小説【博物少女 ヒロメリエ!】#1-01
第1話『異業種転職したら【館長】だった件』 SCENE 1-①
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「それじゃあ、明日から早速働いてもらうから」
その人物は私に向かって採用の通達をした。
しかし、私はまったく嬉しくなかった。なぜなら
私は決して中途採用の面接を受けていたわけではないからだ。
『ありがとうございます! 御社のため精一杯がんばります!』
などの生真面目なリアクションをするわけでもなく
(よかった……これで来月もガチャに課金できる……)
などとゲームにお布施するための懐事情を心配してもいない。
そしてここはどこかのオフィスビルの面接会場ですらなく
我が家から最寄り駅までの間の、何の変哲もない住宅街の小道である。
一応東京23区内ではあるが人通りはそれほど多くなく
夜道を照らす街灯の間隔も広め。ネットの賃貸情報サイトだったら
『夜道のひとり歩きは危険かも……』とレビューを
書かれてしまうかもしれない暗さだ。
その人物は全身真っ黒なコート姿でフードも目深にかぶっており
更に暗い夜道なのでフードの中の顔を確認することも出来ない。
声質と口調からおそらく女性ではないかと思われるが……。
さらに背後には、黒いスーツ姿の男たちを10人ほど従えていた。
見たところ、全員なかなかに美形揃いのようである。
ひょっとして、この人物は叶姉妹のどちらかだろうか?
いや、叶姉妹にしてはだいぶ小柄だ、おそらく別人だろう。
(実物見たことないけど)
ともあれ
いま目の前にはそんな"やべーやつら"がいて
しかも住宅街の往来という大変キワドい場所で、
まるで人事の担当者かコンビニの店長のような物言いで
明日から私をどこかで働かせようとしているのだ。
新しい出会いや環境に歓喜する要素など皆無、
ただひたすらに恐怖感しかない。
<②に続く>
<前回>
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