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「ホームレスになった時、誰とも話したくなかった」という言葉を紐解く。

先日、ある新聞社の取材をひとりの人が引き受けてくれた。わたしが働いているホームレス状態の人たちのサポートを行っているHomedoorで、数年前に関わっていた人だ。2年前から、セキュリティ関係の会社で日夜問わず働いていて、久しぶりに会うと恰幅が良くなっていた。

ニコニコと取材に応じてくれていたなかで、一度だけその人が語気をぐっと強めた。

「ホームレスになった時はな、誰とも話したくなかった」

なんだか、その言葉を忘れることができなかった。1時間強の取材の中で、同席していたわたしはその一言だけを無意識にメモしていた。

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「身分証も住所も携帯もない自分は、仕事を見つけることもできひんかった」

「周りの人に直接なんか言われたわけじゃないけど、誰かに何かを言われているような気がしていた。夜は特に」

その人はぽつりぽつりと記者の方からの問いかけに答えてくれた。


これまでわたしはたくさんの人の生活歴を聞いてきた。なぜか、みんな示し合わせたかのように同じことを言う。

「こんなふうになるなんて、思ってなかった」と。

その人もまた、そう言った。

この言葉は、ホームレス問題が自分と地続きの話ではないと思っていた人たちの素直な気持ちだと思っている(少なからず蔑視の気持ちがあったと振り返ってみて話す人は多い)。だからこそ、ホームレスになった時、誰とも話をしたくないと思ったのだと思う。

もし家や仕事を失うことが、日本に住むわたしたちにとって当たり前のことだったら、あの人は暗澹たる気持ちを抱えて塞ぎ込んでしまうだろうか。きっとそんな風に暗い気分にはならず、あっけらかんと過ごせたんじゃないだろうか。

多くの人は、どこかでホームレス問題は自分と無関係だと思っている。気がつけばわたしがはじめて炊き出しに行ってからもうすぐ17年が経つ。この間出会ってきたあまたの人に「ホームレスになるなんて自分のせいやん。なんでそんな人たちにずっと関わってるん?」と言われてきた。

知識が伴わず、うまく返答できないこともあった。そのたびにわたしは自問自答してきた。たくさんの本を読み、いろんな経験をしてきた人と関わりを持った。そして、家や仕事を失った時に本来支えとなる公的な支援から取り残されてしまう社会構造こそが課題であると気づいた。紆余曲折を経て、支援の不足を民間で補おうとHomedoorではシェルターの運営や生活のサポートを実施している。

ありがたいことに多くの人の協力のおかげで、年間1000人を超える新規相談にあたることができている。

でも、それだけではまだ足りない。

「こんなふうになるなんて思ってなかった」という人、を残念ながら減らすことはできていない。仕事を失っても、帰る家がなくなっても、絶望を感じずにやり直せる社会をつくりたい。ホームレスになってしまうことが、その人だけの責任ではないと誰もが思える社会になって欲しい。


そこで、新たなチャレンジをはじめた。


誰しもがホームレスになる可能性はある。
そして、誰しもが再出発を目指せる環境にある。


家や仕事を失った経験のある人たちが自らの生活や、ひとりひとりの感性で切り取った瞬間を集めた写真集をつくることで、そんなことを考えるきっかけをつくりたいと思っている。あくまで、ライトに。

ホームレスにならざるを得ない社会の中で、その人たちが見てきたこと、感じてきたこと、思っていたことが伝わるものにしていきたいと考えている。

どうしても重たい社会課題だと思われてしまう。だから「写真」を選んだ。子どもから大人まで、誰でも読むことができるものにしたい。

写真集づくりは商業出版ではなく、クラウドファンディングで行うことにした。理解・共感を集めることが、そもそもの今回の最重要課題だから。

クラウドファンディングとしてはかなりスロースタートで、改めてホームレス問題を多くの人に理解してもらう難しさを痛感している。

でも、今は17年前の何も質問に答えられなかった時とは違う。この写真集の価値を理解してくれている強力な仲間がいる。そしてHomedoorで関わってきた数千人の人たちがくれた率直な声をわたしは知っている。

▼少しだけその声をこちらから聞いていただけます▼


その言葉たちを、形を変えてわたしは伝えていきたい。これは社会に新たなうねりを起こす挑戦であると思っている。

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もし少しでも心が動いたら、ぜひクラウドファンディングページを覗いてみてください。これを読んでくれたあなたの関心が少しでもこのプロジェクトに向くということが、社会のうねりの大きな一歩だと、信じてやみません。


普段の自分ならしないことに、サポートの費用は使いたいと思います。新しい選択肢があると、人生に大きな余白が生まれる気がします。