アスペルガーのわたしが大人になるまで気づかなかった人間社会の重要な法則

社会人2年目のころ、休日に会社の先輩と夏のイベントに行ったときのこと。

記念に一緒に写真を撮ろうという話になりました。

浴衣を着ていたので、せっかくなら自撮りじゃなく誰かにお願いして全身を写してもらいたい。

キョロキョロして頼めそうな人がいないか探すものの、なかなか適当な人を見つけられないわたし。

すると、先輩が男女数人のグループに声をかけました。

「撮りましょうか?」

カメラを構えていた人はありがたがって先輩にカメラを渡し、グループに加わって全員で写真に収まりました。

そして、

「あ、撮りましょうか?」

と申し出てくれ、先輩とわたしは頼んでもいないのに写真を撮ってもらうことができたのです。

その技の鮮やかさに唖然としました。

「そんな方法考えたこともなかったです。」

「本当?こんなの常識だよ。」


人に頼るのが苦手だった大学時代


高校時代までは、学校の勉強はぜんぶ一人でできてしまいます。

小学校、中学校のころから、友達にノートを借りたり、試験勉強をする気が起きないから一緒に勉強しようと誘ってみたりして、他人の力を借りるのがうまい人はいるでしょう。

ですが、わたしは勉強が好きで自分でやりたいというこだわりが強かったので、友達の力を借りる必要性を感じたことがありませんでした。

また、中学、高校と仲のいい友達が一人もできず、小学校からの友達ともクラスや学校が違ったりして、いつも一人でいたので、そもそも頼れそうな人もいませんでした。

しかし、大学時代の後半になると、まじめに講義を受けて勉強しているだけではできないことが増えてきます。

わたしの所属していたゼミでは、講師が教えてくれるわけではなく、学生が持ち回りでテキストの担当範囲を自分で読んで理解し、発表するという進め方でした。

その内容は、わたしにはむずかしすぎてどうしても理解できないものでした。

そういう場合、自分の担当範囲の発表をするためには、ゼミのメンバーに自分から連絡して助けてもらう必要があります。

ですが、わたしには自分でやるという選択肢しかなかったので、よく理解しないまま発表日が来てしまい、毎回説明できず四苦八苦するはめになりました。

さらに、前の内容を理解しなければ次の内容が理解できない積み上げ式の学問だったので、自分の担当範囲でなくても、発表者の人にお願いして教えてもらったりして、順番に理解して行く必要がありました。

それも聞きづらくてしていなかったので、どんどんわからなくなっていきました。

面倒見のいい講師や先輩がフォローしてくれ、よく理解しているメンバーから時間を取って教えてもらえるようにお膳立てしてくれたこともありました。

ですが、他のメンバーとはゼミで顔を合わせるだけで個人的な関係を築けていなかったので、いざ教えてもらう段になってもどのように聞いたらいいかわかりません。

わからない点がいくつかあるというのではなく、基礎的なところから理解していないので、付きっきりで一から教えてもらわなければダメなのです。

結局、いくつか質問して、わかったようなわからないような感じで終わりました。

会社の仕事も一人でやろうとしてしまう

就職してからは、大学の専攻と違う分野を選んだこともあり、仕事がなかなかできるようになりませんでした。

まじめにがんばってはいましたが、受け持った仕事の期限直前になってから間に合わないと申告したり、期日になってからまだできていないと言って、先輩に怒られることがしょっちゅうでした。

大学時代と同じで、わからないところを質問すれば進められるレベルではなく、全体的にわからなかったのです。

仕事に行くだけで疲れきっていて、就業時間外に勉強できなかったことも一因ではあります。

ですが、上司や先輩、同期の仲間とうまく関係を築ける人であれば、割り振りを少なくしてもらう、何度も相談する、勉強に付きあってもらうなど何かしら調整できたはずです。

ところが、わたしにはどこまで自分の力でやるべきなのか、期限までに仕事を終わらせるために他人の力をどう活用すればいいのか、わかりませんでした。


人に何かしてほしかったら、自分から何かしてあげる


大学時代や就職したてのころのわたしが知らなかったのは、「人に何かしてほしかったら、自分から何かしてあげる」という法則です。

言い換えるなら、自分がいつも周りの人をよろこばせていれば、自分が必要なときに助けてもらえるということです。

大学時代のわたしには、なぜ他の人たちが頻繁に集まって飲んだり遊んだりするのかがわかりませんでした。

自分はそういうことが楽しくなかったし、その分勉強ややりたいことをする時間が減るので、時間がむだになると思っていました。

友人どうしで遊ぶ人たちはそれが楽しいからやっているだけかもしれませんが、そうしてよろこびを与え合うことで助け合える関係を築いているのです。

会社で仕事をする場合でも同じです。

自分が与えられた仕事だけを自力でやろうとするのではうまくいきません。

人の能力には偏りがあります。

そこで、上司や先輩の仕事の中で自分ができることを代わりにやる。

あるいは自分にできる仕事がなくても、会話で楽しませるとか、すごいところを称賛する、お酒好きな人なら飲みに誘うなどできることはあります。

そうして信頼や親しみを持ってもらうことで、自分も仕事を教えてもらったり、力になってもらえるのです。

これがアスペルガーのわたしがずいぶん後になってから気づいた社会の重要な法則です。

気づいたからといってすぐに実践できるわけではありませんが、少しずつ周りの人のやり方を観察し、真似することで身につけていきたいと思っています。


(この記事は2018年に書かれたものです)

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