前期を振り返って、または、授業のコンセプトについて

ようやく終わりがみえてきた

法科大学院の授業は、ご存じの通り15回+定期試験がマストです。今年度担当した2年次会社法演習、3年次会社法発展講義とも14回目が終了し、ようやく終わりが見えてきました。2年次会社法演習は来年度も担当しますが、3年次会社法発展講義は今年度限りの担当なので、(再登板がない限り)今回の受講生が最初で最後の方ということになります。一方で2年次会社法演習は、後期にさらに2クラスを、また来年度も継続して担当するので、このタイミングで授業のコンセプトについて振り返り、自分の頭の整理の機会にもしたいと思いました。

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2年次演習は条文と判例を丁寧に。生理と病理の両面を

前任校では法科大学院専任教員として法科大学院科目のみを担当していたので、同様の科目(未修2年次・既修1年次の会社法演習2単位)の担当経験はありました。もっとも、資料が古くなりすぎていたことから、コンセプトは同じものの、内容はゼロから書き下ろすことにしました。

会社法は他の基本法科目に比べ、制度の作込みが進んだ科目です。まともな(というと失礼ですが)株式会社であれば、標準的に設けられた手続を踏んで通常の効力が生じるルートを進むと思われます。また、企業活動という性質上、事後の紛争解決の視点だけでなく、事前に予防する視点も重要であり、これも制度が作り込まれている一因です。

しかし、他の科目になれていると、この標準的な制度に乗った手続進行という感覚がピンとこない方も多いのが実情です。いわゆる論点主義という立場からすると、条文をスルッと通過していくだけで論点がない、制度の理解を説明することだけでも(その制度が複雑がゆえ)問題になることが理解できないのです。

そこで、2年次演習では、授業を大きく前半・後半に2分し、前半ではその回の範囲における条文の趣旨・要件・効果を確認することで、制度が標準的に動いた場合にどうなるか、いわば生理を定着させることとしました。そして後半では、その制度が十分にワークしなかった場合に現れる判例、いわば病理について、生理の例外あるいは隙間の問題として整理することとしました。この定着のため、後半の判例・裁判例は古典的なもの・有名なものを中心とし、極端に新しいものを攻めるということはしませんでした。

3年次発展講義は新しい判例を。会社法判例は鮮度が命

他方、3年次会社法発展講義は、これでもかというぐらい新しい判例・裁判例を取り扱いました。会社法判例百選は今年9月以降に4版が刊行される予定になっており、受験生がフォローできる判例・裁判例もだいぶアップデートされます。しかし、多くの受験生にとって、百選に載らないがそれに準ずる価値のある裁判例(重判に載るレベルのもの)をフォローするのはかなりの労力を要しますし(他の基本法もありますしね)、濫用的(詐害的)会社分割に関する最判平成24年10月12日のように、その後平成26年会社法改正・平成29年民法改正を経て、判例の位置付けや現在の適用条文に変化があり得るものもあります。以上のような観点から、重要性はもちろん考慮に入れつつも、学習上の便宜も考えて、なるべく新しい判例・裁判例を事例問題に組み込むことを意識しました。いわゆる瑕疵連鎖に関する最判令和2年9月3日、社債に対する利息制限法1条の適用の可否が問題となった最判令和3年1月26日などがその例です。ついてくる学生さんもしんどかったと思いますが、僕もこの間作った事例問題は、出版できるほどの熟度もないのでそのままお蔵入りになる予定です。。。

なにより消化不良になっていないかが不安

授業アンケートの感触は幸いなことに良好でした。ただ、主観的満足度の陰で、実際に客観的にその内容が定着しているかが担当教員としては不安です。部分的にはレポート・期末試験で確認をしますが、その場合に足りない部分のフォローアップを、どうにかしないとなあと思っています。

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ひとまず受講生の皆さんに感謝

何より、久しぶりの法科大学院担当科目だったので、受講生の皆さんにはある意味実験台になってもらったことになります。少しでも司法試験に役立つ内容にしたつもりではありますが、負担がきつかったり、独特のキャラに手こずったこともあると思います。ひとまず半期お付き合いいただきありがとうございました。そして、期末試験頑張って。

                              いじょう

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