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Moon sick Ep.23

次に気がついた時、姉の部屋のドアは開け放たれていて、姉の姿はどこにも無かった。

あわてて飛び起きて、家中を探し回ったが、姉はいなかった。まさかと思い、玄関に走っていくと、玄関先は開け放たれてあった。
庭に咲く白い花が、明るい暗闇の中で、不自然に開いていているのを目にした瞬間、ゾクリとした。「満月ね」と言っていた母の言葉を思い出したのだ。

全然気が付かなかった。
いつのまに、姉は外に出ていったんだ。
自分にしてもそうだ。ドアにもたれかかっていたはずなのに、いつのまにか床に転がるように眠っていた。

姉が、すり抜けるように部屋を出てから、この家を出てから、一体どれくらい時間が経ったのだろう?

僕は、一旦携帯で母に連絡を取ろうとしたが、すぐに止めた。今から姉を探して連れ戻せば問題ないとだろう思い直したのだ。仕事中の母に余計な心配も掛けたく無かったし、薬を飲ませていないことを咎められそうな気もしたのだ。

一度押しかけた携帯の通話ボタンから手を離すと、そのまま上着のポケットに突っ込むと、僕は、靴を履くのももどかしく、外へと飛び出した。

外は、満月の明かりで、まるで外灯に照らされているかのように明るかった。辺りの景色が、真夜中だというのにはっきりと見える。

姉の自転車が軒下に停まっているところを見ると、姉はどうやら歩いて出かけたのだろう……。あの姉のゆっくりした歩き方なら、自転車で追いかければすぐに追いつけるだろう……。

これなら、姉をすぐに見つけられるかもしれない。僕は、そう思って自転車に乗ると、勢いよくペダルを漕ぐ足に力を込めた。  

だが、しばらく走る内に、辺りの違和感に気付き始めた。

真夜中だと言うのに、辺りを歩いている人が多すぎるのだ。僕が以前住んでいた町ならわかる。街なかにあったし、少し歩いただけで、真夜中でも開いてる店はいくつもあった。コンビニしかり、居酒屋しかり、真夜中しか開いてない店すら、近所にいくつかあったから、真夜中と言えども、ちょっと歩くだけでも、何人もの人とすれ違うような、そんな町だった。

だが、この町は違う。

町のあらかたの商店街は、遅くても夜の8時には閉まるし、ファミレスですら24時間営業ではなく、コンビニは駅前に一軒あるくらいだ。しかもここも12時には閉まってしまうような、のんびりとした静か過ぎる町なのだった。

こんな時間に人が出歩いているのを見たのは、この町に越して来てから一度も見たことがなかった。

こんな何でもない日に、何かお祭りでもあるのだろうか?と思いたくなるような人の多さに、戸惑いながら、人並みを縫うように自転車を漕いで、姉の姿を探し回った。


【御礼】ありがとうございます♥