見出し画像

エンタープライズシフトに挑んだ事業責任者の後悔とback checkが目指す未来

はじめに


株式会社ROXXは2022年10月に10年目を迎えました。学生時代に起業して早くも9年が経過したことになります。ちょうど先日10億円の資金調達も発表し、改めてここまで来れたことに多くの関係者の皆様へ感謝申し上げます。

ROXX9年目(以後FY09と呼びます)の山田はback check事業責任者として一つの事業に向き合い続けた1年間でした。実は山田は完全な立ち上げ時期以外の事業の責任を持ったことはこれまでありませんでした。agent bank/back checkそれぞれ立ち上げ時期の1年半を立ち上げ責任者として立ち上げた後は人事領域やCOOとして全社課題に取り組んでいたこともあり、山田としても今回は新しいチャレンジという感覚が非常に強かったです。本記事の概要はこの1年間のチャレンジを振り返りながら「事業戦略を転換する際の事業責任者が大事にするべきポイントの整理とback checkの今後の展望をまとめる」というものになります。何かしらお役に立てる可能性がある読者は「SaaSに携わっている方」「HR tech事業に携わっている方」「事業責任者に近い立場の方」「エンタープライズを事業のターゲットにしていきたい方」「リファレンスチェックの現状に興味のある方」と想定しております。前回の記事の反響が大きく、今回どこまでの期待に応えられるか未知数ではありますが、最大限この1年間のリアルをお伝えできればと思います。

back checkとは

まず最初にこの記事の主役となる「back check」について簡単にご紹介いたします。back checkはオンライン完結型のリファレンスチェックSaaSです。採用選考において一緒に働いたことがある同僚や上司からの評価を取得するリファレンスチェックをSaaSで簡単に実施可能にしたプロダクトになります。2019年11月にリリースし、最初の1年でARR1億円を突破し順調なスタートを切りました。

エンタープライズシフトに振り切った1年間

2021年10月に山田はback checkの事業責任者に就任しました。そして事業責任者になった直後、それまでSMB中心のターゲット開拓を行っていた中でエンタープライズにターゲットを全面的に変更する事業戦略の転換を打ち出しました。エンタープライズシフトを図った背景や詳細の取り組みに関してはこちらにまとめております。

この1年間エンタープライズに振り切った成果は確実に出てきており、戦略の転換そのものは成功と呼べるものだとは思っています。しかし自分が想像した以上に多くの困難と過ちを犯しながら、なんとかたどり着いたという表現の方が適切かなと思っています。自分の至らなさによってメンバーに相当な苦労をかけることになりました。エンタープライズシフトを打ち出した当初、山田はあくまでも「戦略の転換」にしか過ぎないと考えていました。ターゲットを変えるだけ。ターゲットに最もフィットしたチャネルを見つけるだけ。これが当時の感覚です。従って重要なポイントは精緻なターゲットリストと最も効果的なチャネルの発見。その結果、上記の記事にもありますが「顧問」というチャネルに行きつき、これでエンタープライズシフト完成と思っていました。ただはっきり言ってこれは完全な誤りでした。この戦略の転換はただの戦略転換ではなかったことに後々気付くことになります。エンタープライズシフトを真に成功させるにはより広範囲な企業としてのシフト・トランスフォーメーションが必要だったのです。組織文化・必要な人材・組織設計・ベストプラクティスの刷新・社内常識の刷新。エンタープライズシフトを成功させるには組織のケイパビリティ自体も根底からシフトする必要があったのです。戦略の転換には既存の組織ケイパビリティそのままに転換可能なものと、組織ケイパビリティの転換を同時に実現しないと成功しない転換があるということです。そして極めて重要なことは戦略の転換自体は短期間でできるが、組織ケイパビリティの転換は長い時間と日々の投資が欠かせないということです。戦略転換のポテンシャルを最大限成果として引き出せるタイミングは組織ケイパビリティの転換完了後である。これが真実でした。この数年、日本のBtoBクラウドサービスのトレンドは「PLG(Product-Led Growth)によるグローバル展開」と「国内エンタープライズ市場の獲得」の二つだと観察されます。一定成長パターンが蓄積されてきたSaaS市場において導き出されたパターンですからほとんどの企業の行き着く先はこの二つのいずれかしか選択肢がないということだとも言えると思います。その中で多くのSaaSプロダクトがエンタープライズへのシフトを始めています。その転換自体は間違いないと思いますが、SMBからエンタープライズへのシフトは組織ケイパビリティの転換を伴う戦略転換であり、成果表出までのリードタイムは組織ケイパビリティの転換リードタイムに因果すること、そして組織ケイパビリティの大きな転換という痛みを伴うことを理解した上で実行することがより早く、より確実に転換に成功することにつながります。

上記を踏まえて山田のこの1年間反省をまとめることで、これから転換する方々への一助になればと思います。

事業責任者としての大いなる反省

1_採用の優先順位を落とした

この1年間の最大の過ちは採用の優先順位を落としたことです。これは戦略転換に伴う組織ケイパビリティの転換の必要性を十分に理解できていなかったことに起因したものだと振り返ります。組織ケイパビリティを転換するためには良質な採用が一丁目一番地になります。これはこの数年国内大手企業が一気に中途採用を増やしていることとも重なります。現時点の組織には持っていない能力を持った人材を増やさないといけない。これを既存社員のリスキリングだけでやるには時間がどうしてもかかってしまいます。そして当然ながら自社が持っていない能力の人材を採用する難易度は高いですし、どのような人材を採用する必要があるのかは事業責任者にしか見えないかもしれません。戦略転換中において意図のない人材採用、無思考でリソースを増やすことはむしろマネジメントコストを上げるという意味で悪影響です。極めて明確な要件定義を基に、その人材を事業責任者自ら取りに行く動き、人事と連携して当該採用を最優先にしていく動きが求められます。戦略そのものに対しての方が重要だと思ってしまいがちですが、今振り返ると組織ケイパビリティを上げる採用の方が重要だったと明言できます。

2_戦略シフトは一気に行うべきだった

戦略転換を図ったにも関わらずリソース配分の観点においてエンタープライズに投下したリソースの方が少ない状況でした。当初の山田は1~2年かけて徐々にエンタープライズ比率を上げていくことによって、足元になるべく悪影響を与えずに戦略転換を進めていくべきであると考えていましたが、これは今振り返ると悪手だったと思っています。最初からもっとエンタープライズ領域にリソースを集中させていれば数ヶ月ずつ成果を早く出せる状況になっており、結果的にFY09の成果は最大化されていました。周りの人からはback checkのシフトに対して大胆な変化と言っていただくことはあるのですが、当事者としてはもっと早く、もっと大きくシフトできたと後悔しています。当時なんでこの決断ができなかったのかを振り返れば事業の売上が凹むことを覚悟できなかったからだったと思います。当然ながらエンタープライズへのシフトは受注までのリードタイムを長期化するため、取り組みを始めてから成果が出るまでに一定の時間が必要になります。その間、SMBの売上が積み上がっていかなければ売上が一時的に下がる可能性はあります。ただ、これは一時的なものであり、長期目線で考えれば最大限早くエンタープライズシフトできた方が長期的には成長は加速しているはずです。どの時間軸でジャッジメントするか。これが当時の自分にはできず、一定期間中途半端な状態を作ってしまったことは大きな反省です。

3_社内常識のアンラーニングを意図してできていなかった

組織というのは時間が経過すればするほど、社内に社内の常識が形成されていきます。戦略転換の実行や、組織ケイパビリティの転換の障害になるのがこの社内常識です。SMB領域とエンタープライズ領域は成功のためのマインドや考え方がまるで異なります。日々大切にするべきこと、賞賛されるべきこと、時間感覚。これらを以前のままの感覚でやっていると、日々の行動が自然と間違ったり、本来上手くいってるはずのものを上手くいっていないとミスリーディングする可能性もあります。この社内常識をなるべく早くアンラーニングすることを事業責任者として主導すべきでした。

一つ事例を上げます。ある時エンタープライズセールスの経験が非常に豊富な方に話を聞く機会がありSMBとエンタープライズの一番の違いは何かを教えてもらいました。それは「SMBは買ってくれるお客様を見つけることが仕事、エンタープライズは全てのお客様に買ってもらうことが仕事」というものです。SMBは多くいる顧客群の中から一番買ってもらえそうな人に時間をかけるもの。ただエンタープライズはそもそも顧客が限られている。だから一社も落とさないように進めていかなければいけない。言われてみれば当たり前のことのように思えますが、現場でこのシフトを生み出すのは相当意図的に行わないと難しくなります。SMBの感覚なら一人当たりの商談数は多ければ多いほど良いとなります。逆に言えば商談数が少ない時点でヤバいとなります。一方でエンタープライズは一人当たりの商談数が多くなることは一概に良いこととは言えません。一社あたりに使える時間が少なくなり、一社あたりの提案クオリティやフォローができなくなり、それが理由で失注になったら限られたパイを不用意に失ってしまうことになります。また一社あたりの単価も高いことから商談数が少なくても、角度の高い案件を持ちそれを丁寧に進めることの方が重要なタイミングもあるはずです。それでもこの共通認識を全社的に作れていない場合、安易にもっと商談数を増やそうとなり悪循環に入る可能性があります。全社的なアンラーニングを主導し戦略にフィットした社内常識を築いていくのは、戦略転換期において事業責任者からマネージャーラインの極めて重要な仕事になります。戦略転換と同時にマネージャーラインを集めて、この共通認識を形成したり、エンタープライズ経験者たちに重要なエッセンスをもっと早く取りにいくことができれば、より日々の活動の精度が上がってたと振り返ります。

総論_組織ケイパビリティの転換の最短化に注力すべきだった

上記の反省の総論はエンタープライズシフトにおいて事業責任者は事業戦略を定めたその瞬間から、組織ケイパビリティの転換に最も時間を投資し、成果創出に十分な組織ケイパビリティに転換するまでのリードタイムを最短化することに集中するべきであるということです。前途した「戦略転換のポテンシャルを最大限成果として引き出せるタイミングは組織ケイパビリティの転換完了後である」から考えたら自然な結論です。ただなかなかこれを当時想像することはできませんでした。読者の方でもしこれからエンタープライズシフトにチャレンジする方がいましたら、ぜひ山田が犯した過ちを回避し、より迅速な転換に成功することを祈ってます。

エンタープライズ×全方位カスタマーサクセス

さて、ここまでこの1年間の振り返りをしてきました。一方でエンタープライズシフト自体は悪くないスピードで進んでおり、近々誰もが知っているような大手企業の導入リリース等の公開も控えております。一年前では想像できなかったような大手企業の導入スピードになってきており、リファレンスチェックの急激な広がりの予感を感じています。そしてこれからのback checkに重要になってくるのは大手企業向けのカスタマーサクセスです。エンタープライズ戦略の要諦は新規獲得以上にアップセル・クロスセルによるNRR(Net Revenue Retention)の最大化による成長の加速です。新規獲得はあくまでも入口にすぎません。そこからどうARPUを上げていくいくのか。顧客そのもののカスタマーサクセスをどれだけの広さと深さで実現できるかがエンタープライズ戦略の最重要なポイントになります。これからのback checkはまさしくこのカスタマーサクセスが最重要になるフェーズに入ってきます。そしてエンタープライズのカスタマーサクセスは特定のカスタマーサクセスチーム単体で実現できるものでは全くないということもこの一年の学びです。全てのチームの総力戦で顧客のカスタマーサクセスを実現していく、それが全方位カスタマーサクセスであり、それに値するリターンをもらたすのがエンタープライズ顧客です。対面で支援を行うカスタマーサクセスはコンサルティングレベルで顧客の課題解決へ向けた提案を当たり前に行う必要があります。セールスは初期提案の時からその後のアップセルを想定したアカウントプランを立て、顧客とプロジェクトの中長期的なマイルストーンを作っていくことが必要になります。back checkにおいてエンタープライズの顧客を動かすにはリファレンスチェックそのものの認知を向上させるマーケティングが必要であり、インサイドセールスによる意図的なターゲット開拓との連動性が必要になります。そしてエンタープライズ要件にフィットしたプロダクト開発、複雑な課題を解決するためのマルチプロダクト化が求められます。これらは全て顧客のカスタマーサクセスへと繋がり、そしてNRRの上昇に繋がっていきます。

こんなことを言っておきながら実はback checkのエンタープライズにおけるカスタマーサクセスチームの体制は2名(1名は兼任)体制でしかありません。なので現在必死に採用をおこなっております。back checkほど日本の大手企業に対して採用の質を一緒に考え、ミスマッチ解消に向き合うプロダクトはないと思っています。そしてまさしくこれは日本の中途採用の転換点を創る活動です。新卒採用から中途採用への転換、採用手法の転換、リファレンスチェックの浸透、採用の量から質への転換。これらをback checkのカスタマーサクセスチームは支援をしながらお客様と一緒に最適解を模索するすごく難しいですが、面白い仕事です。日本の採用シーンにおける転換点を創りたい方はぜひ以下から応募いただけると嬉しいです。

back checkの展望

最後にback checkの未来を少し。この一年で大手の企業様と多くディスカッション・提案をさせていただきました。そしてback checkの大手企業の導入は加速しております。この一年で日本の大手企業が当たり前のようにリファレンスチェックを実施する未来の解像度が非常に上がりました。多くの大手企業は新卒採用から中途採用へとシフトをしていく中で比例的にミスマッチの課題も増加しております。なぜ今リファレンスチェックなのか。そう問われることも多いです。それは中途採用の成功が企業成長そのものを左右する時代になったからだと思っています。人手を採用できれば良いという時代ではなく、活躍する人材・人的資本を獲得することが求められる時代です。この変化とともにリファレンスチェックの必要性は上がっていきます。それが今です。5年後には日本の大手企業は当たり間のようにリファレンスチェックを行なっているでしょう。具体的には5年後にプライム市場の50%以上がback checkを使ってリファレンスチェックを実施している状態を目指します。そしてこれはback checkの1つのステップに過ぎません。back checkは日本のミスマッチを解消するために進化を続けます。大手企業が当たり前にリファレンスチェックをやる世の中になったら、その後一気にSMBにも広がるでしょう。ミスマッチは決してリファレンスチェックのみで完璧に防げるものでもないので、ミスマッチを解消するためにマルチプロダクト化を遂げていきます。2030年にはリファレンスチェックは日本において当たり前になり、日本で最もミスマッチを解消するマルチプロダクトカンパニーになっています


そして蓄積されたリファレンスデータを活用し、HR領域以外でも「個人の信頼を可視化」することで個人の可能性を最大化するプロダクトへと進化していきます。back checkは信頼を扱う事業です。個人の信頼を価値に転換し、その価値が個人の可能性を最大化する。それがback checkがビジョンに掲げる「信頼が価値を持ち、信頼によって報われる社会の実装」です。

back checkが始まって3年。まだまだこの物語は始まったばかりです。今期はFY09で実現したエンタープライズシフトを加速させ、圧倒的な成果を実現する一年となります。1年後には今は想像できないような企業がリファレンスチェックを実施し、リファレンスチェックの認知に大きな変化が生まれている状態を目指します。

最後に、これからもback checkを温かく見守り、応援いただけますと幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?