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カスタマーサクセスをスケールさせる: テクノロジー投資 vs. 人材投資

注:著者の許可を頂き原文の和訳を紹介します

人材投資 vs テクノロジー投資
キャッシュフローや資金調達に限りのある創業初期のSaaS企業では、人員数に余裕がないのが常ですが、設立当初からカスタマーサクセス(CS)を専属チームとして用意するケースが多いです。

しかし、この孤独なCSチームは、カスタマーが確実に契約更新するよう、トレーニングや、継続的サポート、その他山盛りの作業を担当し、やるべき仕事が溢れかけていることも多いでしょう。そんな中で、更に会社が成長するのに伴い、CSチームは自分達の役割をどう拡張すべきかを考え、迅速に対応していかなければなりません。

簡潔に言うと、以下2つの選択肢の中から方向性を決める必要があります。
1)CSのソフトウェア/テクノロジーに投資する
2)追加のCSチームメンバーを雇う

新メンバー採用のインパクトを想像するのは難しくありません。 簡単に言えば、1人追加で雇えば、現メンバー1人分の成果が追加されます。 優秀な人材を雇えばより高い結果を期待できますが、逆に採用ミスを犯してしまえばチームの可能性を制限することにもなりかねません。

一方、CSテクノロジーへ投資すれば、効率と有効性が大幅に向上することでの飛躍的なインパクトを得られる可能性があります。

たとえば、CSMソフトウェアを利用すれば、データに基づき、どのカスタマーがプロダクトの利用に苦労しながらも黙っているとか、どのカスタマーが離脱の可能性が高いとか、逆に利用を拡大する気が満々であるとかを特定することができます。プロダクトの各モジュールや各機能ごとの利用状況、オープンサポートの依頼数、アクティブ・ユーザーの利用傾向、ユーザーとのインタラクション回数などのデータを得ることで、カスタマーのプロダクトへの関与度合いと、カスタマーとの関係の健全度合いのレベルを理解することができます。CSマネージャーは、これらの指標を手に入れることで、適切なカスタマーに、適切な支援を、適切なタイミングで提供できるようになり、必然的により高い成果と高い定着率の実現に繋がっていくのです。

具体的には、次のような違いがあります。
注)W= With テクノロジー、WO= Without テクノロジー

▪️カスタマー・エンゲイジメント
W: 支援を必要としているカスタマーに必要なタイミングで先回りしてコンタクトできる
WO: 「お客様は皆平等」または要求ばかり多いカスタマーに大半の時間を割かれる

▪️解約リスク
W:解約防止策が打てるよう早めアラート
WO: 気づかないまま解約

▪️アップセル機会
W: アップセル見込みの高いカスタマーの存在を知らせるアラート
WO: 機会を見出せないまま

▪️CSマネジメントのベストプラクティス
W: ワークフローやマニュアルに反映されチーム標準化
WO: チーム内に属人的、多様な実務が混在

▪️カスタマー情報
W: 1つのプラットフォーム上に集約
WO: 複数システム上に分散して存在

▪️ビジネス・インテリジェンス(BI)
W: 社内向け・カスタマー(xBRs)向け共にPoint & Clickでレポート作成
WO: 複数のツールを使ってチャートやトレンドを作成

▪️カスタマーヘルス(関係健全性)のモニタリング
W: セグメントごとに指標が組まれ、客観的なデータが計測され、先行指標を常に評価
WO: 往々にして、主観的かつ先行指標としては限界のある個別指標に依存

テクノロジー投資を優先すべきタイミング
カスタマーサクセス(CS)のテクノロジーを利用するメリットが明確になったら、次は導入タイミングについて考える必要があります。追加人員の採用や人材トレーニングへの投資よりも、テクノロジーへ投資することを優先すべきタイミングはいつでしょうか?

その答えは、「お客様のプロファイル」、「CSプロセスの成熟度」、「CSプロセスの効率性」、「CSチームメンバーのスキル」、そして「予算」といった複数要因のバランスを踏まえて決めなければなりません。

以下、それぞれについて見ていきましょう

・お客様のプロファイル
CSの取り組みがハイタッチや、人間関係主導型であれば、1人のCSチームが実際に管理できるアカウント数は直ぐに上限に達し、より多くのアカウント数を管理するにはCSメンバーを追加採用する必要が生じます。この場合でも、CSテクノロジーを利用することで効率性を上げ、一定の効果を得ることができますが、資金に限界のある中小企業では投資効果の視点から優先順位を上げにくいのも現状です。

カスタマー・ポートフォリオにハイタッチとロータッチのアカウントが混在している場合は、CSテクノロジーを利用することで、より高い効果を見込めることでしょう。直ちに効果の得られるテクノロジーとしては、次のようなものがあります。
・カスタマーの行動パターンに応じた要対策アラート
・徹底的に無駄の排除されたカスタマーサクセス・プロセス
・所定条件(オンボーディング中の利用度が低い場合など)に基づく自動メール送信


・CSプロセスの成熟度
創業初期の企業では、早々にCS戦略を策定し、その一環としてテクノロジーの採用を検討する場合が多いですが、彼らの業務プロセスがテクノロジーの想定するプロセスと整合しないために、テクノロジーをせっかく採用してもその価値を最大限に活用する準備が整っていないことに気付くことも多いです。

一般例は次のとおりです。
・CSチームの役割が非常に多様で、テクニカルサポート、アカウント管理、アップセル、リニューアルなどの役割も担っているため、チームの再構成、役割と責任の再定義をまず先にすることが必須
・プロダクトの利用状況や、サポート依頼の履歴管理など、カスタマーの行動を測定するデータソースが不十分
・カスタマーのセグメンテーション定義が全くされていない
・カスタマーの行動を測定する指標が不完全または不十分


・CSプロセスの効率性
CSプロセスが定義されていても、それが事業の進化に追いついていない結果、そのCSプロセス自体が効率的でないことがよくあります。そういう場合、逆にテクノロジーを採用することで、CSプロセスの効率性を引き上げることができます。

例えば、
・CSチーム、特に分散的なCSチームの中のベストプラクティスに光を当て、常にそれを取り入れたワークフローを標準とする
・事前に設定したカスタマーの特定行動に応答する形での、カスタマーへの定型・非定型コミュニケーションを自動化する
・データ収集に時間を浪費するのでなく、どう行動すべきかを決めるためにデータ分析をする
・カスタマーレポートを作成する ー それも複数の独立したツールとシステムを使用する代わりに、すべてのデータを統合したCSプラットフォームから簡単に作成する


・CSチームメンバーのスキル
CSはかなり新しい職種であり、CSチームのメンバーは様々な背景と経験値を持っていることでしょう。良いCSプラットフォームを採用すれば、リスクや機会に対して正しくアラートが発信され、ワークフローの有効性や運用度合いを正しく計測してくれますが、それでも、カスタマーの状況を適切に管理し、適切に対策を実行するためには、スキルを持ったCSメンバーの存在が不可欠です。

CSプラットフォームは、カスタマーの事業の変化とCSチームの規模の成長に応じて進化しなければなりません。例えば、カスタマーセグメントの細かいチューニングをしたり、ヘルススコア、アラート、ワークフロー、プレイブックを更新したりする必要があります。 プラットフォームのオンボーディング時に初期設定と構成を正しくセットするわけですが、それでも、CSプロセスの変化が継続的にプラットフォームへ反映されるよう、CSチームメンバーの誰かがツールの継続的な管理を担当する必要があります。


・予算
現実的には、人員や技術へ投資するには手元資金か一定以上のMRRが必要なため、採用計画が却下されることも多いでしょう。1人だけのCSチームには、2ユーザー分のCSプラットフォーム(CSプラットフォームのユーザー1名プラス管理者1名)が必要で、この投資はCSマネジメントに要する費用の約1割に相当します。

追加投資に必要なCS予算がある場合は、採用候補者の経歴をよくよく吟味して費用を節約し、入門レベルのCSプラットフォームを採用する予算を確保する方が価値がありそうです。そうすることで、うまくすれば、CSプラットフォームを導入した2人だけのCSチームが、創業初期のSaaS企業を次の段階へ成長させる上で多いに活躍してくれることでしょう。

著者 John Kelly氏 について
CustomerLinkのマネージング・ディレクター。CustomerLinkは、ヨーロッパを拠点に、SaaS企業に向けカスタマーサクセス業務を強化するカスタマーサクセステクノロジー&サービスを提供する会社であり、NateroのEMEAにおけるエクスクルーシブ・パートナーです。CustomerLink の詳細はこちらを参照ください www.thecustomerlink.com

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