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『烏百花 蛍の章』感想

『烏百花 蛍の章』阿部智里 文藝春秋 2022/9/22読了

『烏百花 蛍の章』阿部智里/文藝春秋(表紙画像は版元ドットコム様より)

八咫烏シリーズの番外編の短編集。こちらが番外編第一弾ですね。先に第二弾を読んでしまったのが悔しくて、『白百合の章』を読み終わってからすぐに『蛍の章』を読みました。
文藝春秋の公式サイトには、発行順に読んだ方がいいとあります。
発行順となると
『烏に単は似合わない』⇒『烏は主を選ばない』⇒『黄金の烏』⇒『空棺の烏』⇒『玉依姫』⇒『弥栄の烏』⇒
『烏百花 蛍の章』⇒
『楽園の烏』⇒
『烏百花 白百合の章』⇒
『追憶の烏』⇒『烏の緑羽』
『烏に単は似合わない』から『弥栄の烏』までが第一部。『烏百花』二冊が番外編。『楽園の烏』以降が第二部。
このため『白百合の章』は第二部第一巻の後になるのです。

作品世界の実際の時系列は必ずしもこのとおりではないのですが、八咫烏シリーズ全体を考えたとき、刊行順に読む方がいいということですね。

ただ私は番外編は第二部より前に読み終わりたかった……つまりは第二部は第二部でどっぷり読みたかったので、先に番外編を終わらせてしまおうと思っていました。
だから読む順番としては『白百合の章』と『蛍の章』が入れ替わっただけなんですが。

実はこの感想を書くよりも先に、すでに第二部の二冊『楽園の烏』『追憶の烏』を読み終わってしまったのですが、私自身は先に番外編を読んでいて良かったなと思います。ちゃんと刊行されたときに読んでいたならばともかく、先が出ているのに『楽園の烏』の後、番外編に行くのは辛い。早く何がどうしてそうなったのかが知りたいと思ったので。

閑話休題。

『蛍の章』は、作品に入る前の都々逸にもあるとおり恋のお話。
「恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」というものですね。
実際は恋のお話だけではないのですが、コンセプトとして恋のお話を集めたものです。

『しのぶひと』『わらうひと』
澄尾と真赭の薄の話。第一部から真赭の薄が好きで、彼女はこの先どうなるのかなぁと思っていたのですが澄尾と良い感じ。
第一印象が最悪な二人の距離が少しずつ縮まっていく話が大好きなので、思わぬところで好みの恋愛のお話に出会えたなぁと読みながらうきうきしました。

『すみのさくら』
これだけ長いシリーズとなりながら、浜木綿のことは実はあまり描かれていないですよね。
若宮の浜木綿に対する気持ちは『烏に単は似合わない』で少し触れられていましたが、浜木綿の若宮に対する気持ちは若宮のようには描かれていない。そしてそのお話以降は浜木綿はほとんど出てこないので、印象が薄いというか。
『烏に単は似合わない』で真赭の薄と話しているときに、真赭の薄視点で浜木綿の心情がわかるようには書かれていましたが、浜木綿視点では若宮のことはあまり描かれていないので、ここで読めてよかった。
それにしてもこの二人。初恋同士なのに、今は夫婦となっているのに、互いにそれが全く伝わっていないのだな、と頭を抱えたくなりました。

『まつばちりて』
この短編集でこのお話が一番好きだった。そしてとても哀しかった。
もがき苦しんで、でも一瞬の強い光を放つようなお話でした。救いはないのに救われたようなお話。何を言っているのかわからないと思いますが、読まれた方はわかると思う。
『蛍の章』ではこのお話だけが主要登場人物ではないのですが、ここに示されたことが先に重要な意味を持つお話。

『ふゆきにおもう』
これは本当に……雪哉がこれを知っていれば、いろんなことが変わっていたんだろうと思いました。
でもそのまま、彼女が感じたことそのままを伝えることはきっとできなかっただろうし、雪哉が受け入れられたとも思えない。
それでも、知っていればいろんなことが違っていたと思う。それが故に哀しいお話でした。
これは救われたようであるのに、なのにとても哀しいお話。そういう意味では『まつばちりて』とは対極にあるお話だと思う。

『ゆきやのせみ』
この話好きです。
いま『追憶の烏』まで読み終わって余計にそう思う。
短編でいいから、またこの頃のお話が読みたい。
なに馬鹿なことやってんだ?って読みながら突っ込みたいです。

『白百合の章』と較べると、『蛍の章』は読んでいるときにはそうでもなかったのに、読み終わった後に寂しくなる話が多かったです。
ただそれは、すでに第二部第二巻まで読み終わってしまった私の持つ感想で、実際に『蛍の章』を読み終わったときにはもうちょっとうきうきしたような気持ちがあったかな。
最初に『しのぶひと』『わらうひと』をまとめて書きましたが、実際のこの短編集の最後は『わらうひと』です。
その『わらうひと』の最後が好きで、だから読み終わった時点ではうきうきとした気持ちがより強かった。
ただ、やっぱり『蛍の章』⇒『白百合の章』と読んだ方がいいなぁと思いました。
特に『あきのあやぎぬ』。顕彦のお話はもうちょっと後に読みたかったな。

そしてこの後に続く第二部は、本当に痛くて辛くて容赦がない。
でもこのシリーズはその容赦のない部分がより強い光を放っていてやめられないのです。

どうやら、いま収録されている以外にもすでに発表されている短編があるようですね。
次の番外編にも期待します。

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