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TCLを終えて(2)

前回は箇条書きの形でTCLで学んだことを挙げてみたが今回は個人の姿勢として学んだことを文章でまとめてみたい。

自分を知る

そもそも自分の大切にしている価値というのは、なんとなくそこにあるだけで言語化できていないことが多い。一方でそれが言語化できなければ自分が実現したいことを捉えることは難しい。
誰もが「自分がこれが好きだ」と思うような偏愛の対象を持っているはずだ。これらをコラージュしてみることで視覚的に自分が好きなものを集めるという「偏愛コラージュ」というワークがある。このワークを通じて自分が好きなものを客体化し、その共通点などを見出すことで、自分の大切にしている感覚や価値が浮かび上がってくる。それを言語化してみることで自分の大切にする価値がよりはっきりと捉えられるようになる。手を動かして、視覚で捉えて、言語化する、というステップがこれを行う上で重要だ。偏愛コラージュとその言語化を通じて、自分が大切にしているものを改めて確認できるのだ。
また、自分のこれまでの人生を振り返る上ではライフチャートを書いてみて分析してみることも有効だ。自分の人生の転機となったタイミング等をハイライトして、それが自分にとってポジティブだったかネガティブだったかをグラフに時系列で表してみる。それによって自分の人生で何を大切にしてきたか、どのような経験が自分を構成しているかも客体化できる。
こうした自己の好きなものや、人生に対する内省は、過去から今に至る自分がどのような要素で構成されていることを振り返ることにつながる。過去から現在に至るまでの自分を理解できていなければこれからの自分のビジョンも見出すことができない。その準備が偏愛コラージュやライフチャートによる内省が持つ意味だろう。

違和感と美意識

生活の中にある違和感を見つけられる視点や感受性が、様々なデザインを行う上での基礎的な素養である。授業では人の行動の痕跡を生活環境の中で発見することで、より日常を深く観察する視点が得られることが教えられた。例えば公園のベンチの側にタバコの吸い殻と缶コーヒーが置いてあった場合、そこで誰かが休んでいた姿が想像できるかということだ。営業の合間に公園で休むサラリーマンなのか、工事現場で働くアルバイトの人なのか、そして吸い殻の形状からどんな気持ちだったかも想像できるかもしれない。そうした観察の視点の繊細さは、デザインの上では欠かせない。
加えて、観察の視点の独自性がその人の美意識につながっている。ものが構成されている要素を分解して捉えようとする視点や、過去の歴史に遡って捉えようとする視点など、その人特有の観察のクセが存在する。観察のクセは、物を作る際のこだわりにつながっていく。つまり観察・創作の際の個人が持つ独自の視点こそがその人の美意識ということができるのではないだろうか。美意識からずれているものは、自分の認知の規範からずれているから、違和感を感じる。違和感を大切にするということは、自分の美意識を大切にすることでもあるのだ。このような自分の視点の独自性は上記の偏愛コラージュやライフチャートを通じて明らかにすることができる。

妄想と創造

自己がどのような要素で構成されているかを確認し、観察する視点を身に着けることで、自分が大切にする「バリュー」を捉えることができ、初めて自分が実現したいビジョンや、事業のイメージを持つことができる。
「ビジョン」は大義として自分が何を実現したいのかを示すものであり、「ミッション」はその大義を実現するためにどんな行動を取るのかを定義するものである。
例えば、「多様性を尊重する」、「自主性を大切にする」、「自由な議論を許容する」といったバリューが自分の中で浮かんできた時、「誰もが自分らしく生きられるような社会を実現する」といったビジョンに結実することができる。さらに、それを実現するミッションとして、「シニアと若者が互いを尊重し、学び合いながら生きられる環境を提供する」といったミッションを設定することもできる。
自己が大切にするバリューからしか本当の意味でのビジョンは生まれず、それを達成するためのミッションも生まれない。つまりこの3つはバリューを起点として整合性が取れていなければいけないということだ。
ビジョンは抽象的であるため、これを言葉にし、絵に描いて表してみるとより具体的なイメージを持って捉えることができる。What if...(もし○○だったら)という問いを立ててみたり、ビジョン・アートを描き、視覚化することで、そのビジョンを実現するためのミッションや、事業のヒントを見つけることができる。「もし世の中の移動の制約が一切なくなったらどうだろう?」という問いは、パーソナルモビリティや、空飛ぶ車など様々な移動手段の拡張を想起させる。こうした強烈な問いは、妄想を促す。抽象と具体を行き来し、妄想することが、創造につながっていくのだ。

自分を再定義することで、進むべき道が見える

スティーブジョブズのコネクティングドッツという言葉で表されるように、自分の中の経験や感情を丁寧に拾い上げ、それをつなげていくことで、自分が何を大切にしていて、何を実現したいのかが見えてくる。そしてその延長に本当に実現したい未来もある。自分の中にある点を拾い上げられるだけの感性や観察眼がなければ、それに気づくことができない。TCLで教えているのは正にそのことなのだろう。
自分を大切に取扱えなければ、自分を知ることもない。「Lead yourself」、つまり 自分を自分で引っ張っていくことで、本当に自分らしく生きることが重要であり、それを「美しく生きる」という言葉で表すことができるだろう。自分を再解釈する、つまりデザインすることが第1歩だということだ。
その上で、その先にある世界やありたい自分を描ければ、自分の進むべき道を捉えることができるだろう。

次回はチームとして動く上でどのような学びがあったかをまとめたい。

参考


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