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コーヒーは1日何杯まで飲んで良いのか?

コーヒーに含まれるカフェインの過剰摂取が健康に害を及ぼすとして、1日に飲んで良いとされるコーヒーの量には議論があります。厚生労働省はカフェインの過剰摂取によって、中枢神経系の刺激によるめまい、不安、震え、吐き気といった健康被害を受ける恐れがあるとしています。

それによれば、カフェインを生涯にわたって摂取し続けたとしても健康的に悪影響がないと推定される1日あたりの摂取許容量は、個人差などもあることから、日本のみならず国際的にも目安はありません。

ネスレのコーヒー製品「ネスカフェ」は、1日に最大4杯のインスタントコーヒーを飲んでも、健康への悪影響はないとしています。

果たして、コーヒーは1日何杯まで飲んで良いのでしょうか?

1日のコーヒー摂取量をめぐり議論

1日のコーヒー摂取量に対する一般的な見解は、1日3〜4杯です。

欧州委員会からの要請によってカフェインの安全性に関する科学的意見を求められたEuropean Food Safety Authorityの研究チームは、妊娠していない成人の場合、1日あたり最大400mgのカフェインを習慣的に摂取しても安全性への懸念点はないとしています。

全日本コーヒー協会によると、レギュラーコーヒー(コーヒー豆の粉末10gを熱湯150mlで浸出)100mlあたりに含まれるカフェインの量は約60mgです。この数値をもとに計算した場合、カップ1杯150mlとするとカフェイン400mgは約4杯となります。

「Coffee consumption and health: umbrella review of meta-analyses of multiple health outcomes」はメタアナリシスの結果として、妊娠中または妊娠のリスクおよび骨折のリスクが高い女性を除き、1日のコーヒー摂取量は3〜4杯が通常の摂取範囲内として一般的に安全であることを示唆しています。

妊婦においてはコーヒーの摂取によって妊娠初期および妊娠中期の早産、妊娠喪失と有害な関連性があることを指摘し、女性のコーヒー摂取と骨折のリスクとの関連性についてはさらなる調査が必要としています。

また、「Long-term coffee consumption and risk of cardiovascular disease: a systematic review and a dose-response meta-analysis of prospective cohort studies」はメタアナリシスの結果として適度なコーヒーの摂取がCVDのリスクと逆の相関にあり、1日3〜5杯でリスクが最も低くなったことを報告しています。

この研究では、メタアナリシスを実施して長期にわたるコーヒー摂取とCVDリスクの用量反応関係(生物に対して化学物質や物理的作用を与えた際、物質の用量や作用強度と、生物の反応との間に見られる関係)が調査されました。CVDリスクには、冠状動脈性心臓病、脳卒中、心不全、CVD死亡率が含まれています。

研究には参加者127万9,804名とCVDの症例3万6,352件が含まれました。

1日のコーヒー摂取量が0のグループと比較したCVDの相対リスクは、

コーヒー摂取量が最も多いグループ(中央値:1日5杯):0.95
コーヒー摂取量が2番目に多いグループ(中央値:1日3.5杯):0.85
コーヒー摂取量が3番目に多いグループ(中央値:1日1.5杯):0.89

となりました。

結果として、コーヒーの消費とCVDリスクの間に非線形の関連性が見られ、適度なコーヒーの摂取はCVDのリスクと逆に有意に関連していること、コーヒー1日3〜5杯で最もCVDのリスクが低くなったことが示されています。

1日3〜4杯前後の摂取によるリスク

1日3〜4杯を超える過度な摂取には、どのような危険性があるのでしょうか。

「Long-term coffee consumption, caffeine metabolism genetics, and risk of cardiovascular disease: a prospective analysis of up to 347,077 individuals and 8368 cases」は、常習的にコーヒーを摂取する人で1日1〜2杯飲む人に比べ、1日6杯以上飲む人は心血管疾患(CVD)のリスクが高くなったことを報告しています。

人体において生体異物(生体に通常ない化学物質で、生体に障害を与える可能性のある有機化合物)の代謝に関与している遺伝子であるチトクロームP450 1A2(略称 CYP1A2)に機能的変異体を保有する人は心筋梗塞と高血圧のリスクが増加し、カフェインの代謝が低下することが先行研究によって示唆されていることから、この研究では、CYP1A2遺伝子型またはカフェイン代謝の遺伝的スコア(スコア幅は0〜8で、高くなるほどカフェインの代謝が早い。略称 カフェインGS)が、習慣的なコーヒー摂取とCVDのリスクとの関連を修正するかについて調査されました。

実験には、UKバイオバンク(遺伝的素質やさまざまな環境曝露が疾患に対して与える影響を調査する、イギリスの長期大規模バイオバンク研究)のデータ34万7,077名分が使用され、それには8,368件のCVD症例が含まれていました。

実験の結果、常習的なコーヒー摂取とCVDリスクの関連は非線形(比例関係にない)を示し、1日1〜2杯飲む被験者と比較した場合のオッズ(確率を示す値)は、

・1日6杯以上飲む人:22%増加
・カフェイン抜きコーヒーを飲む人:7%増加
・非飲酒者:11%増加

しました。CVDのリスクに関しては、CYP1A2遺伝子型またはカフェインGSとコーヒー摂取との相互作用は見られませんでした。

結論として、多量のコーヒー摂取はCVDリスクのわずかな増加と関連しており、これは遺伝的変異の影響を受けないことを示しています。

また、1日3〜4杯を下回る場合であってもリスクの可能性があることを示した研究もあります。

「Habitual coffee consumption and risk of hypertension: a systematic review and meta-analysis of prospective observational studies」は、メタアナリシスの結果として、1日1〜3杯の軽〜中程度における摂取は、高血圧リスクのわずかな上昇と関連している可能性があることを示唆しています。
6つの前向きコホート研究から合計17万2,567名の参加者と3万7,135名の高血圧症例が含まれました。

高血圧の相対リスク(コホート研究における、要因曝露と疾病との関連の強さを評価する指標)はコーヒー1日1杯(237ml)未満の最低摂取量と比較して、

・1日1〜3杯:1.09
・1日3〜5杯:1.07
・1日5杯より多い:1.08

となりました。

結果として、コーヒー1日3杯以上の常習的な摂取は1日1杯未満と比較して高血圧リスクの増加には関係していないものの、1日あたり1〜3杯のコーヒー摂取はリスクの微増と関連性があることを示しています。

カフェイン中毒によるリスク

カフェイン摂取によって引き起こされる中毒のリスクについても理解しておく必要があります。

カフェインには中毒性があることが一般的に知られています。長期にわたって毎日カフェインを摂取していた人が突然止めたり、量を減らすことで不快な症状が現れる場合があり、これは「カフェイン離脱」と呼ばれます。

「A critical review of caffeine withdrawal: empirical validation of symptoms and signs, incidence, severity, and associated features」は特定された症状の種類(49種類)のうち、

・頭痛
・疲労
・エネルギー、活動性の低下
・覚醒度の低下
・眠気
・満足度の低下
・気分の落ち込み
・集中力の低下
・過敏性
・頭がぼんやりする、はっきりしない

という症状の種類が、カフェイン離脱に関する症状の基準として妥当性を満たしたと報告しています。

さらに、

・インフルエンザに似た症状
・悪心、嘔吐
・筋肉痛、硬直

が、症状の種類として当てはまる可能性が高いことも判明しています。

「Caffeine withdrawal: a parametric analysis of caffeine dosing conditions」は健康な参加者を対象として4回の二重盲検実験をおこない、低〜中程度の用量のカフェイン中止時に離脱症状が発生する条件を調査しました。

1つめの実験では、カフェインを朝に1回300mg摂取した場合と、1日に3回100 mgずつ摂取した場合が比較され、カフェイン離脱症状の範囲や程度が異なるという証拠は見つかりませんでした。

2つめの実験では、禁断症状の範囲と重症度の両方がカフェイン維持量(1日100mg、300mg、および600mg)の関数として増加し、最低用量(100mg)でもカフェインの大幅な禁断症状が生じることが明らかになりました。

3つめの実験では、個人がカフェイン1日300mgを維持し、より低い用量(1日200mg、100mg、50mg、25mg、および0mg)の範囲でテストした場合、カフェイン摂取量を大幅な削減(1日100mg以上)に削減するとカフェイン離脱の症状が発現することが観察されました。

4つめの実験では、カフェインへの曝露期間を操作し(1日300mgで1日間、3日間、7日間、または14日間)、わずか3日間のカフェイン曝露後にカフェイン離脱が発生し、7日間または14日間以降に離脱の重症度がやや増加することが示されました。

こうした研究を踏まえると、健康上のリスクや個人の体調などを考慮したうえで、嗜好品として楽しむ姿勢を取るのが好ましいでしょう。前述の通り、日本には国によって定められたカフェイン摂取量に関するガイドラインはありませんが、厚生労働省が健康な成人(妊婦を除く)に対して「コーヒーは1日3杯まで」という目安を紹介していることは踏まえても良さそうです。ただし、カフェイン中毒のような懸念もあるため、過剰な摂取を避けるに越したことはないでしょう。

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