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翻訳:中国国内での軍事施設撮影禁止を促す啓蒙番組(中国中央テレビ「焦点訪談」より)

中国では毎年4月15日は「国家安全教育の日」とされています。
この日は軍事など国家の秘密を守ることについて啓蒙する番組が放送されます。中国国内において「外柵沿いからの撮影」などの行為がどのような結果を招くのか。本年放送分について要約して紹介します。皆さんの参考になれば幸いです。


(以下本文)

番組タイトル:「軍事オタクさん、道を踏み外さないで」

 4月15日は「国家安全教育の日」である。 誰もが国家の安全を維持する責任がある。 中国には多くの軍事マニアがおり、大多数の軍事マニアは確固たる国防意識を有し法律を遵守しているが、国家安全に対する意識が薄弱な軍事マニアも稀に存在する。国家安全や法律への意識が弱く、目立ちたがりで注目を集めるために、不法に軍事基地や国防・軍事産業セクションに侵入し密かに撮影してネットに拡散、軍事機密を漏洩させ国家安全を危険にさらしてしまう。

 2020年10月14日、浙江省嘉興市に所在する空軍部隊が、同基地周辺で違法に撮影している男がいると国家安全当局に通報し、同市の国家安全局が直ちに対処に向かった。

 張は地元の軍事マニアである。2020年、軍事装備が好きな彼は自宅近くの嘉興空港に出かけ撮影しようと思い立った。 最初の2回、張は基地周辺を散策しながら観察、スマホで数枚の写真を撮ってグループ内で共有した。

張:「自分が撮ったという達成感があった。 投稿後、友人らは私に注意しこれは投稿すべきではないと言っていた」

 他の軍事マニアからの羨望がもたらす達成感で、張は友人の忠告を無視した挙げ句、3度目の嘉興基地での撮影に向かった。 しかし、その際に巡察中の空軍兵士たちに発見されてしまったのだ。

 張は慎重に基地から直線距離で50メートルも離れていないくぼみを選んだ。滑走路の真向かいで、飛行場の施設や離着陸の状況がばっちり撮影できる。 巡察の兵士に見つかるまでに、張は300枚以上もの写真を違法に撮影していた。

国家安全機関幹部「もしこれらの写真がWeb上に流出すれば、外国情報機関により我が軍の装備、配備、訓練などの重要な情報資料として使用される可能性が非常に高く、我が軍への被害は非常に大きい」

 張が撮影した写真は、関連部門によって4つの機密クラスの軍事秘密が含まれていると認定された。写真が流出すれば、外国の情報機関はこの軍事基地の装備、配置、配備数及び陣地の状況を把握でき、戦争が発生した場合、敵は容易に同基地を攻撃できることとなる。2021年4月21日、張は中華人民共和国刑法第282条「国家秘密の不法取得」で有罪となり、嘉興市徐州区人民法院において懲役1年2ヶ月、執行猶予1年6ヶ月の判決を受けた。

 これまでも一部の軍事愛好家たちは、立入制限とされている軍事区域に侵入し違法な撮影を行い摘発されてきた。 外国の情報機関が情報収集のためにスパイ送りこむのとは異なり、これらの軍事愛好家は、軍事上の秘密を漏洩させる意図はないのだが、好奇心や自己顕示欲などの欲求から軍事秘密を漏洩させ法律のレッドラインを超えてしまう。

 2020年4月、常州在住の葉は、両親を伴い地方にドライブに出かけた。 車が細い山道に差し掛かったとき、葉は思いがけない発見をした。

葉:「山頂にレーダーサイトがあるのが目に入り、好奇心に駆られて山の中腹まで車を走らせたところ飛行場を見つけた」

 葉は古手の軍事ファンであった。彼は写真を撮るために飛行場の正門に急いだものの警備の兵士に見つかり離れるよう促された。しかし彼はこっそり飛行場の周りを一周し、その途中で多くのものを発見した。

葉:「一週間後、再び訪れてたくさんの(航空機用)シェルターと滑走路の写真を撮影しました」

 普段はWebでしか見ることができない装備品や軍事施設が目の前に現れた葉は、
興奮してシェルターや駐機中の軍用機や基地の施設などの写真や動画数十枚を撮影しただけでなく「軍事禁区」の看板まで撮影していた。

 2020年12月のある日、葉は大胆なことを思いついた。

葉:「2020年12月12日、たまたま地図に目を向けると、とある地点が私がかつて行った基地であると気づいて興奮してしまい、思わず基地の地点をネットワーク地図(訳注:Google Earthなど)の座標にアップロードした」

 これらのWebに拡散された軍事施設に関する情報は、特定の装備、特定の時間、特定の地点といったものの相関関係が明らかにされ、非常に高い情報価値を有することとなる。

 通常、ネットワーク地図において軍事管制区域などの秘密の地点の位置は公開されていないのだが、葉が行ったネットワーク地図上への軍事基地の座標及び相関する写真のアップロードは、その情報を国内外から使用することができるとともに、広範囲にたちまち拡散する。 そして外国情報機関によるOSINT情報資料の収集においては都合のよいものとなってしまう。

 関連部門による鑑定の結果、葉が撮影した写真には4つの機密級の軍事秘密及び1つの秘密級の軍事秘密が含まれていることが判明した。 これにより葉は国家機密を不法に入手した罪により、懲役2年、執行猶予3年の判決を受けた。

 軍事マニアのSNSなどのグループにおいて「ヤバい写真」や「秘密の情報」を共有する人物は多くのファンが集まる。その虚栄心がきっかけで一部のマニアは一線を越え犯罪に走ってしまう。

 2021年11月、空母”福建”を違法に撮影した男が国家安全局に発見され、上海の国家安全局が直ちに現場に向かい対処した。

 ”福建”は、中国独自の設計によるカタパルト方式の空母であり、その状況は国内外から注目を集めていた。2021年末、”福建”の進水時期の予想はたいへんな話題となり、軍事マニアも大騒ぎであったが羅もそうした中の一人だった。

羅:「”福建”が上海で建造されていると知った時、私は建造状況を把握した最初の男になりたかった。”福建”は私のグループではとてもウケる話題だったし、大チャンスだと考えたんだ」

 羅は軍事マニアとして、全国の軍事装備展示会に足繁く通い、撮影した写真をSNSなどで共有してくれることから、マニアの中では一目置かれる存在であった。”福建”は彼の近所で建造されており、撮影と写真のアップロードのチャンスを逃すことができないと考えたのだ。彼は望遠カメラが搭載された最新のドローンを購入した。

羅:「当時はちょっとヤバいかなとも思ったのだけど、Webにはたくさんの”福建”の写真がアップされていたし、あまり深く考えずに撮影した」

 軍用飛行場の位置や装備の情報を秘匿するのとは違い、”福建”は高い注目を浴びており、メディアやWebには多くの公開向けの写真や衛星画像すらアップされていた。これらの公開情報が、羅を安易な撮影に走らせることになってしまった。ところでこのような撮影は許されるのか?撮影した内容が世間に広まればどのような危険があるのだろうか?

 軍事マニアの友人が撮影した空母と軍事施設の写真には二つの特徴がある。一つは最新であること、そしてもうひとつは高解像度で細部が見て取れることだ。外国の情報機関はこれにより空母の建造の進捗と機微な装備の性能を推定することができる。

 関連部門の鑑定を経て、羅が撮影した写真と動画には二つの機密級の軍事秘密、一つの秘密級の軍事秘密が含まれていると判定された。羅は「国家機密の不法取得」の罪で懲役1年、執行猶予1年の刑が言い渡された。

 新たな情勢下、現代の戦争スタイルには大きな変化が生まれている。戦場における情報収集は分散化、多元化という特性が現れ、民生品、一般大衆は既に戦場情報を探知する重要な結節点となっている。うっかりすると、個人の趣味が国外情報機関の収集手段になりかねないのだ。

国家安全機関幹部「国家安全機関は、我が国の装備建設の状況を把握し、国外情報機関の注目するところを注視している。国外情報機関のエージェントは、しばしば軍事マニアと偽りWeb上の軍事フォーラムで活動し、軍事マニアの虚栄心を利用し、そそのかして軍事装備情報を詐取しようとしている。或いはニュースメディア、科学学術交流、商業活動を隠れ蓑に買収などで軍事情報を盗もうとしている。さらには中国人を使い軍事基地や軍事産業施設の付近に監視拠点を設け、リアルタイムに軍事装備の生産、試験、装備化、配置などの最新動向を狙っている。軍事装備等の状況について違法に撮影・流布することはスパイ罪や国家機密の不法取得罪となるほか、国外からの(情報)詐取、買収、国家秘密または情報の違法な提供の罪に問われかねない」

 情報化が伸展した時代において、ネットワークは各国がオープンソース情報を入手する重要なチャンネルとなり、インターネットは各国が諜報と防諜、スパイと対スパイ、窃盗と対窃盗が繰り広げられる戦場となっている。

国際関係学院 畢雁英副院長「現在、多くのニュースメディアや軍事産業のウェブサイト、軍事装備展覧会などは何れも多くの軍事ファンに対して軍事装備の外観、形式、データなどを権威ある形で提供しており、軍事ファンはこれらを通じて合法的に趣味の情報を満足させることができるはず。決して軍事禁区(訳注:軍事管制区)に侵入したり、不法な撮影や軍事装備品に関する機微は情報を流布させるようなことは絶対にしないこと。多くの軍事ファンが国家安全への意識を強化し、国家安全に関する法律への知識を強化し、皆さんが好きな趣味を国家安全の強化と強軍戦備の大きな力と変えるように望みます」

 第20回党大会報告は、国家安全は民族復興の基礎であると指摘している。 社会全体が総体国家安全観について揺るぎなく実行し、国家安全への意識を高め、国家安全のリテラシーを培うべきである。多く軍事ファンが常に国家安全保障の紐帯を引き締め、責任ある趣味を以て強固なファイアウォールを築き、共に国家安全と国益を守ることを願っている。


(訳者コメント)

 長文をお読みいただき感謝しております。
 以下は私の雑感です。

 中国において軍事施設などにおいての写真撮影は、今回紹介したような結果を生むことがおわかりいただけたと思います。過去、日本のジャーナリストの方や自衛隊関係者でも解放軍施設近傍で撮影や視察などの行為により拘束されています。ずいぶんと前の話ですが、私の知り合いも中国で拘束されています。

 こうした違法な撮影などの行為を厳格に戒める一方で、近年は基地や艦艇などの一般への公開が各地で行われるようになりました。主として国内の方を対象にしたものですが、国家安全部や解放軍などの間で一定程度公開する必要性を認識した可能性があるようにも考えています。

 中国において「総体国家安全観」という概念が提起された以後、このような「厳格化」の流れは強くなっているように思われます。番組中でも紹介されていますが、ウェブににおいて「外国のスパイが混じっている」かのように強調されているのは中国らしいと感じました。

 こういった「ピリピリ」感は以前から感じていました。10年ほど前になるのですが、中国のミリオタBBSに出入りしていたところ、誰もが閲覧できるようにされていたある解放軍兵器の情報について「なぜ外国人のお前が感心を持つのだ?」と言われたことがあります。

 また、私は中国から書籍などを取り寄せたりすることがよくあるのですが、ごく最近、解放軍絡みの出版社が出した本を購入しようとしたところ「あなたの国には出荷できない」と断られてしまいました。国内の情報管理についてもさることながら、最近、外国人に対する警戒感のようなものは以前にも増して高まっているような気もします。

(終)

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