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7月。
厳しい陽射しが照りつける日曜日。
こんな暑い日は、クーラーの効いた部屋で冷たいアイスコーヒーを飲む。
ボトルではなく、水出しのコーヒーだ。
場所は、L字型ソファーの1番右端。
ここが1番テレビが見やすい、僕の特等席だ。
この完璧な空間を整えて日常の喧騒から離れ、のんびりと映画を見て過ごす。
これが僕の休日の楽しみだ。
しかし、今日はそうもいかないみたいだ。

「もう少しでなっつやっすみ〜!今年は何しようかなー?まず海でしょ?とりあえず新しい水着買わなきゃ。そして夏祭りでしょ?極め付けは友達と旅行!はー楽しみすぎるー!」
家では夏休みを目前に控えた中学生の娘がはしゃぎにはしゃぎまくっている。
すると、その様子を見た妻が娘を奈落の底へ突き落とした。
「あんた、その前に期末テストが控えてるでしょ!来年は受験生なんだから、前みたいな点数とって来たら外出禁止にするからね!」 
「は!何でよ!」
「何でよじゃないでしょ!前回の中間テストの順位、下から数えたらすぐだったじゃない。そんなに夏休みを謳歌したいんだったら、次の期末テストでせめて半分より上の順位を取りなさい。」
「無理だよそんなの!」
「なら夏休みの外出は諦めなさい。最近ママ友にいい塾を教えてもらったから、夏休み中はそっちへ通ってもらうわ」

妻の鬼の様な形相と勢いに駄々をこねても無駄だと悟ったのだろう。
娘の顔は青を超えて白くなり、渋々教材を開き勉強を始めた。
しかし、娘の勉強嫌いは筋金入りだ。
その集中力は30分ともたなかった。

「あ〜もう無理!本当に勉強だるい!」
ふてくされた娘はスマホをいじり始めた。
その様子を見て僕は娘に問いかけた。
「勉強は嫌いか?」
「当たり前じゃん!逆にパパは好きだったの?それやばいよ?あ、でもそっか。パパは教師だから勉強好きで当たり前か。あー、何でその遺伝子を引き継げなかったんだろ」
「何で嫌いなんだ?」
「何でって、とにかく面倒臭いじゃん?将来役に立つのかも分かんないし。でもいい点取んないとお母さんは怒るし。もう最悪だよ」
「別にいい点は取れなくてもいいぞ」
「え?」
娘は素っ頓狂な声をあげた。
「勉強は嫌い、大抵皆んなそうさ。でもな、嫌いなことから逃げ続けちゃダメだ。嫌いなことにも負けない心を養う。そのために勉強はするんだ。さっきパパの遺伝子を引き継ぎたかったって言ったろ?ちゃーんと引き継いでるよ。パパだって、昔は勉強が大嫌いだったんだから。でも高校生の頃、今の言葉を担任の先生に言われてからは勉強を頑張れたんだ。だから、いい点は取れなくてもいい。ただ、頑張ることだけは諦めるな」
娘は俯いたまま呟いた。
「私にも、出来るかな?」
「出来るさ、パパの子なんだから」

それから娘は人が変わった様に勉強し始めた。
まだ集中力が長くはもたないが、それでも真剣に教材と睨めっこしていた。
そして期末テストの日を迎え、日を待たずしてそれは返却された。

迎えた土曜日。
「そろそろ期末テストの結果が出たんじゃないの?」
皿を洗い終えた妻は手を拭きながら娘に聞いた。
「…うん」
「どうだったの?見せてごらん。」
「はい…」
そう言って娘が妻に渡した回答用紙には、上がってはいるものの、決して良いとは言えない点数が名前の横に書いてあった。
「点数も順位も上がったとはいえ、これは考えものね」
娘は大きく肩を落として言った。
「分かってる、塾に行けばいいんでしょ」
しかし、妻はいった。
「でも、よく頑張ったんじゃない?」
「え?」
「ちゃんと見てたわよ、あなたが必死に勉強してる姿。海に夏祭りに旅行だっけ?準備するものもあるだろうから、後で買い物に行かなきゃね!」
「ママ…ありがとう」
半分泣いている娘は、急にハッとした様子で僕の方を見た。
しかし、それはあえて無視。
なんと言っても今は映画の重要なシーンだ。
クーラーの効いた部屋でL字型ソファの1番右端に座り、冷たいアイスコーヒーを飲みながら映画を見る休日は、やはり最高なのだ。

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