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司法試験合格に必要な能力

noteでは初投稿になります。回答にまとまった分量が必要なご質問をpeingで頂いたので、そのお答えをしたいと思います。

まとめて言うと

学説の深い知識はいりません。必要な知識は、正確な条文知識と判例法理に尽きます。問題文中の事実から法的に重要な内容を取り出して条文・判例に従って処理する能力があれば十分です。

条文・判例ポテンヒット理論

キャッチーなタイトルをつけることに意味はありませんし、以下の内容はおそらく有能な法科大学院・法学部教員や、予備校講師にとっては自明のことだと思います。ただ、2021年度からしばらく関西大学法科大学院で会社法の主担当教員となる以上、一通りの考え方をお示ししたいと思い、若干キャッチーなタイトルを付けました。

司法試験は法曹実務家の登竜門ですから、世の中の事件・トラブルを法的に処理する基礎的な能力があることが合格の基準です。その中心は、もとのご質問が指摘するような、条文・判例を使いこなす力であることは明らかです。少なくとも実務は判例を中心に動きますから、学説はその判例を正確に理解した上で、判例を批判的に検討する際の武器として二次的に出てくるものだと思います。

ただし、世の中の「ギリギリ合格答案」は、あまりもてはやされるべきものではないと思います。全ての科目にギリギリが揃えば確かに合格しますが、それが1科目でも揃わなければ不合格になってしまいます。ある程度の余裕をもって試験に合格することが望ましいのは明らかだと思います。

それを実現するためには、問題文中の法的な問題(論点)を正確に理解し、判例(場合によっては通説)ベースで的確に処理できること標準的な論点(いわゆる論証ブロック・パターンの類い)と異なった部分があれば、それを上手に処理することに徹することだと思います。ベースとなるスキルは、試験科目の様々な論点につき、判例ベース(理由付けももちろん必要)で正確に処理することに尽きます。

僕の感覚からすれば、これは論点という球に対する打率のように見えています。派手な処理(いわゆるホームラン)などいらない、ただしポテンヒットでいいので、確実に打率を上げることが、合格への早道です。また、問題文中の事実を正確に読み、法的に評価して論点に落とし込む作業は、いわば選球眼が求められているのだと思います。選球眼を養うのには、もとの判例を知ることが手っ取り早いと思います。論証ブロックの類いではイメージがわきにくい人も多いと思われ、肝心な部分がネグられていることも多いと思います。そのため、判例の事案・結論・理由付けを自分なりに整理する作業は手間ではありますが合理的な勉強法だと思います。既存の教材を使うことは時間の節約には役立ちますが、そこに含まれる誤りやミスリーディングな表現は、自己責任で適宜修正しなければならないと思います。

択一式試験・論文式試験・(予備試験)口述式試験

これらの位置付けについても簡単に述べると、択一式試験は条文・判例ベースの基本法理解を、結論の正確性でスクリーニングする試験です。論文式試験は、それに事案分析力と、結論・理由付けの正確性、論点間の整合性をあわせてチェックする試験です。予備試験の口述式試験は、それを短時間で器用に処理することがさらに求められます。実際に法曹となった時の即戦力性が垣間見られる試験だと思います。

それぞれに要求される能力はやや異なりますが、いずれも条文・判例ベースの基本法理解を、理由付けを含めて正確に理解することが正攻法です。それを瞬時に・極力正確にできるという意味で、先ほど条文・判例ポテンヒット理論という言葉を使いました。ただし、その打率はイチロー選手程度では足りないということもわかっていてください。当初は打率が極めて低く、復習事項も膨大でくじけがちですが、改善が進めば復習事項は減っていきます。腐らず焦らず、地道にポテンヒットを積み重ねましょう。


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