【百科詩典】いまのせいじからうしなわれたもの【今の政治から失われたもの】

支持者と反対者が排他的に対立して、その間に「行き来」がなくなっているのである。
これほどの政治的立場の分断を私は20世紀のうちには経験したことがなかったと思う。(中略)
今の政治から失われたものがあるとすれば、それはこの「立場は違うが、人間は信じられる。仮に敵味方に分かれても対話はできる」という人間的なつながりの厚みだと思う。
古来、政治では、政策そのものの当否よりもそれを提案する人物の信義や器量が重んじられた。
だから、激しい対立が、領袖同士の対話で一夜にして和解に至るということがしばしばあった。
その風儀がほぼ失われたのである。
そのことの歴史的意味はたぶん私たちが思っている以上に重い。

 ~内田樹