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#11 書店員/出版者【北田博充】③

【H…Hiromi / K…北田さん】

▪️H.実際に蔦屋書店さんって、
著者さんに会えるイベントなども
多いじゃないですか。
それもすごい嬉しいなと思っていて。

本から知るときもありますが、
以前、好きなモデルさんが
たまたまその方な蔦屋書店さんでイベントを
やられていて。そこから「本を出してたの!知らなかった!」っていうことがありました。

▪️K. それはいい機会ですよね。
ご本人と直接会えるっていうのは。
私の著書『本屋のミライとカタチ』の中でもamazonの話題が少し出てきます。いまだにちょっと不思議なんですけど、amazonは書店の競合だっていう人が結構いますよね。

▪️H.確かに、電子書籍と本屋さんが
vsになることって多いですよね。

▪️K. amazonって便利ですよね? 便利だから多くのお客さんに使われているわけです。顧客価値のあるサービスは必ずお客さんに支持されますよ。廃れていく書店は市場環境の影響をもちろん受けているとは思いますが、お客さんから支持されるほどの顧客価値をつくれていない、とも言えるはずです。

我々リアル書店はamazonにないものを、
伸ばせばいいと思うんですよね。

amazonになくて、リアル書店にあるのは
「人」と「居心地」です。

「人」というのは
何も書店員とかお客さんだけじゃなくて、
今おっしゃられたみたいに著者さんと出会えるというのはネットにはない価値じゃないですか。

あとは、「居心地」みたいなものもネットにはない価値なので。そういうところをリアル書店は磨いていかないといけないんじゃないですかね。 

▪️H. リアル書店のその価値はすごい感じますね。ただ読みたいだけ、数をこなしたいだけだったら、ネットでパパッと買えますし。

▪️K.図書館だってあるわけですし。

▪️H. これからは人との繋がりの部分が大事になってくるんじゃないのかなと思いますね。

▪️K. これからの本屋は「人と出会う場所」になるかもしれないですよね。

▪️H. きっかけをいっぱい作ってくださっているなと思うのは、リアルで本を買う経験もそうですし、イベントもそうですし、本以外のネイルやカフェもそうですし。空間作りがすごいなって。

やっぱりそれを意識して、
ずっとお店の方は運営されてるんですか。

▪️K.そうですね。

▪️H. どうせ本を買うなら、
ここへ来たいと思える魅力があります。

▪️K. 本ってどこで買っても価格が一緒ですよね。どこで買っても内容も一緒ですし。

当たり前のことを言っているかもしれないですけど、例えばキャベツや白菜だとそうはいかないんです。どこで買っても値段が違うし、味も違うじゃないですか。本ってどこで買っても値段が一緒で内容も一緒なんですよ。

そうなった時に、どこで買いたいか。

お客さんの中で「買いたい本屋さん」を想起してもらうのはすごく大事なことだと思います。

そのためには売り手の個性や、
その売り手自身の魅力が
大事になってくるんじゃないかなと思っていて。

どうせ買うんだったら、あの人から買おう。

そういうのがやっぱり
大事になってくるだろうと思っています。

書店員が書いた「本屋の本」って結構いっぱい出てるじゃないですか。昔から出てるんですよね。大体が書店論とか仕事論みたいな本ばっかりなんです。

▪️H. 本の出し方とか、書き方とか、
そういうのが多いなとは思います。

▪️K. 一昔前は、著名な書店員さんが書店論を書くみたいなのが一般的だったんですけど、 この10年ぐらいは少し傾向が変わってきました。

例えば、花田菜々子さん(蟹ブックス)が、出会い系サイトで出会った人に本を薦める自伝的な小説を書いたり。 「文庫X」で話題になった長江貴士さん(元さわや書店)が、エッセイを書いたり。今、踊り子をやっている新井見枝香さん(元三省堂書店)がエッセイを書いたり。最近だと、森本萌乃さん(Chapters bookstore)が起業のビジネス小説を書いたりとか。

ここ数年、一部の書店員が書く本っていうのは、
書店論や仕事論からはちょっと離れて、
パーソナルなことを書いているんですね。

これって、すごく重要なことだなと思っていて。

書店員のパーソナリティーに興味を持ってもらい、「その人がいる本屋に行ってみよう」という流れは、今後もっと増えてくるはずです。

▪️H. どうせ買うなら、その人のところで買おうってなりますね。

▪️K. そうです。あの人とちょっとおしゃべりしてみたいなとか、面白そうな人だなとか。その売り手自身の個性が大事になってくるかもしれません。

▪️H.なるほど。

▪️K.これまでの一般的な書店だと、書店員はあまり喋らないイメージがありますよね。棚を介してお客さんとコミュニケーションするのが一般的でしたが、これからの時代はそうもいかないんじゃないかな、というのが自分の考えですね。

書店員自身にやっぱり魅力がないといけないし、その人自身に一種のタレント性のようなものがないとダメかなというふうに思いますね。


▪️H.確かに誰から買うかって大事ですね。
値段も中身も一緒なわけですし。
ってなると、本当に人で選ぶなって思います。

▪️K.自分の好きな音楽とかって、「こういう時に、この音楽に出会ったな」って結構覚えていたりしませんか? 学生の頃、失恋した時にこんな音楽をよく聴いていたなとか、
過去の記憶と結びついていたりするでしょ?

本にもそういうのがあっていいんじゃないかなと思うんですよね。「この本、そういえば、あそこに行った時に、こんなやり取りをして、あの書店員から買った本だな」とか。同じ本だけど、買った時の記憶までセットでついてくる。そういうのも素敵じゃないですか。

▪️H. 確かに、思い入れが違いますね。ただ1冊読み終わったってだけじゃなくて。そのストーリーとか。

▪️K. 誰から買ったかっていう記憶も含めて、
読書体験なのかなって思います。


▪️H. その意識を持っている書店さんはどれだけあるんですかね?結構持ちつつあるんですか。

▪️K. それはわからないですね。

少なくとも私は、ページを開いた時に読書が始まり、ページを閉じた時に読書が終わるとは思っていません。

今日はあの店まで出かけて、
あの人に本をお薦めしてもらって買おう、
と思い立った時から読書というのは始まっていて、電車で店まで行く過程までもが、読書なんです。遠足と一緒ですよね。


▪️H. 思いました!遠足と一緒ですね。行くまでのワクワク感とか。読み終わってもあの人に内容をシェアしたいとか。

▪️K. そこまでセットで読書なんです。そう思うと、やっぱり誰から買うかが大事っていうことの意味がわかると思うんです。

▪️H.なるほど。それを思うと読書が好きな人が増えると思います。私自身、元々国語の現代文がとても苦手でした。
読まされてるって感じがあって。読みたくて読んでるんじゃなくて、読めって言われてるから読んでいるけど、全く頭に入ってこないし、心に響かないってなった時がありました。

でも、心に響き始めた時って、自分が本当に何か悩んでいた時に、本がその解決策を与えてくれて。悩みを解決したことによって、
自分が変わっていったストーリーがあったからこそ、本に出会えてよかったって思えました。

またきっかけをもらえる本があるかもしれないと思い、本屋さんに何回も訪れるようになりました。本には思い出みたいな部分があります。

▪️K. 思い出って大事ですよ。物だけ残るのって切ないじゃないですか。

▪️H. 確かに。読んだら古本屋で売ろうって思っていたら、それで終了ってなるじゃないですか。読み捨てるじゃないですけど。

▪️K. そういう読み方もいいとは思うんですけど、思い出に残っていて、捨てられない本があるのも、それはそれで嬉しいですよね。

▪️H. 書く側からしても嬉しいですよね。
「あの本があって今の自分がいる」って思ってもらえることは。そのきっかけを提供したい人もいると思います。

▪️K.梅田 蔦屋書店には1日にたくさんのお客さんが来るから、レジにも行列ができるし、丁寧に売るというよりは、「捌く」って感じになってくるんです。それはある意味仕方ないんですけど、

読んでくれた人が一生の中で
覚えてくれている1冊みたいなものを
提供する側になるっていうのは、
一種のやりがいなんですよね。 

▪️H.売り上げとかだけで考えると
たくさん売った方がいいですが、
トータルを考えると、読書の楽しさを伝えることや価値観を変えるきっかけを提供することの
価値って本当に大きいなと思います。

▪️K.まあ、綺麗事ではありますけどね。

例えば飲食店だと、提供する食べ物って人の体の中に入るから、ものすごく気を使うわけじゃないですか。異物混入があったらいけないし、添加物を使わないという方針の店もあったりとかして。
飲食店って、髪の毛入ってるだけでクレームが来たりするから、提供する側はすごく気を遣うでしょう。でも、本だってもっと気を遣った方がいいと思うんですよ。

たくさん売ることに執着し過ぎると、
読んだ人がその後その本からどういう影響を受けるかまでを想像できなくなってくるんです。

そういう想像力は
書店員に欠かせない能力の一つだと思います。

それぐらい、本ってすごい力を持っているので。

今はなくなっちゃったんですけど、新潟にツルハシブックスっていう本屋があったんです。そこの店主の方は、昔出版社の営業をされていて。営業で地方のヴィレッジヴァンガードに行った時に、そこの書店の中に「お店の開業法」の棚がなかったらしいんです。 1冊もそういった本がなかったので、「そういう本を置いてみたらどうですか?」って、ヴィレッジヴァンガードの棚担当の方に提案したらしいんですよ。

それで、数年後に同じ店に行ったら、
「お店の開業法」のコーナーができていて。

その店員さんに聞くと、「この棚をつくってから、この周辺にカフェが三軒できた」と話されていたそうです。

▪️H. 影響すごいですね。

▪️K. そういう影響を与えるものが本なんです。そう思うと、無責任に売れないというのもあるし、 読者が読んだ後のことをいかに想像できるかは、本の売り手にとって必要な素質だと思いますね。

▪️H. 本を買うならそういう人の手から買いたいなと思いました。想いの部分があると感動しますね。

▪️K.だってその人の行動が変わるわけですからね。

その人の行動が変われば、
周囲の環境が変わることもあり、
周囲の環境が変われば、
社会の変化が
起こることもあるわけで。

本屋って、すごく重要な役割を担っている
職業なんです。


▪️H. そこまで考えてくださってる人って、どれぐらいいるんだろうって思いました。自分もそこまで見てなかったかもしれないです。書店員の方とはレジに行ってピッてする関係でした。

▪️K. そうなりがちなんですよね、我々も。

▪️H. 同じ本でも全然違うし、多分宝物になるなと思います。本も、今だとメルカリなどのサービスもありますし、流れていくものだと思います。でも、ずっと持っておきたい本ってそういう想いがこもった本じゃないかなと思いました。
(④に続く)

【第11回目ゲスト】
北田博充さん

梅田 蔦屋書店 店長・文学コンシェルジュ。
大学卒業後、出版取次会社に入社し、2013年に本・雑貨・カフェの複合店「マルノウチリーディングスタイル」を立ち上げ、その後リーディングスタイル各店で店長を務める。2016年にひとり出版社「書肆汽水域」(https://kisuiiki.com/)を立ち上げ、長く読み継がれるべき文学作品を刊行している。2016年、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に入社。現在、梅田 蔦屋書店で店長を務める傍ら、出版社としての活動を続けている。2020年には本・音楽・食が一体となった本屋フェス「二子玉川 本屋博」を企画・開催し、2日間で3万3,000人が来場。著書に『これからの本屋』(書肆汽水域)、共編著書に『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)、共著書に『本屋の仕事をつくる』(世界思想社)がある。

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