日本語の男、イタリア語の女
おとこ【男】〈名〉かつて意地っ張りだが本当は寂しがり屋と定義されていた謎の生きもの。演歌に多く生息する。実際には意気地なしや一人でも平気な個体も少なくない。転じて長距離選手を鼓舞するかけ声にも使われることがある。「おまえ、―だ」「―だろ」
朝日新聞ニュースレター 「編集長から」より (2021年2月1日)
編集長、最後のアイロニー、いいね!
というわけで、日本語の「男」が耳目を集めること3年前、イタリア語の「女」について、TVショーですごい事実がおおっぴらになり、6046万2千人のイタリア語話者がざわざわしました*1。
発端は、S. バルテッザッキ氏*2が投げかけた、イタリア語の男性名詞とその女性形のはなはだ非対称な関係。その長いリストには、永遠のイタリア語中級の日本人も、どしゃーってなりましたので、日本語にしたついでに、第二の性の高慢と偏見でグルーピングしてみました。
イタリア語 豆知識
松岡正剛氏*3の美しい文章を剽窃すれば、イタリア語には、「男性=人間・動物」と「女性」の二つのジェンダーがある。ということになります。マリオ(男性名)/マリア(女性名)といった固有名詞だけでなく、「意地っ張り」も「寂しがり屋」も「定義」も「謎」も「生きもの」も、名詞という名詞は、男性名詞か女性名詞に仕分けされます。
楽しいイタリア語
特定の男性名詞とその女性形の対照表
赤字=男性名詞/女性名詞で変化する部分
*印は小学館伊和中辞典(第2版)出典。
スクショ、見ずらいですよね、見ずら過ぎますよね。もう私オフィースで勤め人はできませんよね。
…休憩
まず、この場合の「売春婦」は、売春の事実と関係なく、女性をののしって言う罵詈雑言(口に出すと親にこっぴどく怒られる類の言葉)です。日本語だと「売女(ばいた)」にひじょーに近いです。辞書に載っている語もありますけど、大半はそういう意味で取らないし、そういう意味で使わないし、今にフィットしてもいないハズです。
どうしてこんな、喩えまSHOWみたいな事になったのかについては、平野啓一郎著『「カッコいい」とは何か』の支配力としての「男らしさ」、自信喪失する男たちの考察にヒントがあるかもしれません。
ふたたび、第二の性の高慢ちきと偏見でまとめてみますと;
19世紀以降、男性の優位を根拠づけようという思想がヨーロッパで広まったものの、そのあるべき「男らしさ」の理想が男性自身にとっても相当プレッシャーで、ほとんど強迫観念的でさえあり、押しつぶされないよう傷つかないよう必死のパッチでファム・ファタール(運命の女。恋心を寄せた男を破滅させる魔性の女)という言葉を生んで、溜飲を下げる。
惚れたあの娘は純潔の乙女か、魔性の女か。
ダブルミーニング。ダブルスタンダード。ダブルファンタジー。
ははーん、フラれた時の言い訳、および当て付けのため?そうなの?そうなのか?
「いや仕方なかったんだ、だって魔性の女だもの。」「この売春婦!」
#イタリア語 #翻訳 #日本語にしたくなる #なぜ言葉は差別感を持つのか #ジェンダーギャップ
〚参考〛
*1 番組公式facebookへ再掲載だけでも、72,247いいね!コメント2,402件 シェア13,810件の盛り上がりぶりです。(2021年2月2日時点)
*2 イタリアのパズル作家。男性。ウィキペディアによれば、卒論の担当教授は、記号論の権威にして『薔薇の名前』のウンベルト・エーコ。
*3 松岡正剛の千夜千冊
古代ギリシアの哲人たちが「ゲノス」(種族・類型)の基準を、①男性=人間・動物、②女性、③無生物という三つに分けたのが、ジェンダーの始まりだった。
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