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slow shutter magazine特別号公開! PDFダウンロードも|#スローシャッター マガジン vol.23

【全文公開】出会いの一つひとつが、会社員を作家に変えた。『スローシャッター』著者の素顔

 二十年以上会社員を続けてきた男が、本を出した。著者・田所敦嗣さんが綴ったのは、世界で出会った「働く人々」の姿。仕事が無ければ行かない土地で、仕事が無ければ会わない人と、仕事を通じて語り合う。自立した人間同士の交流は「人に会いたい」という気持ちをじんわりと思い出させてくれる。そんな穏やかな文章を書いた田所さんとは、どんな人なのか。彼へのインタビューという「仕事」を通じて、「田所敦嗣」その人に迫る。

海の向こうにも、どこへでも。自分で見て、選んで、切り開く

 水産系商社に勤める田所さんは、海の向こうにビジネスチャンスを見つけると、どこにでも立ち会いに行く。
「担当する製品は、仕入れから加工、販売まで一貫して自分で見ています」
 もちろん、一人で出来ることに限界はある。壁にぶつかるごとに、それぞれの分野の専門家と組んだり、上司や同僚に助言をもらったりしてきた。プロフェッショナルと組み、自分で裁量を握る仕事は、想像するだけで刺激的だ。しかし、決断には責任が伴う。
「自分の好きなメソッドでトライして、一円でも多く稼げたら『おおー!』って嬉しくなるじゃないですか。でも、うまくいかなくても人のせいには出来ない」
 自分で選んだ、と彼は呟いた。

価値観の変化。自由と責任、混ざり合う血

 彼の原点は、進路に悩んだ十代、アメリカに住む従兄弟を単身で訪ねた経験に遡る。
「彼らの話す『自由』、その本当の意味がすごくしっくりきたんです。自由を得るには、それに相当する責任を負わなくちゃいけない」
 自由と責任。相反するように見えた価値観は、表裏一体だった。異国の風に感銘を受けた田所さんは、貿易業の道を志す。大学卒業後は機械メーカーに就職し、ドイツやデンマークとのやり取りを担当した。それから二年半ほど経った頃、思わぬ転機が訪れる。
「田所くん、魚のこと詳しいんだ」
 高校から七年続けた魚屋のアルバイトや大好きな釣りで身につけた知識と経験を買われ、水産系商社への誘いを受けた。
「魚に慣れていて、英語も出来る人が珍しかったんでしょうね。『ちょうどいいじゃないか』と言われて(笑)」
 メーカーの仕事も魅力的で、折り合いを付けるために時間を要した。悩むこと一年半、ついに思い切って転職を決意する。その決め手は、何だったのか。
「『いろんな血を混ぜろ』という創業者の言葉が刺さって、面白そうだな、と思っちゃったんです」
 異なる業種から多くの人が集まり、多様な価値観が交差する社風。小さなアメリカを、そこに見たのかもしれない。

「面白いかもしれない」で、日々に光は灯せる

 『スローシャッター』で描かれる異国でのエピソードには、ハプニングも多い。しかし、田所さんの文章には、出来事の悲観的な面だけを書くことはしないという意志が感じられる。
 二〇二〇年から続くコロナ禍の生活は、旅の孤独に通じるものがある。自問自答を繰り返し、幾度も決断を強いられた。しかし、重く閉ざされた世界で、彼は筆を取り、新しい扉を開いた。
「仕事をしている以上、やりたくないけどやらなきゃいけない場面や、考えたくもない失敗をしてしまう日はあります。だけど、そこで『この状況も面白いかもしれない』と自分を俯瞰してみると、気が楽になったり、同僚と笑えたりする。そういうことは世界から学んだのかもしれません」
 日常に光を灯すような彼の筆運びは、働く人の支えになることだろう。

「人は人生でどれだけ、落としたものを拾えるのだろうか」

 十年前の田所さんのブログに、この言葉が記されている。
「もし自分がいろいろなものを拾えていると思っていても、見逃しているものが絶対にあります。憧れの先輩たちを見ていると、あの人たちは僕よりもっと多くのものを拾ってきたんだろうな、と思うんです」
 幼い頃から憧れの大人の仕草や態度を真似していたという田所さん。彼が振り返り、掬い上げたものが、この本を形作ったのだろう。
 タイトルの『スローシャッター』は、長くシャッターを開き続けることで多くの光を取り込み、人や風景の連続性を写真に閉じ込める撮影技法から名付けられた。微かな光を拾い上げる、田所さんの文章にピッタリと言えよう。
 本書は一人の会社員の出張記録であり、言葉で現像された心象風景だ。沢木耕太郎や開高健と一線を画す、「仕事」という切り口で描かれた新時代の紀行文学と、その作家の誕生を祝いたい。

(取材・文 直塚大成)


「偉人」とみんなに言われた直塚大成さんの初仕事

今回、リーフレットのインタビューおよび記事執筆は、直塚大成さんにご依頼しました。

直塚さんは、この秋SBクリエイティブより刊行予定の『書く術』(仮)で田中泰延と共著者となる、オーディションで選ばれた期待の新生ライター。今回のリーフレット制作が、ライターとしての初仕事でした。

2時間半にわたるロングインタビュー、全文書き起こし、そこから原稿執筆まで。田中をはじめ、その制作過程を見てきたみんなに「偉人」と言われた彼の仕事の様子を、『書く術』(仮)のnoteでご紹介しています。

どこをとっても興味深かったインタビュー。しかし、紙媒体であるリーフレットはスペースに限りがあります。最後の最後にどうしても字数が足りず、泣く泣く記載を諦めた話題もありました。

一方で、だからこそ、直塚さんが何を軸にしようと考えたのか、どこに心惹かれたのかが、より強く伝わる記事になったと感じています。

ぜひ、「あのインタビューが彼の手によってこんな記事になったのか」と思い馳せながら、『書く術』(仮)noteとリーフレット全文をご覧ください。


リーフレットはHironobu&Co. ONLINE STORE、各イベントにて

リーフレットのデザインは、上田豪さん。表紙にはインパクトのある『スローシャッター』と田所さんの写真が。中面の記事中には、にこやかな田所さんの写真が挿入されています。さらに裏表紙では、今回新たに推薦コメントをくださった3名のお言葉もご紹介しております。

リーフレットは、Hironobu&Co. ONLINE STOREで『スローシャッター』をご注文くださったみなさまに、本と合わせてお届けします。また、当社が出展する各イベントでもお渡しする予定です。

書店さまや、いろんなお店にも置いていただいています

4/3(火)に当社代表 田中が出演したYouTube「僕たちはそれでもやれることがある」を配信くださったヒマナイヌスタジオさんにも、さっそく置いていただきました。

梅田 蔦屋書店さまにも置いていただく予定です。

「リーフレット」を置いてくださる方、ぜひご連絡ください

今回のリーフレットは、まだ『スローシャッター』に出会っていない方に、広く伝わってほしいとの願いから制作いたしました。

書店さま、図書館さま、飲食店をはじめとするさまざまなお店のみなさまなどで、「うちに置いてもいいよ!」という方、大募集です。ぜひ、当社までご連絡ください。

SNSや本棚だけでは出会ってこなかった方に、田所敦嗣さんという人と『スローシャッター』をお伝えできる機会になると、うれしいです。

PDFデータをダウンロードいただけます

A4サイズに合わせて短辺綴じで印刷いただくと、リーフレットと同様にご覧いただけます。

コンビニネットプリントでも印刷いただけます

ファミリーマート、ローソンのマルチコピー機のネットワークプリントで、「slow shutter magazine 特別号」をプリントアウトいただけます。

プリント方法

  1. マルチコピー機のトップメニューから、右下の「コピー」→「ネットワークプリント」を選択

  2. ユーザー番号記入欄に「ZYT38W2UD4」を入力

  3. 用紙サイズA4、両面印刷(短辺綴じ)を選択

  4. 画面の案内に従って、プリントしてください。



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