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酒を隠してアパートへ 冷蔵庫を貫いた銃弾 9月7日イルピン・ブチャ再訪②

アレックスの運転するワゴン車でブチャの駅前に向かう。
特にあてがあるわけでなく、アレックスがなんとなくそう提案したからだ。駅前から連なる団地には、砲撃の跡だろうか。黒く穴が空いている。これは5月に訪れた時にも見ていたが、そのままだった。道路の向かい側で4人組の若者がちらちらとこっちを見て歩いていく。声をかけようかと思ったが、彼らは先に行ってしまった。
「スケートパークってこの辺にあるかな?」とアレックスに聞くと「公園の中にあるはず」と言った。10分ほど走った先にあった公園はとても広く、森のようになっていて、人気がなく静かだった。
車を降りて、公園の中の歩道をアレックスと並んで歩く。途中、歩道の脇にあった池のような水場をアレックスが覗き込む。そして「ノー、コイ?ノー、ニェット」とアレックスは言った。はじめは何を言ってるのかよく分からず、聞き流していたが、何度か同じことを言うので「もしかしてコイ(鯉)のこと?」ときくと「ダー(そうだ)」と答えた。私は笑ってしまった。彼に「なんで鯉なんて名前を知ってるの?」と聞くと「友達がキーウの近くでたくさん育ててるんだ。赤とか白とか、日本の鯉が人気あるんだよ」

と翻訳アプリを使って答えた。「コイって名前、間違ってないよね?」とアプリ越しに聞くので「ダー、バァエズ・プロブレマ(そう、大丈夫)」と答えておいた。

スケートパークに近づいてくると、男の子たちの声が聞こえてきた。キックボードに乗った男の子たちが遊んでいる。アレックスが先に彼らに挨拶して、そのあと私。ガチャン、ガタン、とトリックをした時の音が森の中に響く。しばらく撮影して、お礼を言ってまた公園の中を歩く。

キックボードをしていた少年

向こう側から若者たちが歩いてくる。「あっ」と思ったらさっきの駅前で見た4人組の若者だ。すかさず声をかけると、流暢な英語で挨拶してくれた。彼らは同級生の幼馴染らしく、そのうちの一人が今日で17歳の誕生日を迎えると言うことで、お祝いを兼ねて(?)一緒に過ごしているらしい。誕生日に同級生たちと森を散歩というのもなかなか素朴だなあと思ったりもするが、ブチャの街は壊滅的な状態であるし、遊ぶような場所も今は無いのだろうなとも想像する。彼らに普段考えていることや将来のことについて、いろいろ聞かせてもらいながら撮影をさせてもらった。

この日、17歳の誕生日を迎えたアルチョンさん。

彼らと別れ、その後に向かったのはアパート群のなか。小さな砂場で子供と遊んでいる男性に声をかけた。アルテムさん22歳と、弟のデービッドさん3歳。アルテムさんはことし航海士の学校を卒業したが、戦時中ということもあり家族が心配で船には乗らず、弟の面倒を見ているらしい。二人の姿を彼らの自宅前で撮影させてもらった。

街の様子は壊滅的で散々だが、住民たちはようやく少しの落ち着きを取り戻し、短い夏の終わりを楽しんでいるように見えた。そういった姿を見ていると、戦争について、ブチャでの虐殺について、積極的に聞こうという気持ちにはなれない。ただ穏やかに過ごしてほしいなと思うだけだ。

その後、イルピンへ移動。ここでもブチャと同様に戸建ての家々では、大工たちが屋根や壁を治したりといった復興作業が続いている。でもそれはほんの一部で、壊滅的に破壊された家もかなりあり、それらは手付かずのままだ。

イルピンの集合住宅群を歩く。集合住宅はかなりの範囲で攻撃を受けており、前回、5月に来た時と風景があまり変わっていない。壁にはスプレー書きで地面に向かって矢印が書かれ「地雷あり」の文字があった。明らかにクラスター爆弾と思われる痕がアスファルトの地面をえぐっている。

封の開いていない酒のボトルを持った中年の男性に声をかけられた。アレックスとともに彼について歩いていく。自宅を見せてくれるらしい。彼は手に持っていた酒のボトルをズボンの腰に差し、上から上着で隠して、集合住宅に入っていく。「なぜ隠すのですか?」と聞くと「見つかると母さんが心配するんだよ」と言って笑った。

自宅では彼のお母さんや奥さんがテレビを見ていた。テレビではゼレンスキー大統領がどこかに慰問をしているニュース映像が写っていた。突然の訪問にも奥さんたちは驚くこともなく、いろいろと話してくれた。部屋には小さなパグがいて、闖入者である私の足を引っ掻いた。アレックスが彼らと楽しそうに談笑をしている。よく見ると部屋の壁には銃弾の跡があった。案内してもらった寝室の壁にもキッチンの壁にも。

キッチンの窓から侵入した銃弾は冷蔵庫を貫通し、壁まで到達。冷蔵庫は夫が直してくれたから大丈夫なのよ、と彼女は気丈に笑った。

奥さんは犬を連れて散歩に出ていった。
「そろそろ帰ろうか」とアレックスに声をかける。窓から差し込む光はもうかなり弱くなってきている。男性やお母さんにお礼を言って、彼らと別れたあと、最後にアレックスが運転席に座っている様子を撮影させてもらった。
帰りの車中で、アレックスがマネージャーをやっているバンドHarmataのMVを見せてもらいながらキーウへ戻った。

キーウの現像店「fotovramke」

前回と今回、載せている写真はフィルムで撮影したもので、現像はキーウにある現像店「fotovramke」にお願いしている。はじめてキーウを訪れた3月には休業中だったけど、再開してくれてとてもありがたい。
彼らに話を聞くと、侵攻後、現像してもネガを取りに来ない、連絡が取れないお客さんが多いとのこと。そういったお客さんはすでに国外へ避難したか、亡くなっている可能性もあるという。

スマホで長文を書くのはとても疲れるので、内容が散漫になっていますが、あくまで日記ということでお許しください。いろいろな方にいろいろなことを聞いていますが、大抵悲しい話だし、そういったものをここに書くのも難しいですね。現在はしばらく前からハルキウにいます。


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