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【Exographまとめ】実験レポート

最低生活に困らない金額を人々に提供する代わりに、その私生活データを全て収集して、社会の反応やその価値の値付けに挑戦するExograph。

被験者へ実施したアンケート結果の全てを含めた詳細はレポートにまとめたので、時間に余裕がある方はこちらをご覧ください。


レポートは学術論文のような質ではなく、どこかの誰かの参考のためにメモした感じのものです。

今回はExographレポートから、既に他のnoteで説明している重複する部分を避け、新しいデータや議論の要点を抜粋してサクサク読める軽い感じにまとめようと思います。
きちんと読みたい人はレポートを読んでください。

目的

この実験が明らかにしたい問いは以下の3点。
  1. そもそもやりたい人がいるのか。いるとすればどんな人か
  2. やる場合に、社会的にどんな批判や問題が生じるか
  3. 撮れたデータがどれだけマネタイズ出来るか。

方法

被験者宅の浴室を除く全ての部屋にカメラを設置し、1ヶ月の私生活動画を撮影。1ヶ月分を20万円で買い取り、マーケティングデータとして企業に販売することを想定した値付けを行う。
細かい設定や利用した同意書雛形などはレポートを参照。

結果1:応募者の属性

詳しくはこちらを読んでもらえれば良いかと思います。

応募者:男女比4:1で合計1311人
年齢:属性としては20~35歳までのY世代・Z世代が応募者の8割ほど
職業:75%は有職者、18%は学生、7%は無職という構成
年収:若年層が多いことを踏まえると年収分布は日本のそれと近い
応募動機:報酬のみを挙げた人は約2割、報酬とそれ以外の動機を挙げたのは半数、それ以外は報酬以外の面白みややりがい、社会貢献意欲など

結果2:被験者の変化

今回は1311名から4名の被験者を選び、実験期間中にカメラの存在感や心身の変化に関して週に一度計5回のアンケートを実施しました。
13項目全ての結果はレポートにあるので、興味ある方はそちらを見るとして、ここでは要点だけ。

まず誰もが気になる質問「カメラの存在が気になったかどうか」
被験者Dに関しては、12/16頃に気分が滅入ったため30分だけカメラを止めたと報告頂いています。

気になる

「カメラが不快かどうか」
そもそも気にならなければ快適でも不快でもないようです、言われてみればそうか。

不快

「自室のカメラの存在が、あなたの人生にポジティブに働くと思いますか?」

ポジネガ

スクリーンショット 2020-01-19 9.50.28

他の被験者に比べカメラが気になり不快であると感じていた被験者Dのみが「人生にポジティブに働く」と回答していたのが興味深いです。
カメラという「他者の不快な目」を人生におけるネガティブな要素ではなく、自律するためのポジティブな要素として捉えていることが分かります。

これら以外にも色々な示唆に富む結果が得られたので、興味ある方はレポートの補足資料にある生データを見てみてください。

結果3:メディア・世論の変化

当初は実施における表面的な批判が多かったが、後半からは実施目的や社会的な課題と結びつけて解釈する肯定的な解釈のものが多かった。

考察1:貧困ビジネスという批判と実際の応募者について

貧困ビジネスという批判が当初あったが、応募者は金銭的理由以外で応募してきているミレニアム世代が多そうだという考察。
プライバシーやデータ経済に対する世代ごとの価値観の違いが明らかになったのではという話。

考察2:現代の「時間売買の労働観」とExographのような「生活行動データ売買の労働観」はどちらがより人道的か

世間一般に広がっている時給換算の労働の方が、22世紀的にはよっぽど臓器売買のような非人道的な労働ではないか、という考察。

マックス・ヴェーバーが「プロテスタンティズムと資本主義」の以下の一説で表現しているように、確かに時間は貨幣性を持つとして現代の労働観は築かれている。

「時間は貨幣だということを忘れてはいけない。一日の労働で一〇シリング儲けられるのに、外出したり、室内で怠けていて半日を過ごすとすれば、娯楽や惰性のためにはたとえ六ペンスしか支払っていないとしても、それを勘定に入れるだけではいけない。ほんとうは、そのほかに五シリングの貨幣を支払っているか、むしろ捨てているのだ」
(マックス・ヴェーバー「プロテスタンティズムと資本主義の精神」)

すなわち自分の人生の時間を売ることの対価として貨幣を得ている。
命の本質は臓器でも、血液でも、行動データでもなく、その人の歩みたい人生の時間・寿命であるならば、現代の労働観は臓器売買よりも悪質で非人道的なものを売買している仕組みではないだろうか。

一方でExographが提示している「生き様のデータ」の提供という新しい労働は、AIやロボットには出来ない人間にだけ可能な社会貢献であり、かつデータは共有することで役に立つが共有したからと言って何かを奪う性質のものではない。

現代の社会通念では既存の労働観は肯定され新しい労働観は否定されているが、これから新しい技術の発展とそれに合わせた社会と人々の価値観が緩やかに移ろっていくなかで、既存の労働観が22世紀には臓器売買の誹りを受け、Exographのような労働観が常識となる日が来るのかもしれない。

考察3:Exographはベーシックインカムの代替や社会保障制度の財源になりうるか

アントニオ・ネグリとマイケル・ハートらが著書「帝国」で「人々は生きているだけで社会にとって価値がある」という考えでベーシックインカム導入を提唱している主張の根拠と、Exographとの違いを考察している。

「労働が工場の壁の外に溢れ出すにつれて、労働日という虚構の尺度を維持し、生産の時間を再生産の時間から、あるいは労働時間を余暇の時間から切り離すことはますます困難になる。生政治的な生産の地勢上にはタイムカードは存在しない。」…「すなわち、万人に対する社会的賃金と保証収入の要求が明らかになる」
(アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート「帝国」)

ここでいう「生産」と「再生産」の意味は、マルクス経済学的な意味であり、労働者が所有する労働力を資本家に販売することで得られる賃金を使って、自身の労働力の再生産に必要な生活手段を購入する。すなわち労働者は労働力を資本家へ販売した賃金から、自身の生活手段を購入し賃金を消費し、労働力を再生産する、といった意味である。
現代社会では、労働とその労働のためのリフレッシュの時間や自己投資の時間、次の労働のための疲労回復の時間などといった区分が困難になっている。

詳細はレポートに委ねるとして、資本主義社会において労働者がそもそも自身や家族を養えなければ労働力の再生産は叶わないのだから、生きているだけでも社会的に価値があり、社会的賃金すなわちベーシックインカムを与えてもよいのではないか、という主張である。

一方でExographはデータ生産という労働に対する対価としての報酬なので、ネグリらの主張する社会的賃金とは根本的に異なる。

そのため労働であるExographを政府が特定の人に強いて社会保障や生活保護費の根拠とすることは、日本国憲法第22条「職業選択の自由」の点から問題があるので、21世紀的には他の労働と同じく課税するなどの手段が適切と思われる。

といったことを考察している。

考察4:シンギュラリティ時代の労働・社会参画について

応募者の中に、以下のような応募理由の人がいた。

Exographのようなシステムが収入を得るための選択肢の一つとして増えることは、自分にとって希望だと思ったからです。自分は会社で働くことが難しく、消去法で自営業を選びました。そんな自分を否定的に思うことが多いです。どんな人でもプライバシーの提供で収入を得られるようになったら、社会に参画できている実感が出て、自己を肯定できると思いました。

労働は日々の糧を得るためという目的以外に、社会参画や共同体への貢献といったやりがいや生きがい、自己肯定感を得るための要素もある。

「いま一つは、そうした自己確信を獲得するための最もすぐれた方法として、絶えまない職業労働をきびしく教えこむということだった。つまり、職業労働によって、むしろ職業労働によってのみ宗教上の疑惑は追放され、救われているとの確信が与えられる、というのだ。」
マックス・ヴェーバー「プロテスタンティズムと資本主義の精神」

マックス・ウェーバーはプロテスタンティズムの倫理の中に、労働に日々の糧を得る以上のものを見出し働くことによって自分は救われるべき存在であるという自己肯定感を得るという、労働の自己目的化の存在を指摘している。

制度上は現代日本では若者でも生活保護を受けることが可能で、働かなくても生きていける社会ではある。
それでも自殺や過労死を含め人生を労働に捧げることが容易に起こり得ている日本の社会にも、「働かない人は生きていてはいけない」「働くことは社会参画の重要な活動であり、働かない人は認められない」といったプロテスタンティズムの倫理と同じ構造を見いだせるのではないだろうか。

AI・ロボットの発達によって人間にしかできない労働が減っていき、そんな人々全員が意義を見出せる労働を得られない状況で、労働により自己肯定感を得られずに悩む人が増えるのではないだろうか。
そんな社会において、人間のその人にしかできない労働を提供できるExographは救いになるのかもしれない。

考察5:倫理面の妥当性について

民法第90条(公序良俗)、日本国憲法第18条(奴隷的拘束の禁止)において議論が必要とのこと

考察6:経済的価値

この社会実験が火中の栗な感じがあることもあり、十分な数の企業へのヒアリングが出来なかったことと、重要な情報の公開は提供者への不利益になり得るので、市場規模から概算しました。
ただし結局モノの価値は常に市場に委ねられるため、一概に〇〇円と言うことは出来ず、あまり意味のない数字です。
この部分がある種この実験のメインであり多くの方が期待されている部分だとは思うのですが、今回はそういう事情で詳細を公表することは控えました。
申し訳ありません。

結論

1. 思ったよりもやる人いた、そして金銭報酬以外の動機から応募する人も過半数いた。
2. 日本国内においてはプライバシーデータ収集が奴隷的拘束に該当するものか、またこの行為自体が公序良俗に反するものかという点で、憲法・民法上の議論を必要としそう。
3. ビジネス的にはやってみないと分からないけど、1ユーザーおよそ月々数千円~数万円の売上が立ちそう

終わりに

3ヶ月という短い期間でしたが、多くのメディアの方に取り上げて頂いたこともあり、当初の想定よりも多様な反応を得ることが出来て非常に嬉しく、そして楽しかったです。
ある程度当初の目的を達したこともあり、現段階では第二回Exographは予定していませんが、今回のレポートを参考にどなたかやって頂ければそれは素晴らしいなと思います。
今回の一件で起こりうる批判をあらかじめ起こし、かつ個人情報の所有権周りのビジネスの可能性や課題、社会的認知が少し広がった気がするので、今後これをベースに世の中を便利により良くするサービスがたくさん生まれるといいなと思いました。

最後に、今回の取り組みでご迷惑をお掛けした方や不快な思いにさせてしまった方にお詫び申し上げるとともに、ご協力頂いた方に改めてお礼申し上げます。

宣伝

Exographの考察をベースにした展示を1/31~2/5@表参道ROCKETにて行います。
被験者の1ヶ月の私生活動画が記録されたハードディスクの中身全て公開し、入札型オークションを行います。
展示内容はSFベースの風刺・ブラックジョークとして受け取ってもらえますと幸いです。

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私もです
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1991年生まれ/京大工学部卒/ 2016年「人類の感覚器官に自由を取り戻す」株式会社Ristを創業、2018年末に京セラグループに売却、現在は顧問。2019年11月株式会社Plasma創業、代表取締役就任。資本主義の次の形を探る社会実験Exographに取り組んでいる。
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