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『新米フロント係、探偵になる』感想

『歴史と秘密のホテル01 新米フロント係、探偵になる』オードリー・キーオン コージーブックス

『新米フロント係、探偵になる』オードリー・キーオン/コージーブックス

店頭で表紙を見て手に取ったお話。あまりあらすじを読まずに買ったので、表紙とフロント係という文字から、おそらくはこういう服装をしていた頃のホテルの話なんだろうと思っていたら、こういう服装をしていた頃に栄華を誇ったこの建物のもとの持ち主に敬意を表し、この年代を名前に冠した高級ホテル1911のお話、つまり現代のお話でした。最初意味が分からずびっくりした。

主人公のアイヴィーはホテル1911で働き始めて数か月の新米フロント係。ある日、気難しいなんて言葉ではなまやさしいくらいに態度も口も悪いがスウィートルームに泊まるだけの財力のある老婦人が、ディナーの途中に倒れそのまま亡くなってしまった。彼女には甲殻類アレルギーがあり、どうやら死因はアレルギーによるショック症状らしい。
しかしアイヴィーの親友であるホテルのシェフのジョージは完璧主義者で、決してアレルギーの原因となる物質が混入するようなことをするはずがない。
アイヴィーは彼を救うために謎を解くべく動き始めるが……。

アイヴィーはパニック障害を抱え、ただいま大学を休学中。これは作者自身も不安症をかかえていることから、そのような病気に対する偏見をなくしたいという作者の願いが込められている設定とのこと。
読んでいる限りパニック障害がどうというよりも、大学で学んでいたというユングの説に何もかも結び付けがち、ということの方が気になったかな。
どれだけ説得力のある説でもそれはあくまで一つの説であり、全てを説明し得るものではないんじゃないか、ということを考えてしまうから。自分でもめんどくさい考え方とは思う。
もう一つ気になったのは、アイヴィーと父親の関係かな。共依存のように見えてしまうので。もちろんそうなるだけの理由はあるんですが、アイヴィーの年齢を考えたらちょっと気になってしまう。

というようなことはコージーミステリとしてはともかく、ミステリには枝葉の部分だと思うので割愛。

ミステリとしては、手がかりをたくさんまき散らしつつサスペンスの部分もあり、特に後半は一気に読まされました。
探偵役である主人公が猪突猛進ぽいところはありますが、現代コージーミステリの女性主人公はそういう傾向にあることが多いですよね。
私はあまり犯人は考えずに読む方ですが、なんとなく犯人はわかったかな。最後の方になってからですが。
動機もわかったけど、トリックは考えつきもしなかった。

これが作者のデビュー作ということで、一冊にいろんなことを詰め込みすぎな感はありますが、楽しく読みました。
特に詰め込みすぎと思ったのはキャラクター。
主人公のアイヴィー。彼女の親友にして一番の理解者であるジョージ。ホテルの支配人のミスター・フィグ。ホテルのメイドでアイヴィーの友人であるベアトリス。アイヴィーの父親。
そしてあまり今回はどんな人物かはわからなかったけど、ホテルのオーナーのクラリスタ。事件を担当したデ・ルナ警部。ホテルの庭師のチェン。
おそらくは今後それなりに出て来るであろう登場人物だけでこれだけいますが、深く掘り下げられているのは主人公のアイヴィーのみ。ジョージ、ミスター・フィグ、ベアトリス、アイヴィーの父はどんな人なのかはおおよそわかるけど、人となりがちゃんとわかるとまでは掘り下げられていない。
クラリスタ、デ・ルナ警部、チェンは面白そうな人物設定ではあるもののよくわかんないという感じ。
とはいえ、多くのコージーミステリがそうであるように、お話が進むにつれてこれらの人たちにも徐々にスポットライトが当たっていくと思うので、それを楽しみに次巻を読もうと思います。

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