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失語症の物書き

「失語症」

私の場合は周りには分かりずらいレベルだったけれど会話も読み書きも大変になった。自分の中の世界、自分の性格、全てがガラリと変わって「私は誰なんだろう?」と悩んだ時期もあった。

昨日までも私が「私」ならばこんなに変わってしまった今日の「私」は誰なんだろう?同じ人間だと言えるのだろうか?「私」ってなんだろう?誰だろう?

脳手術ごの私の日本語レベルは本来の50%、英語は70%という感じだった。日本語で会話中もどんどん英語が入るようになり、日本語を読むのも話すのも苦痛だったし、英語で難しい事を伝えるのも難しかった。

脳手術前は日本語で小説とかもたくさん読んでいたけれど手術後は英語のYouTubeの動画も集中して見れず、大学の教科書の文章を何回読んでも理解出来なかった。

人と話すことが大好きだった。毎日大量にストーリーを創作したり記事を書いたりしてた。ネット議論も好きだったけど、全部やめてネットからも引き篭もった。

夢は小説家だったけれど失語症で5分の動画も見れない集中力(後Executive Function Disorderと診断された)で無謀過ぎる夢で諦めた。

手術前は頭の中に複数世界が宿っていて全てにシナリオやキャラクターがあった。手術後目を覚ましたら真っ暗で全部消えていた。二度と物語は書けないと悟った。ぽっかり穴が空いたその場所は、今でも真っ暗。

書く事が夢で無く、それまで読むことや書くことにあれだけ時間と愛を注ぎ込んでいなかったらそこまで落ち込まなかったかもしれない。一番大事だった趣味と夢が消え去って絶望した。

そこから何年も本も読まなかったし(読めなかった)書く文集はTwitterの呟きぐらい。毎日何ページも物語を書けていた私が呟きすらも難しかった。

なんとか大学を卒業してニューヨークに引っ越して「健常者」を装って就職、脳手術の後遺症で残った脳の障害を補うために培ったスキルを駆使してIT業でエンジニアとして数年働き、5年前に退職してライターとして独立した。

学生時代思い描いていた「作者」の図とは完全にズレたタイプの「ライター」だけれど今私は書く事を本業にしているし、ターゲット層は小さいけどそこではある程度名を知って貰えている。

「頭の中の世界が全て消えてしまった」私でも文字を使う仕事が可能だという事が知れて救われた。フィクションじゃない文章は書ける。だけどフィクションは書けない。

この5年間やってきた仕事の数々に区切りがついて、一昨年には念願の本を出版することが出来、2人も子供を産んで一息ついている今。

ミドサーだけどまだまだ長い人生、いつか小説を書いてみたいという夢は少しずつ蘇って来ている。果たして私の脳の中の暗くなった箇所に光は戻ってくれるのか?

今のままでは「ストーリーを練る」ということが出来ない。何か助けにならないかと色々なジャンルの本を大量に読んでいるのだが一向に戻ってこない。

「数々の世界」が戻って来なくても小説は書けるのだろうか?ベストセラーにならなくてもいい。またもう一度ストーリーが書けたという喜びが欲しい。

少しずつ脳の運動をして、体の運動をして、体に良いものを食べて、言葉のリハビリをしていこうと思う。人生は長い。

焦らず、焦らず、コツコツと、以前は息を吸うように自在に操れていた世界を今度は努力して一歩ずつ再構築していこうと思う。

手術後にあれだけ弱っていた「日本語」というツールを使ってここまで人様に自分の中の考えを伝えられるようになったことに感謝を込めて。

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