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#スローシャッター マガジン Vol.3 旅を愛する本をつくるために(田所敦嗣)

“本は、是非ともうちで出したいと思います。 そしてそれは、「仕事がわからないといけない」と思うんです。 気ままに旅をしているのではない、観光旅行ではない、仕事で行くから、出会いがあって、何かが生まれるんだと思うのです。 物見遊山と思われないために、それがわかるような本にしたいなぁと。”

今冬12月16日、ひろのぶと株式会社から発売される『スローシャッター』は、田中泰延さんのメールから始まった。


最近になって文章を書くきっかけを訊かれることがあるが、きっかけなんて何も無かった。
ただ、いつだったかの夜に短篇を書きながら、これらは誰かに向けて書いてはいないナという確認のような、法則のようなモノに気がついた。
読まれたいというよりは、読みたい。
いつでも自分が読み返してはある話で笑い転げ、また違う話では出会った人々のことを思い返す。

その法則を繰り返すうち、この世からいなくなるかもしれない最期の数日に、自分の書いた文を読むとしたら、自分は何を書くのだろうと考えるようになった。

コンビニで買い物へ行く話でもいいし、初めて失恋した話でもいい。
自分が読みたければいい。
だから今度きっかけを訊かれることがあったら、そう答えよう。
そのことを教えてくれた、『読みたいことを、書けばいい。』という本と共に。

冒頭に記した泰延さんからのメールが届いたとき、畏れ多くも、僕の文章の表皮を剥がした中にある景色と、泰延さんが見ていた景色とが、シンクロしているように感じた。
それが本の一番キモとなるコンセプトと、製作の始まりだった。

僕は今も会社員として勤めているし、若い頃に作家を志望していた訳でもない。
何者でも無い人間が、誰にも向けて書いていないnoteという空間で、偶然に交差した。

本の製作にあたり、銀座にあるビースタッフカンパニー・アートディレクターの上田豪さんが装幀を手がけてくださることになった。
さらに豪さんは装幀のみならず、タイトル案を90も用意してくださった。編集ミーティングではその案にみんなで歓喜の声をあげ、「これも好き」「あれも好き」とワイワイ話し合った。そうして、最後に決まったのが、本書のタイトル『スローシャッター』だ。
豪さんがどのように90ものタイトル案を考えたのか、そして美しいカバーデザインが出来上がるまでの過程は、#スローシャッターマガジン Vol.1でお披露目されている。

美しいカバー。アジアの夜の雰囲気そのもの、である。

アートディレクターによる無限のアイデアと経験によって1つ1つが研磨された部品になり、一冊の本がエンジンを組み上げるかのようにつくられる様子がお分かりになると思う。

いろんなことが立て続けに決まっていく一方、僕は自分が本について何も知らないことに怯えていた。
世の中に本を出されている作家さん達へお話を訊きに行き、ありがたいことに皆さんが懇切丁寧に教えてくれた。
それでもまだ山のようにある「知らないこと」を誰に訊けばいいのかもわからないし、何をすればいいのかもわからない。
初回の編集打ち合わせを終えた夜、タイ料理屋で僕はたまらず豪さんにそんな話をした。

すると豪さんは、

「お祭りみたいなもんだと思えばいい」

そう言って、小さく笑った。
それから幾度かのヒアリングをして頂き、豪さんが作成したマインドマップをベースに、製作に関わる全員が同じ景色を共有していった。

発売までのスケジュールが決まってからというもの、ひろのぶと製作スタッフは連日連夜、終電の時刻を過ぎ、賑やかな銀座が静まり返る時刻になっても、デスクへと向かい続けた。

ふと腕時計に目をやった午前3時過ぎ、2人の言葉を思い出した。

泰延さんや豪さんの信念を、この空間で目の当たりにしている。
人はそんな時間を共にすると、身体のどこからか熱を発し、いつまでも起きていられるような感覚になった。

著者がする作業というのは本の製作全体からすればほんの僅かで、残りの膨大な工程は、多くのプロ集団が恐ろしいスピードと正確さで作り上げていく。
編集作業においても、泰延さん、廣瀬翼さん共に製作当初から一貫して、著者の文意に沿わない編集をしない。
それは読み手と書き手のフェアな関係を築きたいと言った、ひろのぶと株式会社の精神なのだと感じた。

子供の頃は共に笑えるだけで友人になれたが、大人になるとそこに「敬意」という要素が加わらないと、深くはつながれないような気がした。

スローシャッターマガジンでは今後も多くのプロ集団が関わる過程を丁寧に紹介して頂けると思うので、今回は著者がしたこと、本が出るまでのお話を書きました。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

どうか引き続き、本の旅をお楽しみください。

田所敦嗣/Atsushi Tadokoro

お知らせ

12/23(金) 20:00〜 下北沢 本屋B&Bにて
『スローシャッター』刊行記念トークイベント開催決定!

来場参加はもちろん、配信、見逃し視聴もあります◎

▼詳細・参加のお申し込みはこちらから

12/29(木)19:00〜  梅田ラテラルにて
「#全恋 #スローシャッター  ジョイント大忘年会」開催決定!

ひろのぶとオールスターズでお届けする大忘年会企画。
『全部を賭けない恋がはじまれば』著者・稲田万里さん
『スローシャッター』著者・田所敦嗣さん
ひろのぶと株式会社アートディレクターでスローシャッターの装幀を手掛けた上田豪さん

そして特別ゲストに前田将多さん
そして、田所さんがベトナムで仕事をされる際は一緒に渡航するパートナーで
『スローシャッター』のベトナム取材もご一緒した甲斐敦士さんをお迎えします。

現地参加はもちろん、配信チケットもあり。
詳細は後日改めてお伝えします。

みんなでワイワイ楽しみましょう!

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