人間みんな先生説

※この文章は2022年6月ぐらいに中国のダンス番組出演した際に書いたものです。
この後忙しくなりすぎて、書いたものの放置してしまってました。

今日はオーディションの事前審査があり、ソロショーケースをディレクターたちと講師達の前で踊った。

この時3年前から連絡を取り合っているディレクターと初めて実際に会うことができた。この人が私を呼んでくれたので、踊りが微妙だったら呼んだことを後悔されるかもしれないと思って緊張したが、終了後、「今日のパフォーマンスはとても良かった!」と連絡を頂き、少し安心した。

ショーの完成度はまだまだだが、自分的にも曲が完成して1日で披露した割には頑張った方かな。これからもっと完成度を高めていこう!と前向きな気持ちだった。

その後、自由参加でショーのアドバイスをもらえる時間が設けられていた。ほとんどのダンサーは参加せず、先にホテルに帰ることを選択していたが、講師はロックダンサーとのことで、彼と話がしたくて私は参加することにした。

しかし、直前で講師が変更になったと告げられた。ロックダンサーではなくアーバンダンスの講師になったらしい。残念だったが、以前の講師からアドバイスがもらえる機会では他のアーバンバンスの講師からとてもいいアドバイスを頂けたし、オールドスクール以外の人の視点での意見は勉強になるかもしれないと思い、せっかくだからと思い参加した。

今回講師をやっている人たちはほとんどSDCの前のシーズン出演経験者だ。私はSDCを普通に1ファンとしてみていたので、講師のほとんどは知っていたが、今回アドバイスをくれるというアーバンダンスの人は見たことがなかった。中国人の友達曰く大きなダンススタジオを所有する有名な人らしいが、ぱっと見は不機嫌なティモンディ高岸といった感じだ。

結論から言うと、高岸との1on1ネタ見せは最悪だった。

小さなスタジオで、パイプ椅子に座る高岸。通訳さんと高岸と私だけの空間で、私は用意していた1分間のショーを踊った。そのあとはアドバイスタイムだ。言葉の違いなどでその場でわからないことがあったりした時のために、私はiphoneの録音ボタンを押し、彼の前に座った。

そして、彼は衝撃の一言を放った。

「You need to change everything.(全部変えたほうがいいよ)」

え、、エブリシング、、、!?聞き間違えであって欲しいと祈った。しかし私のリスニングは間違っていなかった。MISIAもびっくりのエブリシングである。

ファウンデーションのレベルが高いのかもしれないけど、中国には基礎力が高いロックダンサーなんて他にも沢山いるし、もっと大きなテクニックを見せないと印象に残らないよ。始まりの2エイト、ロックダンスのファウンデーションだけをやっているでしょ?あれじゃだめだよ。曲も振り付けも、全て変えたほうがいい。まだ時間はある。と言うようなことを淡々と語る高岸。

受け入れ難いアドバイスでも素直に聞き入れるべきだと、日頃から心掛けているが、あまりのボロカス具合に少しイラッとしてしまった。

高岸はどのくらいダンスをやっているのか尋ねてきた。10年くらいです。と答えると、彼は「ふぅん…」となんとも言えない表情をした。私には、「10年もやってるのにコレ?」もしくは「10年しかやってないなら仕方ないか。」のようなネガティブな反応に感じられた。この1分間だけでなく、なんだか私が今までダンスをやってきた10年間も否定されたような気分になった。

反論したくなる気持ちを抑えて、話がこれ以上長引かないように早めに「謝謝!!!」と言って切り上げようとした。これ以上高岸の話を聞いていると自殺したくなるような気がしたからだ。

本当の高岸さんはポジティブなことしか言わないのに…キャラが真逆になった裏社会の高岸といったところである。

その場にいた通訳さんも気まずそうな顔をしていた。非常に申し訳なかった。

確かに、私のパフォーマンスは全然完璧じゃなかったし、高岸の言っていることは一理ある。私は派手なアクロバットとかクレイジーなムーブをできないし、シンプルな振り付けが多かったので、パフォーマンス性には欠けると思う。確かにもっと見せ方を工夫する必要がある。

でもなんだかめちゃくちゃムカついてしまった。

よくなるための改善点を伝えるんじゃなくて、全部駄目だからかえろと全否定する態度がムカつくんだろうか。芸人さんがよく、ラジオなんかで、ネタ見せの時に作家にボロカスに言われてムカついた。なんていう話をしているのを聞いたことがあるが、こんな感じなんだろう。

高岸なんかに、ロックダンスのシンプルな格好良さがわかってたまるか!!!くそ!!絶対かっこいい踊りをして、高岸にダメ出ししたことを後悔させてやる…!!と思った。

もし高岸にボロカスに言われていなかったら、ディレクターの人に褒めてもらった時点で安心して、本番でコケていたかもしれない。そう思うと闘志に火をつけてくれた高岸には感謝である。

とはいえ、全部かえろとまで言われてしまうと流石に落ち込んだ。

この番組に出演することが決まった時点で、派手なことを求められることくらいもちろん予想していた。これはTVショーであり、ダンスをやったことがない人にも伝わるようなわかりやすさが求められる場だ。

それでも、ワンポーズのシルエットのかっこよさとか、私が今までこだわってきたことの良さを伝えられるんじゃないかと思っていたけど、私にはまだまだそれを伝えるだけの実力はないんだ。と非常に落ち込んだ。

本番まであと1週間しかない。今からクレイジーなムーブを練習するなんてできないし、自分のスタイルを変えてまで勝ちたいと思わない。今までやってきたことの魅力を最大限伝えるために頑張るしかないのはわかっているけど、自信を完全に無くしてしまっていた。

高岸のネタ見せの翌日。

落ち込んでいても仕方がないし、やるべきことをやるしかない。でもとにかく自信がない。不安。何度も頭の中でフラッシュバックする、「全て変えたほうがいいよ」と言っている高岸。

そんな状態で、ショーの構成を考えていると、wechatの通知がなった。中国人の友達・フラワーからだった。

フラワーは女の子のロックダンサーで、彼女も番組に出演する。4年前くらいに初めて会って以来、ずっと連絡を取り合っている友達だ。非常に可愛くて愛嬌がある子で、おしゃれだしダンスも上手い。

彼女は私と同い年だが、日本に私のレッスンを受けにきたり、私のことを先生だと慕ってくれている。私のスタイルがすごく好きだと言ってくれて、私の影響かはわからないが前まで「フラワー」だけだったダンサーネームが最近「フラワーブギー」に変わっていた。今回私が中国に来ると知った時も、ものすごく喜んだらしい。

彼女のメッセージを読んで、私は泣いてしまった。

「昨日のヒロコのパフォーマンス、ビンビン(ロックダンサーの講師)がめっちゃ良かった、スペシャルだったって言ってたよ!!あなたは私の姉だから私もうれしくなって連絡した!!だから落ち込まないで!!これから沢山の予期しない出来事が起こるし、待ち時間も長かったり大変だけど、あなたがいいパフォーマンスをできるって信じてる。あなたはヒロコブギーなんだから!!」

私の昨日の落ち込みようを彼女は見ていたので、励まして大袈裟に言ってくれているのかもしれないが、本当にビンビンがそう言ってくれていたのなら相当嬉しい。しかしそれ以上に、自分自身も出演者で、ライバルであるはずの私にこんな言葉を投げかけられるフラワーの心優しさに胸打たれた。

彼女も彼女で、大変なはずだ。なのに全力で私を励まし、元気付けてくれた。私にはそんな心の余裕があるだろうか?

ダンスにおいては彼女は私を先生だと言うが、人間としては完全に彼女のほうが先生だ。

私は私のスタイルで、私が誰であるかを魅せる。クレイジームーブはできないし、凄いテクニックはないけど、ロックダンスに対する愛はある!!

私は私がかっこいいと思うものを見せる。彼女のおかげで改めて決心することができた。

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