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連載小説 もりぐち人生劇場 高校編 第19話『出会い』

高校二年生。

ネバーランドでのライブを控えている中で、僕はいつの間にか学年が一つレベルアップしていた。

一年の時よりは少しばかりイキリンピック病がマシになっていたので、新しいクラスでも何となくクラスメイトと話が出来るぐらいには回復していた。

けどそれぐらい。
これと言って学校生活に何か大きな変化があった訳じゃない。

僕は完全に意識が外に向いていた。

いや、僕だけじゃない。

他のクソガキのメンバーも「スタオベのライブ」にかなり触発されその結果。

——音楽スタジオに入浸るようになっていた。

部室での練習はほとんどなくなり、学校が終わればすぐにスタジオに行く。

その流れがクソガキの中で出来ていた。

そして、今日もスタジオの客席では学生服の少年四人組がテーブルを囲んで、あれやこれやとミーティングをする。

「……どうかな?」

イトウが恐る恐る切り出す。

「うん、めっちゃいいやん」

「確かに」

「ええな。バラードなかったし」

ラジカセから流れるイトウの新曲「僕のすべて」のデモ音源を聞いて、僕たちは率直な感想を述べた。

「それにしてもみっちゃんかぁ」

とタツタはニヤニヤしながらイトウをイジる。

「……ええやん」

この新曲はイトウが1年の時に同じクラスだったみっちゃんに向けて作った恋愛ソングだ。

「告るん?」

「……そのうち」

イトウの言葉の後、

「「「おぉぉぉぉー」」」

と少年達は湧いた。あー実に甘酸っぱい。

「てか、なんかもう恋愛バンドみたいになってない?」

「確かに恋愛の曲多いな」

タツタとクオリがニヤニヤしながら僕とイトウに視線を送り僕は。

「好きなもんはしゃーないやろ」

と開き直る。

結局、僕は新たに一曲。そしてイトウは三曲も作るという才能を一気に開花させていた。
当初の太陽族のコピーをするという予定もなくなり、クソガキのオリジナル全5曲が揃う。

イトウの新曲

「僕のすべて」
「夜空」
「ありがとう」

僕の新曲

「絆〜クソガキのテーマ〜」

その後、僕たちは改めてネバラン用の曲順を考える。色々と意見を出し合い取り敢えずこの順番に決まった。

1 絆〜クソガキのテーマ〜
2 夜空
3 僕のすべて
4 片想い
5 ありがとう

うん、何か全部オリジナル曲ってテンションが上がる。
後はどんどん新曲のアレンジを考えてクオリティを上げていく。

しかし、根本的に僕たちには悩みがあった。

「演奏力やな……」

「確かに。俺もハープもっと練習するわ」

イトウと僕はそう言った。

僕のハープもまだ上手く吹けてなかったし、この前のライブを見てから自分達の演奏の低さに絶望していた。

どうにかレベルを上げなくちゃいけない。

けど、具体的にどうすれば良くなるのかが、その時の僕たちには良く分からなかった。

「……」
「……」
「……」
「……」

それぞれが頭を悩ませていた瞬間。

「あぁぁぁぁぁーーアッツ!!!!!!」

と馬鹿デカイ声が背後から聞こえる。

僕たちはビクッとなり、その声の方に視線を向けた。

「おぉーお疲れさん!」

そう言って、上半身裸の状態で現れた人物。

はい、毎度お馴染みのスタオベのカネムラさん。

何これ? デジャブ?

僕たちは

「「「「お疲れさまです!」」」」

と、全力で挨拶をする。

そして「おぅ」と言って僕の隣に座った。

安定の上半身裸。

僕は上半身に注意を奪われないよう、カネムラさんの目をしっかりと見て。

「この前のライブめちゃくちゃカッコ良かったです!!」

と伝えた。

「まあな」

と一言だけ返ってくる。何か余裕って感じだなこの人。

「あの……演奏力ってどうすれば上がりますかね?」

イトウが恐る恐る話しかける。

「おぉ」

カネムラさんは僕たちの空気を感じ取り、真剣なトーンで言う。

「自分達はどんな演奏をしてるかってのを客観的に知らんとあかん。スタジオでエアー録りして確認するのが基本やけどもっと分かりやすい方法がある」

カネムラさんはしっかりと僕たちの目を見て。

「レコーディングや」

「レコーディング?」

「うん。一回やるだけでめちゃくちゃ勉強なる。CDも出来て物販にもなるし最高や」

「レコーディングってどこで出来るんですか?」

僕は素朴の疑問を聞いた。

「このスタジオで出来るで。エンジニアの人がいてるんだやけど……」

その瞬間。
入り口の扉が開く。

「おはよー」

そう言って、少し長めで茶髪の男の人が現れる。

何か大人っぽい。年齢は20代後半ってところだろうか?

「タイミングやば!」

とカネムラさんは言い、椅子から立ち上がって。

「あ。ヨシユキさん。おはようございます!この前のギターどんな感じですかね?」

「もうちょい時間かかるわ。結構ネック反ってたなぁ」

「そうなんですね!すみません、お願いします。で、ヨシユキさん。こいつら何ですけど実はレコーディングに興味あるみたいで」

「あ、そうなん?」

「……えーっとバンド名なんやっけ?」

「クソガキです」

「そう、クソ坊主」

「いや……全然違——」

僕が突っ込むよりも早くカネムラさんは。

「ちょっと面倒見たってもらえないっすか?」

と言ってくれる。

ヨシユキさんは僕たち一人一人に視線を送っていた。

それがバンド「クソガキ」とエンジニアのヨシユキさんとの出会い。

そして僕にとっては大きく人生を変える出会い。

初めてのメンターだった。

つづく

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