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なぜ組織に外部のエキスパートを取り込むことが重要なのか

これまで経産省で行政組織のデジタル化を推進する上で外部のエキスパートを採用して内部化していくことを行なってきた。

現在ではデジタル庁でも様々な分野のエキスパートと連携しながら働いているが、これにはいくつかの意義があり、改めて説明したい。しかも、これはデジタル分野に限らず、全ての政策分野においても重要なことである。

1.エキスパートのスキルを組織内の業務に活かす

一般的な外部人材の登用はこれを目指すことが中心であろう。例えばデジタル化の場合、ITサービスの開発に関するスキルを組織内で活かしてもらうためにエキスパートを採用している。

一方で他の政策分野においてもエキスパートを採用する意義は大きい。例えばバイオテクノロジーの政策を進める際にその専門家にヒアリングしてまとめるより、内部に採用してしまってその人に考えてもらった方が早い。

政策を策定する際に業界団体等の意見を聞くが、そこには利害が含まれるため、本当に正しい課題提起なのかは怪しい場合もありうる。
業界として求めている利益と、本当に社会であるべき姿がずれている時、それに従うことは社会全体にとってマイナスな場合がある。しかし、行政官のその業界に対する知見が浅い場合、相手の言うことを鵜呑みにしてしまう可能性はある。
一方でもともとその業界のインサイダーだったエキスパートであれば、そうした点についてはすぐに気づくことができ、行政官と連携することで本当に目指すべき政策の方向性を共に考えることができるだろう。

このように専門性を組織の内部の能力として活かすことが外部人材採用の主な目的である。

2.エキスパートの知見を組織のナレッジにする

エキスパートが内部に採用されることによってその専門性を組織のナレッジとして蓄積していくことができる。

例えばデジタルサービスを開発する際にどういったプロセスを取るべきかを整理して組織内の標準ガイドとしていくといったことだ。

こうしたナレッジの蓄積も一から素人が調べて行うよりはエキスパートを内部化し、連携しながら整備した方が早い。

ある分野で継続的に成果を出している人は再現性高くこれを実現する方法を知っている。そうした人の知見を組織内部に蓄積した方が手取り早い。

3.エキスパートから学ぶことで能力を持つ人間を組織内に増やす

エキスパートとともに働く中で、組織内の人材も影響を受ける。

経産省でもITプロジェクトを進める上でエキスパートと一緒にそのプロセスを進めて行った行政官が、結果としてITプロジェクトマネジメントのスキルをOJTのような形で身につけていくケースがある。

その他の政策分野においてもその業界の人の思考パターンなどを、エキスパートと仕事をともにすることで、トレースすることができるだろう。

こうした協業の結果として、組織内の人材のスキルアップにもつながる。

行政組織がエキスパートを採用する意義

基本的には上記の組織内の能力強化、ナレッジ蓄積、人材育成の3つの点が外部エキスパートを採用する意義であると考える。

加えて、現状の行政機関では新卒入省したプロパー職員が退職し、人材流出が増加する中で、中途採用による人材流入はそれに追いついていないため、純減となってしまっている。
こうした中で、組織のリソースは急速に減少している。
組織内に残る行政官は組織の経営や政策のマネジメントを中心に行い、外部から採用するエキスパートを増やして連携しながら政策運営を行うモデルを作っていくことが重要ではないかと考える。
日本の行政組織ではスキルベースでのキャリア管理を行っておらず、この点を整理していくことが、外部人材が専門性を活かして働けるようになることにつながるのではないか。

現状の行政人事では2年ごとにローテーションが生じることで、継続的な政策対応ができていないといった問題も、エキスパートについてはもっと長期の任期を設定することで対応できないか。

もうひとつの日本の行政組織の特徴としてはそもそも海外と比較して人口に対する公務員の数が少なく、外部委託によって事業を実施するケースが多いという点だ。

税金を賢く使うためには委託先の適切な目利きと連携ができていなければ、費用に合った効果を出せない。
目利きや連携についても委託内容が専門的であればあるほど、内部側にもそれを見分けられる人材が必要となる。
例えばデザインアプローチを活用した政策を実施する際に、デザインファームと連携する際も、内部に彼らのアプローチを理解した人材がいることが、適切なパートナーの選定と連携につながる。
加えて、物品調達などと比較して、知的労働を伴う業務委託などについては、調達価格についてもその難易度を理解できなければ、適切な価格判断ができないものも多くなっている。
賢い発注者となるためにも、外部のエキスパートを内部化することが大きな意義を持つと思われる。

このように減少し続ける組織内部への人材供給と、外部委託のクオリティ向上の2点においても行政組織の外部エキスパート採用は重要なピースとなりうる。

ただし、外部エキスパートが行政組織内部で活躍できるためには、彼らが能力を発揮しやすい環境や待遇を行政組織側が整備することも必要である。

業界ベースの給与や、労働環境の柔軟性、正職員としての位置付けの確保といった点が配慮されることが重要だろう。
つまり、現状の行政組織のマネジメントの仕組みの見直しがセットになっていなければ、上記は成立しないことを認識する必要があるだろう。


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