ラッキーナンバー

※2022年11月に書いた文章です

昨日、ネイルを変えた。

何本かすでに剥がれかけていた淡いピンク色のシンプルなネイルは、単色のボルドーへと姿を変えた。

淡いピンクのネイルは、中国のネイルサロンで施したものだ。

私は結構ネイルアートが好きな方であり、半年間中国に行っている間も何度もネイルサロンに行っていた。

半年間滞在した中国から帰国して、もうすぐ1ヶ月が経過しつつある。

本当に激動の半年間だった。
一難去ってまた一難という言葉がこれほどぴったりな経験はないだろう。

「さすがにもうこれ以上しんどいことは起きないだろう」という自己ベストを何回塗り替えたかわからない。

中国に行く前は、この経験をnoteに綴って発信していこう!と意気込んでいたが、ゆっくり文章を書く暇もないくらい忙しかったし、何より陽気に文章を書く気分にどうしてもなれず、結局本格的に番組が開始してからはほとんど更新することができなかった。(番組のことをどこまで書いて良いかわからないし、固有名詞のオンパレードになるのも微妙やなと思ったのもある。)

また、日本に帰ってきてからの約1ヶ月間というのも、謎の無気力に襲われ、これまた文章を書く気分になれなかったのだ。(文章どころか何もする気にならなかった)

しかし、今日中国で施したネイルをオフした時、あ、私の身体から中国が今ついに消え去ってしまった。というような、焦燥感に似たような感覚を覚えた。

あんなに大変な、でもそれと同時にとても貴重な、かけがえのない経験をしたのに、なんだか今は全て夢だったんじゃないかというような感覚になってしまっている。

私が中国に行くまでを綴ったnoteを改めて読み返してみると、これから起こる沢山のチャレンジに対する高揚感が感じ取れた。

久々に読み返すと他人の書いた文を読んでいるかのような、かなり客観的な視点から読むことができたのだが、これからに対する意気込みはかかれているものの、肝心の中国生活の記事はほとんどなく、予告編だけの映画みたいな感じになってもうてるではないか。

私自身も中国で感じたたくさんの感情を忘れたくない。
もう既に忘れてしまっているもののあるかもれないけど。

まだレジの店員さんに「谢谢」といってしまいそうになる今のうちに、中国でのことを書き留めておこうと思う。

私が最後に中国でネイルサロンに行ったのは、約1ヶ月前、合肥(アンフイ)という街である。

もともと合肥には2日間のみの滞在のはずだったが、結局6日ほど滞在することとなった。

というのも、合肥の次にいくはずであった鄭州が直前にロックダウンしそうだという情報が入り、キャンセルになってしまったのだ。

この頃の中国は、どの街もかなり不安定な状況で、仕事の状況は日々変わりまくっており、私は「明日の今頃には私はどこにいるんだろう」というようなリアル宇多田ヒカル状態を強いられていた。

さて明日からどうしようという時に私を合肥に招待してくれたリリーが「しばらくうちに泊まっていきなよ」と言ってくれたのである。

しかも次に行く武漢の仕事は、リリーもブッキングされており、かなり都合がよかった。

リリーは、私より少し歳上のお姉さんで、ネイルも睫毛もかなり完璧ケアしているようなおしゃれで綺麗な女性だ。

金髪で、ぱっと見はギャルっぽいが、一児の母であり、夫は初恋の人というかなりの少女漫画性を併せ持つ魅力的な女性である。
リリーの家はかなり広く綺麗で、私のために部屋まで用意してくれた。(私の一人暮らしの部屋より立派なぐらいの。)

たった数日間だったが、私は彼女のことが大好きになった。

彼女の生徒たちは彼女のことをとてつもなく尊敬しているが、彼女自体は偉そうにする素振りは一切なく、友達のように接していたのがかなり私の理想的な先生としてのあり方で、非常に感銘を受けた。

夜は彼女の家で二人で晩酌をして、たくさんの事を話した。しょうもないことも、真剣なことも。

本当に頼り甲斐のある優しいお姉ちゃんといった感じで、中国でこんなに素晴らしい友達ができたことが本当に嬉しかったし、リリーのように自分も人に与える人間であろうと思った。

4日間ほど延長で合肥にいることになったが、なんと有難いことにそのうちの3日間はプライベートレッスンを申し込んでくれる人がたくさんおり、1日2〜3本レッスンしていたと思う。

やっと少し自由な時間ができたのは最終日のことだった。リリーに何をしようかと尋ねられた私は、真っ先にネイルに行きたい!!と答えた。

興味のない人からすると理解し難いかもしれないが、私にとってネイルというのはかなりメンタルを左右するすごい施しなのである。

指先のこの小さな面積を彩るだけでこんなにもテンションを上げることができるなんて、テンションなんてものは容易いものである。

リリーはすぐにネイルサロンを予約してくれて、彼女もついでにネイルを替えたいというので一緒に行くことにした。

仕方なく連れてこられたリリーの5歳の息子はかなり退屈そうで、5分に一回のペースで「ママ!!もう終わった??」の大絶叫を繰り返すスヌーズと化していた。

彼には非常に申し訳なかったが、私は久しぶりに彩りを取り戻した指先を見てとても満足した。(彼にしてみたら母たちはわざわざ時間をかけて何をしているんだという感じだっただろう)

ついでにまつ毛エクステもやってもらい、それはそれはもう大満足である。

店の人が料金を私たちに伝えてきた。この時には私の中国語のリスニング能力はかなり向上しており、「520元」とはっきり聞き取れた。(日本円にして約10,000円弱)

私が払おうとするとリリーは、とりあえず今は自分の分とまとめて払うから、後でちょうだい!と言う。

まずい・・・私は彼女と既に6日間を共にしてるからわかるのだ。
彼女は私にお金を払わさない気なのである。

ワークショップ終わりのご飯などはご馳走になっていたが、さすがにこんなに私的なことまで支払ってもらうのは、いくら彼女が私を招待したといえ、何もかもやってもらいすぎだ。

リリー的には問題なくても、もうすでにご飯や宿泊などたくさんお金を使ってもらっている身としては、マツエクやネイルまで払ってもらうなんて、非常に気が引ける。

今回ばかりは、絶対にどうにかしてお金を受け取らせることを決意した。

その後私たちは練習のためスタジオに移動した。移動の車内で、「さっきのお金だけど・・・」と切り出したが彼女は今運転中やから今はいいよ、と言う。確かにタイミングを間違えた。

スタジオでは各々ダンスの練習で汗を流した。しかし正直練習どころではない。練習の合間も私は常にタイミングを伺っていた。

そして、ついに殺し屋並みの洞察力で絶妙なタイミングを見つけた私は「さっきのお金払う!!」と、今度は強めに言った。

リリーは少し戸惑ったように、「O…OK…」とやっとアリペイの受け取りQRコードを開いてくれた。ミッション成功である。

しかし、彼女は「金額忘れたから、まあ500元でいいよ!」と言うのである。

520元。520元だ。ウーバイアールシューユェン。私ははっきり聞こえていたし覚えていた。このごに及んで少しでもディスカウントしてもらおうなんて気持ちはサラサラないのである。

なかば無理矢理彼女のスマホの送金画面に520と入力すると、彼女は、かなり驚いた様子で私の方を見た。

「hiroko、520ってなんて意味か知ってるの??!!」

え・・知らん・・ただ私は会計の時ウーバイアールシューって聞こえたから入力しただけで・・・。

「520は、"我爱你"(愛してるよ)の意味だよ!!」

我爱你。ウォーアイニー。

520。お店の人が言った言い方は"ウーバイアールシュー"だが、中国語の別の読み方をすると、”ウーアーリン"

発音が似ているということから、520という数字は「愛してるよ」のスラングとして使われていたのだ!私たちはその場で女子高生が同じクラスになった時みたいにこの粋な偶然にキャーキャーとはしゃいだ。

お会計が520元だったことは単なる偶然ではあったが、リリーに対する感謝の気持ちと愛情と、ここ数日間の思い出が全て溢れ出し不思議な気分だった。なんだか偶然じゃなかったような気もした。


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