Undercoverという姿勢

Undercoverとの出会いは高校時代にrelaxという雑誌での特集がきっかけだった。

寮に入って久留米の高校に通っていた自分の週末の楽しみは、天神に出てビレッジバンガードという妙な本屋に行くことだった。おもちゃ箱をひっくり返したようなお店にはレゴブロックからアントニオ猪木のTシャツまで色んなものがごちゃ混ぜに置いてあって、心が踊った。当時はビームスやユナイテッドアローズなどのセレクトショップが流行し始め、キレイめファッションが好きな友人はポールスミスなどを着、ヒップホップが好きな友達はStussyなどを着ていた時代だ。寮ではBoonなどのファッション雑誌が読み回されていて、色んな情報が友人から入ってきて、これはかっこいいとかダサいとか言い合っていた。

そんな中、自分が初めてビレッジバンガードで手に取ったrelaxの背表紙に書かれていたのは「いつも心にパンク魂を」というコピーだった。中にはデザイナーの高橋盾(JONIO)さんのインタビューや、その友人のコメントが書かれていた。本に載っていた服はそれまでみたことのないようなものばかりだった。異素材を繋いだニットや、KAWSのプリントが入ったジャケットなど、それまで行っていたショップでは見たことのないデザインばかりだ。東京コレクションに出るデザイナーズブランドでありながら、パンクをベースとしたストリートファッションを背景に持つUndercoverは、既存のファッション業界のあり方自体に挑戦状を叩きつけていることがインタビュー記事から分かった。通常デザイナーブランドはファッションショーをやるのだが、Undercoverは一回辞めてビデオでプレゼンテーションしたりもしている。今でこそ様々な方法でのファッションのプレゼンテーションが広まっているが、当時はファッションショーをやらなければ一流ではないといった旧態な価値観がまだあった。その当時にあってまさにrelaxの背表紙のコピーをJONIOさんは体現しようとしていたのだ。服の裏にある精神性やメッセージが自分の心を打った。高校生の自分は1着も持っていないのに、relaxの記事でUndercoverのファンになったのだ。(そしてrelaxというゆるいサブカルチャーマガジンの読者にもなった。)

数年後、Undercoverは再度relaxで特集される。今度はパリコレに進出するというのだ。日本のエスタブリッシュなファッション業界に殴り込みをかけたブランドが、今度は世界の舞台に出ていく瞬間に密着した記事だった。この時の背表紙は「壊さなければ意味がない、壊すだけではもっと意味がない、創ったら壊し、壊したら創る」というコピーだった。パリでの最初のコレクションは「scab(瘡蓋)」というタイトルで、ボロボロの服に布を何度も継ぎはぎをすることで瘡蓋のような表現を行うものだ。ダークトーンでボロボロだが作り込まれた服は、きらびやかな衣服が並ぶパリコレに見事なカウンターを放った。美しいという概念に挑戦し、壊そうとするものであり、パリコレというエスタブリッシュメントに対する反抗でもあることがわかり、鳥肌が立った。大学生になってからは青山にあるお店に足を運んだ。お金を持っていない大学生の自分には敷居が高く、緊張しながらお店に入った。新しいコレクションが出る度にお店を訪問して、服を見るのが楽しかった。シーズンオフの時、セールで買えるくらいだったが、今でもそれを大切にしている。

自分にとってのUndercoverについて言えばファッションというより、デザイナーであるJONIOさんの姿勢に対する共感があり、そのアイコンとして服があるという感覚だ。服自体文句なく格好いいのだが、その格好いいという感情をより強くしているのは、JONIOさんが表現を通じて社会の常識を打ち壊そうとする姿勢であり、実際にそれを実現してきたことだ。今もTシャツのプリントなどでよく書かれている「We make noise not clothes」という言葉が、そうした価値観を示している。

JONIOさんの姿勢や行動は、自分自身がどうありたいかという人生に対する姿勢にも影響している。高校生という時期にrelaxのあの記事に出会ったことが自分に強く刻まれたのだと思う。パンク魂を自分も持ち続けたいのだ。20年経った今、買えなかったscab期のTシャツを買い集めている。それは当時自分を高揚させた感覚を拾い集める行為なのかもしれない。






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