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Moon Sick Ep. 13

「月では、地下に暮らしていたのよ」
「地下?」
姉が頷く。

「クレーターから、地下に続く通路があるのよ」
姉は、いつもこんな風に、まるで見てきたように話し始める。

「地下には、大気が作られる装置があったから、宇宙から月に降り注いでいる放射線を防ぐことも出来たのよ」

激しい気温差のある月の表面とは異なり、地下には太陽光発電システムのようなものが作動しており、常に快適な温度が保たれていたらしい。

『住めないこともなかったのかもしれない…』
姉の話を聞いていると、そんな気さえしてくるのが、少し怖かった。怖いのは、これが未来ではなくて、過去の話だからだ。


「人は、月で暮らせると思いますか?」

そういえば、そんな風に、つい口にしてしまったことがあった。


あれは、夏の合宿で、湖の畔にあったキャンプ場で、天体観測をした時のことだ。
明け方近づくにつれ、眠さに勝てなくなった部員たちが1人減り2人減り、気がつけば、目を覚ましているのは、顧問と俺だけになった。

普段、学校では、あまり表情の変わらない、もの静かな男という印象の顧問だったが、その時は、めずらしく色々と話し掛けてきた。

何かのきっかけで、話は、いつしか宇宙人の話になった。2人とも、宇宙人はいるだろうという意見で一致していた。

「先生は、見たことはあるんですか?」
「いや、見たことは無いけど…」
「無いけど?」
顧問は、俺の問いには答えず、不敵に笑って、こう言った。

「見たことはありませんが、そういうことを言っていた人に会ったことがあります」
「どういう意味ですか?」
「『月で暮らしていた』と言っていた人と会ったことがあるんですよ」
胸を打つ、自分の鼓動が聞こえてきそうだった。

「それは、もしかして…」
と言いかけたところで、ハッとした。
「もしかして?」
「いえ、なんでもありません」

『姉かもしれない…』
そう思った。
確かに、姉は、この高校の卒業生だ。

だが、すぐに、幼い頃の自分が、
『それを口にするのは、まだ早過ぎる』
と制止してきた。

【御礼】ありがとうございます♥