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『シナモンとガンパウダー』感想

『シナモンとガンパウダー』イーライ・ブラウン 創元推理文庫 2022/9/23読了

『シナモンとガンパウダー』イーライ・ブラウン/創元推理文庫
(表紙画像は版元ドットコム様より)

舞台は19世紀前半。イギリスの貴族に使える料理人のウェッジウッドが主人公。
ウェッジウッドは主人のお気に入り。わざわざ海辺の別荘まで同行し、主人とその招待客たちに料理を披露するくらい。
しかしその真っ最中に別荘は海賊に襲われ、主人は殺されてしまいます。自分もこのまま殺されてしまう……と覚悟を決めかけたところで、ウェッジウッドは主人を殺した海賊たちの首領とみられる女海賊マボットに拉致されてしまうのです。
彼女曰く、週に一度、彼女に最上の料理を作ってみせたらお前のことは殺さない。
しかしそこは海賊船。ゆえに新鮮な材料は手に入らない。そもそも新鮮な材料を積み込んですらいない。いや、新鮮なものどころか、材料自体あまりない。
さらにマボットは敵対する勢力(相手は複数)に狙われており、ウェッジウッドにはマボットと彼らの争いに巻き込まれる可能性すら出て来ます。
そんな状態で、果たしてウェッジウッドはマボットに極上の料理を作ることができるのか。
そして彼は無事にマボットから逃れることができるのか。

舞台は19世紀ですので、東インド会社が幅をきかせていた頃です。本作では東インド会社とは言っていませんが明らかにそうであろう会社は出て来ますし、世界情勢も概ねその頃のものに準拠しています。つまり、インドをはじめとする東アジアの情勢も。
そんななかでウェッジウッドが乏しい食料をいかに料理するかというだけでもとても楽しい。
私は料理はあまり詳しくないですが、それでも描写がとても素敵でお腹が空いてしょうがない。今ならもっといろんな食材があるから、なんとか再現できないものかなんて考えてしまいます。もちろんそんな腕はないんですけど。
そしてもう一つの見所は、マボットとウェッジウッドの会話。
これを現代に引き写せば、ウイットに富んだおしゃれで知性的な会話なんだろうな。
もともと二人とも社会的な地位は高くはありませんが、彼らの得られる最上のものをその生活の中で学び取ってきたんだろうなと言うことがよくわかります。
もちろん子供の頃だけでなく、大人になってからも。

一度一緒に食事をするだけで人間の距離というものは縮まると言いますが、このふたりもそれがよく描かれていました。
拉致した女海賊と拉致された料理人という間柄ですが、彼女ともっと長く過ごした部下たちよりもウェッジウッドの方がマボットを理解していたりとか。

特に後半、二人が単にいがみ合っているだけではなくなってからのいろんな描写は映像で見たいと思いました。
ふたりが話しているところ、ふたりが食事をしているところ、ふたりが角突き合わせているところ、ほかにもたくさん。

この本は発売前から、女海賊と料理人の海賊冒険×お料理小説として気になっていたので、発売されるのを待ちかねていました。
海賊小説だけあって血なまぐさいシーンもそれなりにありますが、読んでいて本当に楽しかった。
時間ができたら、読み返して見たいお話です。

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