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『窓辺にて』感想

2022/11/17鑑賞

稲垣吾郎さんが出演しているからと観に行くことにした映画。

吾郎ちゃんが演じるのはフリーライターの市川茂巳。
私はフリーライターという職業が何をやるのか、はっきりとわかってはいないのですが、市川茂巳はどうやら文学関係の仕事をやっているようです。というのも、物語のごく初めの頃からおそらくは芥川賞にノミネートされていると思しき小説をすべて読んでおり、受賞作はどれか、なんて予想までしているから。
そして彼の妻は編集者です。それもどうやら純文学系らしい。
茂巳の妻・紗衣を演じるのは中村ゆりさん。
茂巳は紗衣が浮気をしていることに気づいており、悩んでいます。しかしそれは離婚しようかとかそういう話ではありません。
では何を悩んでいるのかと言えば、妻の浮気に気づいたのにさっぱり怒りが湧いてこないから。
恋愛結婚した二人のはずなのに茂巳の心の内には怒りはなく、むしろそのことについて悩んでいるのです。

そんななか、茂巳が予想したとおり、高校生作家の久保留亜が受賞し、受賞時のインタビュー会場で二人は出会います。
留亜はどうやら自分の感じたこと、思ったことを言葉で表すのが苦手らしい。でも彼女の書く文章は鮮烈で、茂巳は彼女の作品に惹かれます。
留亜は留亜で、きちんと作品を読み留亜が何を考えて書いたか、ということまで考えを巡らせてくれる茂巳に興味を持っているのです。

留亜と茂巳のシーンがとても好きでした。
留亜を演じるのは玉城ティナちゃん。もうとにかく玉城ティナちゃんが可愛い!
コケティッシュで何を考えているかよくわからなくて、でも一生懸命考えていて、きちんと一人の人間として接してくれる相手(たとえば茂巳のような)にはきちんと向き合おうとする。
そして彼氏のことが大好き。彼氏は留亜の書いている文章のことはよくわからないけど、でもすごい作品を書く留亜のことを誇りに思っているのが伝わってくる。
茂巳は若いふたりを、大声で喧嘩しつつも互いを大切に思っているふたりをまぶしそうに見つめている。
茂巳は留亜のまぶしさに素直に惹かれ、留亜は留亜でおそらくは身内以外で初めて出会う、きちんと等身大の自分を見てくれる大人である茂巳を慕い、でもふたりの間には恋愛感情がないのも良かったな。

この映画に出てくる役者さんたちは、みんなとても魅力的でした。
そのへんにいそう。でもサッカー選手や今をときめく作家、かつてテレビ局でバリバリ働いていた人なんてそうそうはいないだろうな。でもやっぱり周囲を見渡したら、彼らにどこか似ている人、同じように悩んでいる人はきっといる。
そういう絶妙さ。

最終的に茂巳が、紗衣が、留亜が、そして彼らを取り巻く人たちが選んだ道は、必ずしもみんなに受け入れられるような道ではないかも知れない。
でも彼らは彼らなりに悩んで、考えて、受け入れて、生きていく。
彼らの内側には激情もあっただろうし、諦めもあったでしょう。ひどい喧嘩をしたり、ひどい言葉を投げつけたこともあったかも知れない。でも、作品はすごく凪いでいる。
感情をぶつけるシーンさえも、凪いだトーンで描かれている。
それぞれの決断までの幾日か、幾月か、もしかしたら幾年かを静かに描いた映画でした。

この映画の造りがとても好きでした。
これを言っちゃうとネタバレになるのでどういう造りとは言えないんですが、映画でも小説でもマンガでもドラマでも、こういう造りの作品は大好き。
すぐに見返したくなります。

ちょっとびっくりしたのは志田未来ちゃん。志田未来ちゃんが出ていてこういう役だと教えてもらっていたのに、実際に見てみるとスタッフロールで名前を見るまでさっぱり気づかなかった。
作品世界にすっかり溶け込んでいて、さすが役者さんだ!と思いました。

そしてもうひとつ、この映画でとても惹かれるのは、いくつか出てくる喫茶店。
カフェというよりも喫茶店と言う言葉が正しいような、いわゆる純喫茶が多いんですよね。
そういう純喫茶に行って、パフェやコーヒーを頼みたくなるようなそんな映画でした。
私も最近は純喫茶には行っていないので、近いうちに行きたいと思います。

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