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新しいカリスマQBの誕生(2020/12/19)

NFL第15週のサーズデイナイト、レイダースVSチャージャーズ戦を観ました。

AFC西部地区のライバル対決ですが、今の両チームの置かれている状況からすると、プレーオフ進出にやや可能性を残しているレイダースに対し、すでに可能性の無いチャージャーズということで格差が感じられるカードではあります。

ですがそこはやはりレイダース。
良くも悪くも予測不能なチームですので、これまでの成績がそのまま反映されたゲームとはなりませんでした。

スコア展開でいうと24-24でオーバータイムにもつれ込む大接戦という感じですが、実は「両チームともに勝機がありながらここ一番での決め手不足、あるいは無駄なファールによるミス」によってオーバータイムになってしまったというゲームでした。

ところで私はゲーム中、チャージャーズのルーキーQBのプレーを観ていて「QBのカリスマ性」についてあれこれ考えていました。

今シーズンのNFLで、大きな期待を受けてデビューした2人のルーキーQBがいます。

2020年のドラフト全体1位でベンガルズに指名されたハイズマン・ウィナーのジョー・バロウと「もし怪我が無ければ全体1位はバロウではなく彼のモノだった」とまで評価され全体5位でドルフィンズに指名されたトゥア・タゴヴァイロア。

この2人は近年低迷していたそれぞれのチームでしっかりスターターQBの地位を勝ち取り随所にキラリと光る活躍を見せ、ここまで及第点の成績を上げています。

先日、王者チーフスを相手に奮闘していたタゴヴァイロアの姿も印象的でしたね!

(※バロウはベンガルズの新人記録をことごとく塗り替える勢いでしたが、第11週のワシントン戦で大怪我を負い今シーズン絶望となったのが残念でした…)

しかし今シーズン、その2人を上回る活躍を示しているルーキーQBがいます。
それがチャージャーズのQBジャスティン・ハーバート。

ここまで25個のタッチダウンを決め、ペイトン・マニング、ラッセル・ウィルソン、ベイカー・メイフィールドという、そうそうたるスターQBのルーキーイヤーの記録を塗り替えようとしています。(※たしかこれまでの記録はメイフィールドの27)

そのハーバートですが、身体こそ大きいのですが、見かけはどちらかという優等生っぽく大人しい青年。
派手なスターオーラをまき散らす風ではなく、むしろ弱々しいイメージですね。

コメントを聞いても「いい奴なんだろうなあ」と思ってしまうほど謙虚で素直。
自己主張が強く荒々しい男たちが全力で激突するNFLの世界でやっていけるのかどうか、他人事ながら心配になります。

ですが実際にプレーを見ると、新人離れした落ち着きがあって、一試合の中で必ずいくつもの印象に残るプレーをしてくれます。

今シーズンのチャージャーズは攻撃陣の層の薄さのせいか、なかなか勝ち星に恵まれていないのですが、それでもハーバートの頑張りもあって試合展開的には強豪チームと互角に渡り合うゲームも少なくありません。

そしてこのレイダースとの試合でも、新人ながら味方をしっかり包み込むように堂々とプレーを展開するハーバートを観てて「こういうQBがいずれカリスマ性を身に纏っていくんだろうなあ」と思ったわけです。

ちなみに私が思うカリスマ性のあるQBとは、簡単に言うと「こいつについて行けば何とかしてくれる」と思わせてくれるQBのこと。言い換えれば、苦しい展開のゲームを勝ちに導けるQBです。

何かに引きずり降ろされるようにやることなすことすべてが悪循環に陥った時、スコアも劣勢で残り時間も少ないとなった時、それを跳ね返し勝利を掴むためにチームの象徴でもあるQBはどうすべきか?

敵が怒涛のように押し寄せる中でパニックにならない冷静さを保てること。
流れを掴んでいる相手が見せるわずかな隙をしたたかに突く閃きを持っていること。
不可抗力のミスが続く中でもポジティブさとファイティング・スピリットを失わないこと。
そして意気消沈する味方の気持ちを言葉と態度で力強く鼓舞できること。

それによって誰もが感動するような逆転のドラマを演出できれば、そこからカリスマ性を持ったQBが誕生します。

とはいえ、このようなカリスマQBの条件を満たした「少年漫画的に偉大なQB」ってNFLの歴史を見てもそう何人もいるわけじゃありません。
現役でいうと、それこそペイトリオッツ時代のトム・ブレイディと、あとはパトリック・マホームズがその域にようやく手をかけ始めているぐらい。

(余談ながら、マホームズは条件的には問題無しなので、残るは実績としてチームをあと3回スーパーボウルで勝たせることができたら、モンタナやマニング、ブレイディに比肩する存在になれるでしょう)

それはさておき、この試合は最初からずっと競った展開で、チャージャーズがタッチダウンを決めると(ハーバートにとって今シーズン26個目!)、レイダースもすかさずFGとタッチダウンで逆転するという具合。

なお話はまた逸れますが、第1クオーター終わりにレイダースはエースQBデレック・カーが足を痛めて退場したため、その後は元タイタンズのマーカス・マリオタがQBを務めました。

マリオタはレイダースに来て初めての出場となりましたが能力的には十分エースを張れる選手なので第2クオーター以降もカーの不在を感じさせることは、ほぼありませんでした。
控えQBに率いられた自軍が展開する激しい競り合いをサイドラインから見つめるカーには、かなり焦りが生じたのではないかな?

さらに余談ながらマリオタはオレゴン大学時代にハイズマン・トロフィーを受賞するなど大活躍をしていますが、ジャスティン・ハーバートもオレゴン大学の出身。
大学ではちょうど入れ替わりになったので被ってはいませんが、期せずして先輩後輩対決という珍しい形となりました。

さてさて、試合は第2クオーターにチャージャーズがFGの後、ハーバートがまたしてもWRタイロン・ジョンソンに鮮やかな26ヤードのタッチダウン・パスを決めて再逆転します(今シーズン27個目!!)。

レイダース 10-17 チャージャーズ。

ハーバートって本当に地肩が強いのでしょうけど、軽く投げている感じなのにボールがスーッと美しい軌道で伸びるように飛んでいきますよね。
見ててとても気持ちいいし、タッチダウンが決まると非常に絵になります!!

ところが一方のマリオタも素晴らしいプレーを見せて後輩に対抗。
後半に入り、TEダレン・ウォーラーの巧みなキャッチやRBジョシュ・ジェイコブズの力強いランなどレイダースが誇るタレントも活躍して再び同点。17-17。

その後、両チームひとつずつのタッチダウンを加え、第4クオーター残り約6分で24-24。
特にこの第4クオーターにレイダースが決めたタッチダウン。
マリオタの怪我を恐れない勇気あるダイビングは感動的なプレーで、見てて震えが来ましたね。

さて。
ここまではこの試合、名勝負の予感でした。
ところが問題はここからで、酷いプレーが連続して観ている方の緊張感が一気に緩んでしまうことになります。

まずチャージャーズが2度、レイダースが1度、FGのチャンスをミスってしまいます。

特に終了間際のレイダースのFG。
決めれば勝ちというシチュエーションで、ホルダー役のコールがセンターからのスナップをキャッチミスしてボールがコロコロと脇に転がり、キッカーのカールソンが何もできなかったのには、もはや笑うどころか、唖然。

またレイダースのCBトレイボン・マレンが試合終盤からオーバータイムにかけ、再三に渡ってパス・インターフェアのファールを犯し続けることでレイダースに来ようとした流れをことごとくチャージャーズに渡してしまったのも熱戦に水を差す行為。

ゲームは結局オーバータイムの末にチャージャーズが30-27で勝利しました。
最後は残り1ヤードの攻防の中、ジャスティン・ハーバートの気迫が乗ったQBスニークが決まり、これが決勝点。

最終盤にガッカリするようなプレーが続きテンションが落ちかけた試合でしたが、最後の最後、ルーキーQBの熱いプレーで試合を締めくくることができて、見てるこちらもチームも救われたという感じでした。

私は元々レイダース・ファンなのですけど、それでもチャージャーズを応援したくなるジャスティン・ハーバートの奮闘ぶりでしたね。
敵であっても応援したくなる存在。
何か一生懸命で憎めないんですよね。

例えばトム・ブレイディなど、選手としての抜群の実績の裏で「人間性云々」などと強烈なアンチも存在しますけど、ハーバートにはそれはあまり無い気がします。

そういう意味では、ジャスティン・ハーバートは新しいタイプのカリスマQBへの階段を昇り始めているのかもしれません

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