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The Mom Test : カスタマーやユーザーから真のニーズを引き出す秘訣とは?
こんにちは。デンマーク工科大学でアントレプレナーシップを学んでいるたばたです。
スタートアップの起業家や企業内で新規事業を担当されている方は、顧客志向、ユーザー中心、お客様価値といったキーワードを耳にし、顧客が真に必要な製品を作ろうといろいろな施策を実行していっていると思います。
多くの書籍やセミナーで様々なフレームワークやワークショップが提供され、その重要性や銀の弾丸となる手法を紹介されますが、意外に実務レベルですぐに活用可能な具体的な情報は少ないのではないでしょうか。
今回紹介する「The Mom Test: How to talk to customers & learn if your business is a good idea when everyone is lying to you」 は授業の中でお勧めされたのですが、新たなビジネスアイデアの種を見つけ、それらの有効性を検証する段階において、どのように顧客と会話したらいいのか?また、その会話の中で陥りがちな落とし穴やうまくいくためのコツをフレーズ例を多く紹介しながら説明している本です。
残念ながら日本語訳が存在しないため、本を読むためには英語での原本を読むしかないのですが、あまり文章量が多くないので興味ある方はぜひ原本を読むことをお勧めします。
The Mom Testとはどんな本?
この本はシリアルアントレプレナーのRob Fitspatrick氏が自らの経験に基づいた書いた顧客開発を行う上での実践的な秘訣や注意点を記述した本です。アカデミックであったり、概念的であったりするビジネス書に比べて実務に即していて、思わず「そうそう!」とうなづいてしまう部分がたくさんあります。
褒め言葉は意味がない?誰もが陥ってしまう罠とは?
本書では、お母さんでも嘘が付けないような質問によって、潜在顧客から有用な情報を引き出す会話を、The Mom Testと名付けています。
冒頭のページではこんな会話のやりとりが紹介され、潜在顧客からの「いいね!」がいかに無意味なこと(誤った方向に導いてしまうためむしろあ悪影響)かを説明しています。
息子:「母さん、母さん、ビジネスのアイデアがあるんだけど相談してもいい?」 (これから自分の考えを言うけどどうか傷つけないで。)
母:「もちろん。いいわよ。」(あなたは私の一人息子だから、あなたの気持ちを守るために嘘をつく覚悟はできているわ)
息子:「iPadが好きだよね?よく使っているの?」
母:「よく使ってるわよ」 (この答えが欲しいんでしょ?乗っかってあげるわ)
息子:「OK!そしたら、料理本のiPadアプリがあったら買いたいと思うかな? 」(僕が何を言ってほしいかわかるでしょう)
母:「うーん・・・」(この年になって新しい料理本ねぇ…)
息子:「それに40ドルしかしないから、本棚にあるハードカバーよりも安いんだよ。」 (気乗りしない様子は置いておいて、自分の素晴らしいアイデアをもっとアピールしよう!)
母:「えっと...」。(アプリって1ドルで買えるものじゃなかったっけ?)
息子:「それに友達とレシピを共有できるし、買い物リストもあるんだ。それに、大好きな有名シェフのビデオもあるよ。」( いいね!って言って、お願い!)
母:「そうね......確かにそのアプリは素晴らしいわね。それに、あなたの言う通り、40ドルはお得よ。レシピの写真も載っているの?」( 買うかどうかは別として、値付けの理屈は理解できるし、引き込まれたように見えるように曖昧だけど褒め言葉と何かしらの機能を提案しておこう。)
息子:「もちろん!回答ありがとうね!」(よーし!ニーズの検証ができたぞ!)
母:「それよりもラザニアを食べないの?」(私はあなたがご飯食べないことのほうが心配なんだけど…)
(Fitzpatrick, R. (2013). The Mom Test )筆者訳
多くの人がこんな会話にドキッとしたのではないでしょうか?こちらが一方的に自らのアイデアを提示し、聞き手もこちらを傷付けまいとアイデアを肯定し、最後にちょっとした機能のアイデアを要求として提示してくる。
Robはこのような煮えきらない褒め言葉(Lukewarm compliment)こそ避けるべきことであり、このような褒め言葉で終わってしまった会話は失敗であると述べています。
目指すべき顧客との会話とは? -The Mom Test-
ではどのような会話を目指すべきなのでしょうか?
本の中では以下のような会話が良い会話例として紹介されております。
息子:「母さん、新しいiPadはどう?」
母:「あら、気に入ったわよ。毎日使ってるわ。」
息子:「いつも何をしているの?」( ちょっと一般的な質問だったかな。答えはあまり参考ならないかも)
母:「そうね…ニュースを読んだり、数独をしたり、友達と連絡を取ったり…普通の使い方よ。」
息子:「ちなみに最後にしたことは何?」(はっきりした情報を得るために、過去の具体的な話を聞いてみよう)
母:「お父さんと一緒に旅行の計画を立てていたのよね。どこに泊まろうかと考えてたのよ。」
息子:(娯楽と実用の両方の目的で使っているのか…これは「普通の使い方」という答えだけでは分からなかったな)
息子:「そのためにアプリを使ったの?」 (少し誘導的な質問かもしれないけど、聞きたい話題にたどり着くためには、時には後押しが必要だよね。)
母:「いいえ、Google検索で調べたのよ。アプリがあるなんて知らなかったわ。何ていうアプリなの?」
息子:(若い人たちはApp Storeでアプリを探して見つけるけど、母さんは具体的な名前が欲しいのか。もしそれが他の人にも当てはまるのなら、App Store以外の信頼できるマーケティングチャネルを見つけることが重要になるかも…)
息子:「ちなみに今使っている他のアプリはどこで知ったの?」(予想外でおもしろい答えだったから、もっと掘り下げてその背景にある行動や動機を理解しよう)
母:「日曜版の新聞には、今週のアプリのコーナーがあるのよ。」
息子:(最後に新聞を開いた時のことは覚えていないだろうが、母さんのような顧客にアプローチするには、従来のPRが有効な選択肢になるかもしれないな…)
息子:「なるほどね。そういえば、棚に新しい料理本がいくつか並んでいたけど、あれはどうしたの?」 (ビジネスアイデアはたいてい複数の失敗要因があって、今回はアプリのメディアとしての側面と、料理本の内容としての二つがあるんだよな。)
母:「クリスマスになると、つい買ってしまうものよね。これはマーシーがくれたんだと思うわ。まだ開けてもいませんが。この歳になってラザニアのレシピなんて必要ないでしょ!」
息子:(やった!3つの気づきにつながる貴重な答えが聞けたぞ。1.中高年のユーザーには一般的なレシピは必要ない。2. プレゼント市場は強いかもしれない。3. 若い人は、まだ基本的なことを知らないので、より良い顧客層になるかもしれない。)
息子:「自分のために買った最後の料理本は何?」(具体的な例を尋ねることで「料理本は買わないわ」みたいな一般的な答えは回避しよう)
母:「そういえば、3ヶ月ほど前にヴィーガンの料理本を買ったわ。父さんが健康的な食生活を心がけていて、野菜料理にちょっとした工夫が欲しいと思って。」
息子: (さらに貴重なことが聞けたぞ。料理経験豊富な人は、専門的でニッチな料理本を買うことがあるのか。)
さらに会話は続き、うまくいけば、iPadでレシピを探したり、YouTubeで料理の動画を見ようと思ったことはないか、という話題を振ったりもするでしょう。
(Fitzpatrick, R. (2013). The Mom Test )筆者訳
以上の会話では、ビジネスアイデアについての意見の代わりに貴重なヒントとなる事実や気づきが得られていることがわかります。
つまり、顧客との会話が有用であったかどうかとは、褒め言葉やポジティブな意見が聞けたかどうかではなく、顧客の生活や見ている世界についての具体的な事実が得られたかどうかが指標となるのです。
さて、具体的にどうすれば良い顧客との会話、つまり母親にも嘘をつかせないようなやりとりが実現できるのでしょうか?
潜在顧客と有用な会話を行うための3つのアプローチ
それでは、どのようにすれば顧客から本音を引き出すことができるのでしょうか?
本書では大きく3つのアプローチが提案されています。
1. あなたのアイデアではなく、彼ら(会話相手)の生活について話すこと
2. 一般的な意見や未来についての意見ではなく、過去にあった具体的なこと
3. 話す量を減らし、聴く量を増やすこと
つまり、自分のアイデアばかりアピールして(ピッチして)、そのアイデアに対して意見をもらうという行為と逆のことをしましょうというわけです。
普通、インタビューや話を聞きたいとお願いした手前、「こちらからアイデアを提供しないと失礼である」や、「何かしらアイデアに対して褒めてもらいたい」、「何かアイデアをもらいたい」と考えるのは普通のことです。
つまり、自然に会話を行うとすると必然的に誤った方向に行くようになっているのです。
そのため、筆者は意識的に会話を進めていくことが必要であるとしています。
The Mom Testをすぐに始めるためのTips
本書では、実践的なTipsとしていくつかの具体的なTipsが紹介されているのでその一部を紹介します。
事前に最も聞きたい3つの事柄を設定しておく
会話を行う前の準備として、相手から学びたい最も重要な疑問点を3つ考えておきます。そうすることで、限られた時間の中でのバイアスのかかった質問や予定外の会話を避け、よりリラックスしながら会話をすることができます。
深堀りする質問を繰り出す
ここではより具体的な事実や要求事項、気持ちを掘り下げるための質問例を本書よりいくつか紹介したいと思います。
■抽象的な会話を具体的な会話に変える質問
「最後にそうなったのはいつですか?"」
「最後にそれが台無しになったのはいつですか?」
最近の事例を聞き出すことで、具体的な事実を引き出すことができます。さらに、人はつい、「自分のありたい姿を語る」ため、失敗例や特殊ケースの話を聞くことで実際のユーザーの姿を引き出すことができます。
■要求事項について深堀りする質問
「なぜあなたはそれをしたいのですか?」
「それがあれば何ができますか?」
「それが無い時はどのように対処しているのですか?」
「その機能を追加するために発売を延期すべきだと思いますか?それとも後から追加できるものですか?」
「それはあなたの日常にどのように適応しますか?」
■感情に関する気づきを深堀りする質問
「そのことについて詳しく教えてください」
「何がそんなにひどいの(最悪なの)ですか?」
「なぜそれは解決できないのですか?」
「とても興奮しているようですが、そんに大きな問題なのですか?」
「なぜそんなに嬉しいのですか?」
ピッチをしない
これはシンプルです。人はどうしても自分のアイデアを話したい、相手に自分のアイデアを認めてもらいたいという承認欲求があります。しかし、自分のアイデアついて話し始めると相手は自分の問題について話さなくなります。
相手がすでに自分が考えたことに意見するとき、つい口を挟んだり反論もしたくなるでしょうが、そこをグッと堪えて相手のメンタルモデルや世界からの学びのチャンスを逃さないことが大事です。
カジュアルな雰囲気作り
かしこまったミーティングでなはく、カジュアルな会話から始めることを推奨しています。正式な雰囲気だとどうしてもピッチモードになりがちになり、お互い上部だけの褒め言葉になりがちになります。
何か相手に示すものが無いと失礼ではないか?と思ってしまいますが、自分が抱える悩みについて聞いてくれるということは相手にとって嫌なことではなく、むしろ嬉しいことなのだと考え(開き直り?)聞き役に徹すること、そしてそのためのカジュアルな雰囲気作りというわけです。
最後に
本書では上記の他に様々なアンチパターンやTipsが掲載されているので興味がある方はぜひ原書を読んでみてください。
もちろん言うは易し行うは難しということで、本書を読んだからすぐにうまく行くわけではありません。
以下のような取り組みを行うことで、チームに文化を根付かせ、知見を蓄積させていき、よりよいアクションを起こせるようにしていくことが大切になります。
・継続的に準備、実施、振り返りのプロセスやアプローチの改善を行う
・仲間を見つけてチームで取り組み、互いにフォローしたりアドバイスし合えたりする環境を作る
もしこういったユーザー・ステークホルダーのリサーチや深堀り活動に興味がある方は下記の本などもお勧めです。
また何か面白い本や日本語版がない本に出会った時は紹介していきたいと思います。
デザインリサーチの教科書
はじめてのUXリサーチ ユーザーとともに価値あるサービスを作り続けるために
ユーザーインタビューをはじめよう ―UXリサーチのための、「聞くこと」入門
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