やはりこれも、繰り返すことを恐れるなという先人からのアドバイスだ。

素晴らしいアイディアが浮かんだ時、それを一度きりの演奏でやめてしまうのはそのフレーズがそのまま流れて消えていってしまうことになる。

その儚さこそがジャズの美しさであるという捉え方もあると思うが、その時のバンドメンバーと音楽的な対話をしたいのであれば、自分の言いたいことを認識してもらわなければならない。

自分がリズムセクションの一員であれば尚更だろう。

そのためには、「繰り返す」ということが非常に大きな意味を持つのだとケンドリックは教えてくれた。



もっとワンパターンになれと。



繰り返すことはモチーフを定義することでもある。

繰り返すことでそのモチーフはテーマとなり、発展させることが可能になる。そこから離れることも、また帰ってくることもできるようになるのだ。

例えそれが、音階のない完全にフリーのドラムソロであっても。

手前味噌だが、ここでの僕は1つのフレーズを4分間のドラムソロの中で徹底して使った。

あの時のケンドリックからの言葉がなければ、このような演奏は出来なかっただろう。


逆説的に聞こえるかもしれないが、何かを繰り返すことでより自由な演奏をすることができるのだと思う。





「演奏をミスしたと思ったら、それを3回繰り返せ。そうしたらもうそれはミスには聞こえないだろう。」


人はこれからも過ちを繰り返すのだろう。

けれど少なくとも音楽においては、繰り返された過ちが別の意味を持ち、輝き始める時があってもいいよね。

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