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Moon Sick Ep.14

「月で暮らしてたなんて、かぐや姫みたいですね」
たぶん、何気ない感じで言えたと思う。

「…そうだね」
しばらく沈黙が流れた。
この沈黙が、どういう意味の沈黙なのかと、俺はあれやこれやと考えを巡らせていた時、

「でも、あの話は、実に興味深いよね?」
顧問が、低い声でつぶやくように言った。
「あの話って?」
「かぐや姫です」
「興味深いですか?童話ですよ?」 
今の言い方は、ちょっと素っ気なさ過ぎたかもしれない。

「竹取物語と言った方が良かったかな?」
顧問は、特に気にした様子はない。

「どっちでも…」
ホッとしたせいか、ため息混じりに声が出た。

「あの話が作られたのは、平安時代初期だと言われています。そんな昔に作られた、こんな千年後の未来まで残っているのはどうしてだと思いますか?」
「…どうしてなんでしょうね?」
とぼけた答え方をしてしまった…。
とはいえ、気の利いた返しも思いつかない。

「こんな風に長く残り続けている物話には、残るだけの理由があると言われています。こういう長く残る物語には、元になった出来事があったんではないかと言われているんですよ」
俺は、相槌を打つのを忘れて、顧問の顔を見ていた。顧問の表情は変わらない。

「神話もしかり。神話の名を借りて語られてはいるものの、リアルに似たような出来事があったのではないかと言われています。だからこそ、千年、2千年先まで、語り継がれているのではないかと、実際歴史的に、物語にアプローチしている人もいるというわけです」

「つまり、先生は、かぐや姫の物語も、実際にあった話だと言いたいんですか?」
「そうですよ」
当然だといった口ぶりだ。

「垂仁天皇の后の中に、『迦具夜比売(かぐやひめ)』という名前の后がいたのは、ご存知ですか?」
知ってるわけがない。俺は首を振った。

「もちろん、確認できる術などありませんが、そう聞くとあの話が全くのフィクションではないのかもしれないという気になってきますね?」
頭が、グラグラして、うまく考えが回らない。

「さて、ここで、最初の話に戻るんですが…」
「最初の話、ですか?」
「はい、『月で暮らしていたという人』の話です」そう言って、微笑んだ顧問を見て確信した。
顧問は、なにか知っている…。
その上で、俺に話しているということを…。



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