見出し画像

Moon Sick Ep.11

俺は、眠ることを諦めて起き上がると、ネットを立ち上げた。

ネットでは、半年ほど前に、月で見つかったという人工の建造物の話題に溢れていた。人が月へ旅行することが現実になる時代が、もうすぐそこまで来ていることを、だれもがなんとなく感じ初めていたころだっただけに、この話題は、驚き信じる者とどうせガセだろうと相手にしない者とが、きれいに分かれていた。

同じような話題、同じような報道を見聞きしているはずなのに、この意見の相違は、一体どこから来るものなのだろうか?

そう思いながら、SNSの海の中に、さらに潜っていく。

富裕層の間で、計画されていたらしい月の土地の販売計画は白紙に戻り、月への移住計画に向けて予定されていた視察ロケットの打ち上げも、一旦保留になったらしいと、ネットには書かれてあった。

俺は、ここが、意見の相違の分かれ目のような気がした。

月の土地の販売計画。
月への移住計画。

あらかじめ、月に人工の建造物が見つかる前からこのことを知らされ、月に関心を払っていた人間は、おそらくすんなりと信じるのだろう。だが、ここへ来て初めて聞かされた人間や、月は見上げるものだと思っていた人間にとっては、たぶんフェイクと思うのかもしれない、そう思った…。

情報なんてものは、どのタイミングで受け取るかによっても、受け取った後の印象が大きく分かれるものだ。例えば、限られた人だけに知らされた情報は無条件で信じやすいし、不特定多数にもたらされた情報は、信じる人と信じない人に分かれやすい傾向にあるんじゃないのか?

人は、自分の持っている情報によって、物事を判断している訳だが、受け取っている情報は、人それぞれに違いがある。だから意見は分かれがちなのだ。

地球で生まれて地球で暮らしてきた俺にとって、月の建造物の存在を確信する為の根拠なんてものは持ち合わせているはずもないし…。月の土地の販売計画や月への移住計画があった話も、半年前に初めて知った程度だった。その程度ではあったが、俺には、『昔、月で暮らしていた』と言ってくる姉がいた。

俺は、昔、あの話を不特定多数に投げかけたことがあった。匿名で、どこかのだれかがどんな相談事にでも答えてくれるらしいと知った時のことだ。1度だけSNSで姉の発言をつぶやいてみたのだ。

そんなの『何言ってんだ?』ってスルーして終わりにするればいいって…
自分なら、間違いなくそうするって…
という優しいアドバイスもあったが、

釣ってんじゃねぇよ!とか…
妄想話なら、小説サイトに投稿してみたらどう?とか…
1度、姉弟でカウンセリングを受けて診られては?とか…

スルーされるとばかり思っていたつぶやきは、思っていたよりも反応があったことに驚いた。…と同時に、これが自分が発信したことへの反応なのかと思うと、なかなかにダメージもくらった。

同情めいたもの、批判めいたものと、様々な反応だった…。俺のつぶやきを信じた上での同情と信じない上での批判…。この立ち位置の違いは、それぞれが持っている経験という情報の違いだったのだろうと今ではわかる。

とはいえ、結果から言えば、誰も彼も、姉の発言に関しては、最初から否定ありきだったと言ってもいい反応だった。

それが、普通の反応だと、自分でも思う。

だが、これが限られた人だけにもたらされた情報だとするなら、人は割と信じてしまいやすい。それが繰り返しもたらされた情報なら、なおさらだ。

何が言いたいのかというと、つまり…。
俺が、さっきから、遠回しに言おうとしていたのは…。

あの月で見つかったという人工の建造物の話を聞いた時、「やっぱり…」って思ってる自分がいたってことなんだ。

これがどういう意味か、わかって貰えたらうれしい。

【御礼】ありがとうございます♥