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「Public Digital」で刺さった文章たち

本書は英国政府のデジタル化推進組織Government Digital Service (GDS)を創設したメンバーが書いた本で英題は「Digital Transformation at Scale」となっている。邦題の「Public Digital」は彼らがGDSを卒業後立ち上げたコンサルティングファームの名前でもあり、世界各国の政府デジタル化をサポートしている。

自分は4年前くらいに英国出張に行った際に筆者の1人であるアンドリュー・グリーンウェイにインタビューする機会をもらったり、留学中の授業でトム・ルースモアのGDSでの話を聞いたりと、何かとつながりを感じる存在だ。彼らの本も英語で読んでいたのだが、今回岩嵜さんが監訳を行われ、日本語版が出るということで同じ本を日英両方で読むという体験をさせてもらった。

英語バージョンを読んだ際にも多くの発見があったのだが、改めて読んで印象に残った部分を引用しながら紹介したい。

官僚ハッカー
プロダクト・チームが1番目のチームだとすれば、2番目のチームは官僚ハッカーだ。ー中略ーハッカーとは要するに、デジタル・デリバリー・チームがユーザーに最高のサービスを届けられるよう、足手まといになるものを排除したり罠を避けたりして道を切り開く人だ。

P141

ふさわしい文化を構築する
文化とは、意識的に取り入れたものと、人々が集まることで思いがけなく生まれる何かが渾然一体となった奇妙なものだ。正しく築けば計り知れないメリットが得られるが、間違えると大惨事になりかねない。

P145

シンプル
まったく新しい何かのためにシンプルなデジタル・サービスを作るチャンスに恵まれたら、両手でしっかりつかまなければならない。ここで重要なのは「シンプル」という単語だ。

P158

ソフトなレバー(影響力、個人的な関係、相互に便宜を図ること、ベストプラクティスの共有を通じて発揮される力)とハードなレバー(法律や政令、規則、支出の管理など)という2つをさまざまに組み合わせて使うのである。また、権限が及ぶ課題の範囲(採用、予算、テクノロジーの選択、法的枠組みなど)によっても変わることがある。

P174

外部委託を続けた結果、大組織のITチームの多くは実質的に納入業者に取り込まれている。技術力を失ったITチームは契約管理者のような立場になりさがり、前回購入したものが引き起こした問題を解決してくれることを期待してさまざまなものを購入するようになっている。

P180

デジタル戦略は、組織全体に採り入れようと考えている運営モデルとその実現を可能にする文化に向かって動き出すための合図の役目を果たさなければならない。戦略の内容は、関係するすべての人の役に立つ実践的なステップを中心にするべきだが、そこを貫くテーマは組織の変革だ。

P194

組織内には「デジタル」と「IT」を同一視している人がまだたくさんいるだろう。そうした人たちの多くは、デジタル・チームの仕事はあまりにも専門的で複雑すぎて退屈だから自分達には関係がないと考えようとする。ー中略ー友好的な人にだけ働きかけたくなっても、そうすべきではない。後になって問題を起こすのは無関心な人たちなのだ。

P202-203

英国政府のトランザクション・データを調査したところ、ほとんどの大組織に共通するいくつかの発見があった。サービスをいくつ運営しているかに関係なく、原則として大部分のトランザクションは比較的少数のサービスで発生している。つまり、一般的には発生件数で上位10%のサービスが、政府全体で発生する全トランザクションの90%を占めているのだ。

P210

英国では作業が複雑化するのを避けるため、「デジタル・サービスの利用率」、「入力完了率」、「トランザクションあたりのコスト」、「ユーザー満足度」という4つをパフォーマンス指標として選択した。

P214

支出規制とサービス基準が持つ最も根本的な影響力を引き出すのは、規則そのものではなく、それらに基づいて政府の事業に戦略的な意思決定を下す人々だ。テクノロジー投資やデジタル・サービスが賢明なものかどうかの判断は、テクノロジーを深く理解している人や、デジタルサービスを構築した経験のある人が行うべきだ。これは当たり前のようだが、そうなっていないことがよくある。査定や評価は賢いゼネラリストが行うよりも、何人かの鼻を明かすことを恐れない専門家からなる部門横断型の審査委員会が行うべきであり、自分のキャリアを気にしているゼネラリストではない。

P264

誇大宣伝に抗う
ー中略ー人工知能やコネクテッド・デバイス、暗号技術の進歩は世界を変える。これらが持つ本当の価値を私たちよりもはるかに公平に評価している優れた本や講演、ブログはたくさんある。
だが、DXを目的としているときに、信頼できる旅費精算システムを従業員に提供できないような組織がすべてを賭けて人工知能による影響を確実に物にすべきだとは思えない。火を消そうとしている時にガソリンを注ぐようなことはやめるべきだ。

P296

デジタル・チームが挫折しがちな理由はそのものズバリの「無頓着」だ。要するに、成功しているデジタル・チームが関心を持っているものに関心を持たない上層部の決断力ーというより、たいていは決断力の欠如ーだ。

P308

個人的にはUKは日本も今直面している課題と向き合い、それを乗り越えてきた10年の歴史があり、そこから学べることは多くあると考える。上記の引用の多くは自分も頷きながら読んだ一部だ。

海外の事例を参照することを自国のコンテクストと違うので意味がないと言う人もいるが、そもそも他国で何が起こっているかも知らずに自分たちが今どこに立っているのかを知ることはできいない。

また、本来海外のベストプラクティスを自国のコンテクストに当てはめてより良いものにすることが日本のお家芸であったはずなのに、それすらも放棄していることが、日本の停滞の理由なのではないか思われる。

そういった意味でも本書から日本政府のみならず、大組織のデジタルトランスフォーメーションにおいて本書がまとめてくれている内容は非常に価値があると思うので読んでみていただきたい。

ちなみに本書発刊にあたってのイベントも以下の通り行われるのでご関心ある方はぜひ。(英語でのイベントになります)



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