幻想博物館

幻想小説が好きです。
でも、正直に言って幻想小説とは何か、と言われると、はっきり説明できません。
シュールレアリスムは幻想小説に入るでしょう。少しばかり現実から逸脱した、異世界と現実が交錯するような話も幻想小説なんだと思う。神話や童話は?
ファンタジーは入るのかな。ファンタジーが入るんならSFファンタジーも入る? SFは入らないような気がするけど、SFファンタジーは入るかな。
なんて考えて、でもやっぱりその辺は入らないような気がする。ファンタジーの一部は入るかもしれない。

そんなことを考えて調べてみると、Wikipediaには夏目漱石の書いたものの一部が入るという。夢十夜とか、もしかしたら琴のそら音とかその辺なのかな。稲垣足穂も入ってくるらしい。
だったらブラッドベリのSFじゃないあたりは入るような気がする。
たとえば澁澤龍彦や種村季弘が書いたり編んだりしているあたりは幻想なんだろうな。山尾悠子さんはもちろんそう。では皆川博子さんは? やっぱり幻想に入るのかな。

SFも、いわゆるハードSFではなくてスチームパンクとか異世界パラレルとか、SFファンタジーに位置づけられたり、超能力ものだったりしたら入ってきそうだし、ホラーもエログロも含まれてくる。
世界幻想文学大賞をSF作品が受賞したりもしているし、そうすると私が思っているよりもずいぶんと幻想小説の枠は広いのかも。

いろいろ調べても幻想小説の定義はあいまいで、定義は難しいと記載されていたりもするんだけど、私の好きなものはどうやら幻想小説というものの一部であるらしいということはわかってきました。
たぶん、お綺麗なもの、と言われそうなもの。
神話や民話も好きだけど、ホラーの要素はちょっと苦手。とはいえ狼男や吸血鬼ものは読んだりするものもあるから、たとえば筆致とか、世界観とか、そういうものにも影響されるんじゃないかと思います。

ディストピア小説やユートピアを取り上げたものも好きだけど、これはSFの版元の、SFのレーベルから出ているものが多い気がする。
だからといって=SFとは限らないし、ディストピアものは幻想文学の一角をなしているようだけど、SFは幻想文学と言い切るのも違う気がする。

たとえばファンタジーは架空の世界を描いているものがほとんどなのに、あんまり幻想とは言われないような気がする。ファンタジーは架空の世界と言いつつ、わりときっちりとその世界を作り上げているものが多いからかも。その国の人種、気候、宗教、社会情勢、政治、軍の制度、作物は何がとれるか、魔法の有無、文明の程度、そのほかにもいろいろ。
そういう世界なりの決まりごとがきっちりとあって、幻想と言われるようなどこか揺らぐものは見当たらなかったりもする。

そうやっていろいろと考えていくと、日本でいうところのファンタジーと幻想はなんとなく違う気がする。
ファンタジーは架空の世界とはいえ、その世界をきっちりと作り上げ、その世界の物理法則や社会の決まりごとに縛られているもの。
幻想はどちらかというと完全に架空の世界というよりは、いまここにある現実から一歩踏み外したような、揺らいだ部分のあるもの。
完全に私見だけれども。

でも、世界幻想文学大賞はWorld Fantasy Awardで、ファンタジーと言われているものが多数受賞してる。中にはSFもあるし、さっき上げたような幻想のものもあるし、ホラーもあるし、神話のようなものもある。
だとすれば、幻想とファンタジーという言葉から感じるような微妙な違いは、日本だけなのかな。難しいなあ。


幻想小説って何だろう。
そう考え出すと、こんなふうにいろいろと考えがあちこちに行ってしまって全然まとまらないのです。
まるで「幻想小説」というもの自体にとらわれてしまったかのように。
これこそが、幻想なのかもしれません。


いま読みたい幻想小説は、『方形の円 偽説・都市生成論』。
ハードカバーはそれなりのお値段なのでなかなか手が出ないけど、図書館で検索しても出てこなかったので、これはもう買うしかないかなあ、といま時期をうかがっているところ。
そう遅くならないうちに読んでみたいと思っています。

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